小島正憲の凝視中国

中国バブル崩壊は秒読みか? (未完) 


中国バブル崩壊は秒読みか? (未完) 
12.AUG.11

 「エコノミスト 8/2特大号」誌は、「崩壊へ秒読み 中国バブル」という特集を組んでいる。
 このテーマにつられて、この特集を読んでみたが、中味はあまり新鮮味のないものであり、ことに「秒読み」の根拠は薄弱であった。今回は、以下の項目を立て、粗削りでかつ論証抜きで、私なりに中国経済のバブル崩壊を解析してみる。なお、今年中には、「現代中国情勢研究会」でこれを取り上げ、私の解析を俎上に載せ、検討してみたい。その意味でこの小論は未完である。

1.バブル経済とはどのようなものか?
2.現在の中国経済はバブルか?
3.中国経済のバブルはいつ崩壊するか?
4.バブル経済崩壊後の中国社会はどのような形になるか?
5.中国経済バブル崩壊時に、損をしない方法は?
6.中国経済バブル崩壊時に、儲ける方法は?

1.バブル経済とはどのようなものか?

 私は日本で、バブル経済を3度も経験した。最初はオイルショック直後の狂乱物価のときである。市場からトイレットペーパーや洗剤がなくなり、主婦は買い出しに狂奔した。ちょうど当社は増築中であり、セメントが暴騰し工事が中断してしまった。また本業の方でも、衣服の縫製に使う肝心の黒と白の縫い糸が、買い占められて市場から消えてなくなり、工場が止まってしまった。2度目は田中角栄元首相の日本列島改造のときの土地ブームであった。私の周囲の人たちも、北海道の原野や人跡未踏の山林などを、われ先にと高値で買い求めた。3度目が、1980年代後半から始まる本格的なバブル経済であった。 

 いずれのときも渦中の人々は、熱病に浮かされたように浮利を求めて走り回った。そこでは常識や道徳は無力だった。すべての人々が数年後には正気に戻ったが、手元には巨額の債務と虚無感だけが残った。しかしいずれの場合でもごく少数の人が大儲けをした。ここでは書けないが、その実例を私は身近で知っている。このように優勝劣敗・弱肉強食の資本主義社会には、その大小の違いこそあれバブル経済は周期的に生起するものであり、その現場に遭遇したほとんどの人々が、富める者も貧しき者も、資本家も労働者も、一種の集団ヒステリー状態に陥り、浮利を求めて狂奔するのである。そこで正気を保ち続けるのは、なかなか難しいことである。

ウィキペディアでは、「バブル経済とは、不動産や株式をはじめとした時価資産の資産価格が投機によって高騰し、資産価格高騰が誘引となってさらなる投機を引き寄せている状態の経済のこと。バブル経済は、実体経済の経済成長以上のペースで資産価格が上昇している状態であり、持続不可能な投機によって生み出された経済状態である」と書いている。まさに1980年代後半からの日本のバブル経済は、そのようなものであったし、それは国際金融資本によって演出されたという説が強い。そしてその後、更なる米国のドルの垂れ流しの結果、国際的なバブル転がしの先が中国に向かったと言われている。

2.現在の中国経済はバブルか?

@現在の中国経済はバブルである。
 昨年まで、中国のマンションなどの住宅の資産価格は暴騰しており、実態経済の経済成長とはかけ離れてしまった。たとえば沿岸部諸都市のマンション(2LDK換算)価格は100万元を超えており、そこに住む一般的なホワイトカラーの月給が3〜5000元程度なので、すでに手の届かない価格となっている。7〜8年前からマンションに投機資金や個人資金が流入した結果、北京や上海の新築マンションは今や、300万元を超える物件が多くなっている。昨年から、中国政府はマンション価格の高騰を抑えるために、個人の2軒目の購入の際の条件を厳しくしたり、各地で低額マンションの建設などに踏み出しているが、今年に入ってもまだその効果は出ておらず、マンション価格に下がる兆しはない。

 このマンションブームを当て込んだ投機資金が、各地にマンションを乱立させ、いわゆる鬼城現象を起こさせている。かつての日本に「土地神話」があったように、現在の中国では「13億人の中国人が住むには、まだまだマンションは不足しており、マンションの価格は下がらない」という「マンション神話」が大手を振って歩いている。その結果、現在、中国全土の津々浦々にマンションが林立してしまっている。誰もそれらのマンション数を総計していないので分からないが、ひょっとするとすでに中国人の居住必要数を上回っているかもしれないと、私は思っている。少なくとも地域的には、住民が3%を切り、マンションはほとんどが空室で、鬼城化しているところが出現しているのが現実である。一部のマスコミでは、「数年後には中国にも少子高齢化の大波が来るので、マンションは余ってくる」と警報を発しているが、集団ヒステリー状況に陥った中国人民は、今のところ聞く耳を持たず、2〜3軒目のマンション購入へ目を血走らせている。まさにマンションをめぐるこの状態は、中国のバブル経済を象徴している。

 中国における余裕資金は、マンションだけでなく他の商品も暴騰させている。もちろん絵画や骨董品も高騰しているが、食料品にもなだれ込み、高級ワインやニンニクなどの価格を法外に吊り上げている。東日本大震災の時には、それが塩の買い占め資金に回った。最近では、茅台酒「53度飛天」が高騰し、従来の定価の3倍になっているという。

A日本のバブル経済との共通点
・日本では1985年のプラザ合意以降、急激な円高が進んだ。その結果、国内に通貨の過剰流動性が発生した。
 中国では好調な輸出を背景に、人民元高が進行してきた。その結果、国内に通貨の過剰流動性が発生している。

・当時の中曽根内閣は日米貿易摩擦解消のために、国内需要の拡大を迫られており、公共事業の拡大政策をとった。リーマンショック後の中国は、4兆元の財政出動を行い、国内需要の急拡大で経済危機を乗り切ろうとした。

・当時の日本ではすでに2007〜8年には人口が減少に向かい土地の需要が減るという予測があったにもかかわらず、土地神話が根強く、投機資金が土地になだれ込み、地価高騰をもたらし、土地所有者などに含み益の幻想をもたせ、財布のひもを緩ませたため、消費景気が過熱した。
 中国では数年先に一人っ子による人口頭打ち、マンション過剰が懸念されているにもかかわらず、マンション神話が根強く、投機資金がマンションになだれ込み、マンション高騰をもたらし、マンション所有者などに含み益の幻想をもたせ、財布のひもをゆるませており、身分不相応な消費に走らせており、消費景気が過熱している。

・当時の日本では、金融や資産運用で大幅な利益をあげることが、財テクともてはやされ、企業が本業でコツコツと儲けるのが軽視された。
 中国では、企業経営者がインフォーマル金融の活用を含め、一般金融やマンション運用などで短期的に大幅な利益をあげることに血眼となり、工場経営などの実業で着実に利益をあげることを軽視するようになっている。

・当時の日本では、金余りの商社や土地を担保に大金を借り入れた中小企業のオーナーが海外の不動産や企業を買収することが流行った。当時、日本人は東京23区の地価でアメリカ全土が買えると豪語していた。
 中国は現在、「走出去」という掛け声のもと、海外投資がさかんとなっており、全世界の資源や企業を買い漁っている。

・円高のため、海外旅行する日本人が激増し、旅行先で豪勢な買い物をしたりして、成金丸出しで顰蹙をかっていた。中国人は団体で大量に欧米旅行などに出かけるようになり、旅行先でかつての日本人より派手に買い物をしている。

B日本のバブル経済との相違点
・日本のバブル景気当時は、産業構造の転換を自力で成し遂げ、世界に冠たる技術立国となっていた。
 現在の中国は、他力依存の国で外資なしでは自立できず、産業構造の転換も他国への依存で乗り切ろうとしている。

・当時の日本は、法治国家として金融面も整備され、サラ金や商工ローンにも監視の目が光っていたし、地上げなどについてもマスコミなどの批判を受け、大々的にはできない風潮であった。
 中国では、インフォーマル金融が中国全土を覆っており、その全貌はだれもまったく把握できていない。また政府などによる土地の強制収用も多発しており、頻発する暴動の一因となっている。また法治が徹底しておらず、中国全土で、もぐり企業が活発に営業を行っており、それらが実態経済に与える影響ははかりしれない。

・日本では土地神話があり、土地への投機がバブル経済の大きな要因となっていた。
 中国では、土地が国有のため、その使用権しか売買できないし、それも政府のコントロール下にあり、一般的に自由に売買することが難しい。したがって極端な値上がりをしている土地は、住宅用地や一部の商業用地であり、工業用地は「中国が世界の工場」から退出した影響で、一部ではすでに需要不足になっている。

・日本のバブル崩壊時、株は38,915円(1989年12月29日)の最高値から、わずか9か月で20,000円割れの半値となった。株価はその後も下げ続け、今ではとうとう1/4になってしまっている。
 中国では、株は2007年末にバブル崩壊ずみである。2007年末に上海総合指数は6,000を超え、最高値をつけたが、半年後の08年中盤には2,000を切り、1/3に下がった。それでも不思議なことに、だれもマンションから飛び降りなかった。今でも、2,500近辺をうろうろしている。

・日本のバブルは、土地、住宅、株、ゴルフの会員権、絵画、骨董品などが対象であり、総合的であった。
 中国の現在のバブルは、マンションに限定されたバブルと言える。その点で米国のサブプライムショックに似ている。

・日本のバブル期には、民間企業などが好景気を背景に求人を増やしたため、就職は超売り手市場となった。
 現在の中国の大卒は、学生の選り好みが激しいこともあって、就職難が問題視されている。

C「中国は世界の工場」のからくり
・現代中国はケ小平の改革開放政策から始まった。ケ小平は毛沢東の「自力更生」をかなぐり捨て、外資に安い賃金の労働者と国土を売り渡し、他力依存で経済の浮揚を図った。その作戦は見事に当たり、南巡講話以降、外資が資金と技術を持って中国になだれ込み、その結果、1991〜94年、中国経済は破竹の勢いで伸びた。ここに「中国は世界の工場」が、他力依存、つまり外資の全面的な影響下で成立した。

・中国政府は外資が土地使用権を高値で購入することに味をしめ、それを大々的に行うことによって、そこからインフラ整備などの資金を捻出した。このころ全国各地に無許可の工業団地が乱立した。またここに巨額の資金が動いたため、腐敗、汚職の温床となり、それは次第に高額となっていった。

・外資は土地使用権を購入したが、それは自由に売買できず、土地転がしなどで儲ける目論見は失敗した。

・1994年、朱鎔基は景気の過熱を押さえながらも、大幅な人民元切り下げを行い、「世界の工場」の作り出した製品を先進各国に格安で売り出した。外資の資金、技術力、営業力などと、中国人民の勤勉さが相俟って、中国製品はたちどころに世界を席巻し、中国に大幅な貿易黒字をもたらすようになった。この黒字の大半は外資に帰属するものであったが、中国政府はそれを明示せず、中国人の大国意識の高揚に利用した。

・外資に牽引されて、中国人の中にも事業家が現れ、富裕層も出現し始め、それらが株やマンションに余裕資金を回すようになった。もちろん外資もマンションや株のブームに便乗した。

・13億人を擁する中国にも、2003年ごろから人手不足現象が現れ始め、安い労働力が枯渇し始めた。そこへ胡錦濤主席が北京五輪を控えて新労働契約法の施行に踏み切った。その結果、中国からいっせいに労働集約型の外資が逃げ出した。中国政府はいそいで自力更生で産業構造の転換を目指したが頓挫した。中国経済は不景気に直面し、2008年7月、内需の活性化のために下郷政策などを実施した。

・2008年9月、リーマンショックが中国を襲った。中国政府は外需不足を恐れ、実施中内需活性化政策を思い切って拡大するために、財政規律を無視してヤケクソ4兆元を繰り出した。その結果、世界各国に先駆けて景気が浮揚し、中国が世界経済を牽引していくかのような幻想を振りまくことに成功した。

・現在、中国は労働集約型の「世界の工場」から、先端産業、知識集約型、ハイテク産業の「世界の工場」に構造転換することを目指し、これまた手っ取り早く外資を導入することによって、達成しようとしている。

D「中国は世界の市場」のからくり
・中国は世界各国、ことに米国に怒濤のように製品を輸出したため、自国市場の開放を求められ、2002年、WTOに加盟することになった。その結果、今度は中国市場をめがけて、第3次産業の外資が大量に参入することになった。また中国市場に販売するための工場進出がメーンとなった。政府にとっては、これは無償の資金援助に相当し、予想外の事態であった。また外資が持ち込んだノウハウは中国社会を先進各国に近付け、北京五輪や上海万博を支障なく開催させるまでとなった。そして外資は内需を活性化させ、「中国は世界の市場」の幻想を振りまき続けるために大きな役割を果たすことになった。中国への外資の流入額が、「世界の工場」のときよりも、現在の「世界の市場」のときの方がはるかに多いというのは驚きである。その昔、「世界の工場」に進出した外資は、実際に工場を稼働させ実益をあげてきたが、「世界の市場」に進出した外資が大儲けしたという話は、今のところ少ない。

・もともと中国の内需は、「世界の市場」と言われるような規模ではなかったが、中国政府のヤケクソ4兆元の財政出動の結果、中国全土のすみずみにまで、一大消費ブームが湧き起こった。地方政府も大量に地方債を発行するなどして、インフラ投資、ことにマンション建設を煽ったので、バブル現象が全土に蔓延することになった。

・マンション価格がバブル化しており、個人や外資が高価格でも競ってそれを購入するので、不動産会社は政府から建設用地を高値で買い取ってもかなり儲かる。政府は農民から土地をただ同然で強制収用して、それを不動産会社に高値で売りつける。このようにしてバブル経済を背景にして、不動産業者と政府の癒着の構図が完成した。この土地売り上げ代金は地方財政の補填に使われ、バラマキの源泉ともなっている。かなりの部分が社会保障基 金に組み入れられている都市も少なくない。もちろんその過程で政府役人たちの懐に入っている部分も相当な額に上っている。

・中国の内需は幻想であり、マンションはバブル化している。実際に商品があまり売れていないため、中国人は内需が幻想であることに気が付き始めている。しかしまだマンションがバブルであるとは思っていない。もしここでマンションブームが冷えれば、土地売却収入は激減し、地方政府のバラマキの源泉は半ば消滅する。

・現在、中国人民はこぞってバブル経済に酔いしれている。楽をして金儲けをしようとする人がほとんどで、中国経済の構造転換のため、自ら現場に立って汗を流し、その礎になろうとする人は少ない。

3.中国経済のバブルは、いつ崩壊するか?

@「中国は世界の市場」の幻想から、外資が目覚めたとき
 現在、外資は中国政府が演出した「中国は世界の市場」に、大金を持って、大挙して中国市場に参入している。しかし実際の中国内需は、中国政府の活性化政策の手じまいと共に、すでに冷え始めている。その実態は統計数値にも、ようやく現れ始めている。熱病に浮かされたように進出した外資は、これらの実態に直面してとまどい、やがて赤字に耐えきれず撤退を始めるであろう。最近、中国へ進出している外資は第3次産業が多く、それらは労働集約型の第2次産業と比べて、結論が出るのが早く、しかもその業態は撤退がしやすい。実際に中国市場で商品が売れないということになれば、外資は早々と撤退に踏み切り、中国から資金逃避が起きるであろう。実際に労働集約型外資の多くは、2010〜11年にかけて、中国から足早に、しかも見事に撤退してしまった。第3次産業外資が資金を引き揚げ始めるとき、中国経済のバブルは間違いなく崩壊する。

Aマンションが売れなくなったとき
 中国のマンション価格について、すでに「中国人の74%が高すぎて買えないと感じている」と報じられている。このところマンション価格は高止まりし、以前のような伸びを示してはいない。一般にこれはマンション価格の高騰阻止のための政府の政策の結果であると言われているが、その価格の高さの故に、多くの人が住宅購入を諦め始めた結果でもある。今や、マンションを投機目的で購入する人はいても、実際に自分が住む目的で購入する人は少なくなったと見るべきであろう。それに加えて、当然のことながら外資が撤退すれば、外人のマンション需要はなくなる。それが引き金になる可能性は大きい。

Bカネの切れ目
 産業構造の転換が頓挫し、内需不振で第3次産業外資の流入がストップすると、すでにかつて貿易黒字の主役であった労働集約型産業は中国から姿を消してしまっているため、貿易赤字という問題が浮上してくる。もちろん土地売却もままならず、税収もダウンし、国家財政は疲弊する。

 6月末、中国の会計検査院は、全国の地方政府債務の総額が10兆7174億元(133兆円)と中国のGDPの約3割に達すると発表した。このうち8割は土地使用権の売却収入を返済原資とした地方政府の銀行借り入れである。もともと、中国の地方政府は恒常的な財源不足の傾向にある。地方財政はかなり逼迫している。
 中央・地方ともに財政が疲弊すれば、バラマキの財源はなくなり、経済成長の幻想は消失する。

C人手不足
 8/10付けの日経新聞に、「中国“アメ・ムチ”統治の限界」という小論が載っていた。そこには「2015年ごろには中国でも労働力人口が減少に転じ、成長が減速する。中国社会科学院によると、中所得層の比率は23年前後には現在の37%から50%を突破する。国民が生活の質に“自由”を求めたとき、共産党はどう応えるのか。残された時間はあまりない」と書かれている。つまりこの小論では、「中国政府に残された時間はまだ10年ほどある」と踏んでいる。これは中国が2003年には人手不足になり、ルイス転換点を超え、実体経済の成長が減速した事実を見逃している。したがって中国に残された時間を10年ほどマイナスする必要があり、そのように考え直せば、本当に「残された時間はあまりない」。

D中国人が夢から覚めたとき
 改革開放以後、ケ小平の先富論に乗せられて、中国人はこぞってチャイニーズ・ドリームを追い求めてきた。その結果、たしかに金持ちに成り上がった中国人もいる。しかし本当に金持ちになったのは、おそらく1万人に1人ぐらいではないだろうか。ケ小平の南巡講話のときに、30歳代だった中国人は、今や50歳後半になり、手元に残ったわずかな金を勘定しながら、老後の生活の不安を前に、深い溜息をついているのではないだろうか。チャイニーズ・ドリームを追い求め、20年間、走り続けてきた中国人は、それが幻想であったことに気付き始めている。

 北京五輪・上海万博が終了し、今や、中国人を熱狂させるような国民的行事もなくなった。それどころか、中国では高速鉄道の衝突に見られるような大事故が相次ぎ、GDP世界第2位のメッキが剥げかけてきており、中国人はそれが幻想であったことに気付き、夢から覚めようとしている。

Eインフォーマル金融が破綻したとき
 中国のインフォーマル金融は、だれも正確にその実態を把握していない。法外な利息の高利貸しや、ネズミ講も野放図に広がっている。地方には頼母子講のようなものが無数にある。安利(アムウェイ)の支店が、中国全土に網の目のように張り巡らされており、街中の目抜き通りに大看板が掲げられていたり、空港の玄関に宣伝文句が踊っていたりする。これらに法の網はかけられていない。これらは人間関係だけを頼りにして連鎖しているだけに、困難に遭遇すると容易に破綻する。そして中国人の一攫千金の夢は、はかなく潰え去る。

4.バブル経済崩壊後の中国社会はどのような形になるか?

@それでも中国全土に暴動が起き、革命に転化する可能性は少ない
 かつて上海株が1/3に下落したとき、中国は暴動にはならなかった。高層ビルから飛び降りて自殺する者もいなかった。そのとき私は、中国人の頭の中では、株と博打が同居しており、それらで大損をしても大きな痛手とは感じないし、彼らはいわば投機慣れしていて、その結果を遊び感覚で受け入れているのではないかと考えたものである。しかも今度の中国経済のバブル状態は、マンションだけに集中的に現れており、株はバブル崩壊済みであり、土地については限定的である。またこのマンションバブルに巻き込まれている中国人は、富裕層に位置しており、これを契機にして暴動を起こし、政権を転覆させようと考える者は少ないだろう。いわゆる貧者の層は、マンションバブルの崩壊を歓迎するかもしれない。米国のサブプライムローンが破綻したときも、その痛手を直接被ったのは、銀行に口座を持てる中間層の人たちであり、銀行が相手にしないような極貧層の人たちにはそれは無縁であり、そこでは暴動は起こらなかった。したがって中国でも貧富の格差に不満を鬱積させている層が、バブル崩壊を機に暴動を起こす可能性は少ない。

 それでも多少の騒動は覚悟しておかねばならないだろう。米国のサブプライムショック時と同様の金融危機が起きる可能性が大である。中国政府はこの金融危機を乗り切るために、政権を一新する必要があるだろう。

Aそのとき外資はどう動くか?
 外資は中国全土にその勢力を根付かせており、中国の経済システムの中にその位置を確立している。したがって中国のバブル経済が崩壊しても、革命状態にならない限り、その権益を棄て大慌てで撤退するとは思えない。それでもこれらの外資がどのような行動を取るかで、崩壊後の社会の体制が大きく変わってくる。過去の例から見れば、日本の大企業はほとんどが中国から撤退するであろう。華僑系やユダヤ系の企業はしぶとく居残り、次の体制へ入り込むチャンスをうかがうはずである。

B第2の改革開放の可能性
 中国政府はバブル経済崩壊後の危機から脱するために、まず残った外資に援助を求め、更なる改革開放を行う可能性が大きい。そのために民主主義国への仲間入りを約束させられ、新たな政治体制に踏み切らされる可能性がある。
 その結果、中国が完全に門戸を開放し、世界が中国を救うことになる。同時に世界が中国を再収奪することにもなる。中国人民は隠忍自重を求められ、それまでの居丈高な態度を改めることになる。
 そのとき日本人は、中国人の惨状を救うべく、最大限の努力をすべきである。

Cそのとき軍部はどう動くか
 中国人民解放軍の首脳が、中国の惨状を嘆き、中国共産党の軛から外れ、革命を起こす可能性も残っている。いわゆる軍部の独走である。また対外的に強硬姿勢に打って出る可能性もある。しかしながらそのときは中国が財政的に破綻しており、国際的に孤立しているわけだから、その攻勢は長続きしない。

D鎖国の可能性
 毛沢東思想が復活し自力更生への道を選択することもある。つまり鎖国である。狂信的毛沢東主義者が集団的ヒステリー状況に陥った漢族を中心にして、その戦略をとる可能性がある。下の写真は最近、ネット上に現れた毛沢東思想への回帰を誘うものである。
 


(補)
 かつて私は中小企業のオーナー経営者であった。
 私が現役経営者ならば、この機を逃さず、次のような手を打つ。

4.中国経済バブル崩壊時に、損をしない方法

@「売り逃げ」
 伊藤忠商事の岡藤正広社長は、8/08付けの日経新聞の「中国経済のリスク」と題した小論で、「政治リスクを含めて中国事業には特有の難しさがあるが、相撲を取るには土俵に上がらざるを得ないように、企業としては中国市場という土俵で戦うしかない。…(中略)。もう一つは投資回収を急ぐことだ。中国ビジネスで上げた利益を現地で寝かせず、配当として日本に持ってくる。次の投資機会があれば、また中国に還流すればいい」と書いている。岡藤氏は中国経済がバブルであり、それがやがて崩壊するとは言っていないが、インフレリスクが大きいと指摘し、上記のように投資回収を急げと主張している。私もまったく同意見である。

 中国で、株や土地、マンションなどを購入し、それをタネに大儲けをするチャンスはすでに10年前までで終わっている。この数年、多くの日本人や日本企業が、証券会社や不動産業者などの甘言に乗せられて、中国へ押っ取り刀で駆け付けているが、すでに手遅れだ。それらの価格は天井に近く、今さら買ってみても利幅は少ない。

 私は株や不動産投資などは好きではない。なぜなら田中角栄元首相の日本列島改造論のときに、土地を買って大損をした人たちの骨肉相食む修羅場を見てきたし、日本のバブル経済崩壊のときに、立派な業績を誇っていた会社が倒産していくのを身近でいくつも目にしてきたからである。それらの様子を見ながら、もし必要に迫られてそれらに手を出さなければならない場合でも、自分なりに以下のような不動産購入の3条件を考え、それを守ろうと私は心に誓った。

@借金をして購入しない。つまり手持ち資金内で購入する。
A購入価格の2倍に値上がりしたら売却する。その後、さらに値上がりする可能性があっても欲をかかない。
B値下がりしても、そのとき自社用に使うことができる物件のみを購入する。

 案の定、中国に進出して10年ほど経ったとき、土地や株、マンションの購入話が浮上してきた。私はそのような話を極力避けてきたが、地元の有力者からの話を無碍に断るわけにもいかず、上記の3原則を守った上で、その話のいくつかに乗った。そのうちのある土地については、昨年すでに目標値を上回ったので、売却した。その経験から、中国での土地(使用権)の売買はとても難しく、日本人の素人が手を出すべき代物ではないということがわかった。その他の持ち分も、できうることならば今年中に処分したいと思っている。これらもすでに目標値を超えているからである。

 私が今、日本人に進めるのは、言葉は悪いが「売り逃げ」である。まだ中国人のほとんどがバブル経済は崩壊しないと思っているし、まだ中国人には「買い」の意思がある。したがって今が「売り」のチャンスなのである。しかし中国人の中でも少数ではあるが、目先の利く人はバブル経済が崩壊するのではないかと思うようになっている。だから今は、投機分だけでなく、投資したものについても、儲かっていれば配当で回収を急ぐべきだし、それ以外の方法でも合法的な手段で国外に持ち出すべきである。まだ中国に儲かるチャンスがあると思うのならば、いったん回収し利益を確定したのち、再チャレンジすればよい。

A人民元を持ちすぎないこと
 中国の人民元は、多額の貿易黒字や外貨準備高3兆ドルという中国政府自身の発表をもとに、現時点では元高の一方通行となっている。しかしその貿易黒字の過半が、外資が稼ぎ出したものであることや、外貨準備にまつわる中国の特異事情については報道されることがなく、人民元の強さが本物であるかどうかは疑わしい。外資の中には、今後の人民元の国際通貨化を予測して、中国での儲けを人民元で保有する企業が多いようだが、今のところ中国政府は資本の自由化を行う意思はまったくないので、人民元が国際通貨になることはあり得ない。

 ましてやバブル経済の崩壊ともなれば、外資はいっせいに中国から逃避する。当然のことながら、非合法的な手段なども総動員され、人民元は売られ、大きく元安に振れる。元高の幻想につられ、人民元を必要以上に持ちすぎないようにするべきである。

5.中国経済バブル崩壊時に、儲ける方法

@財宝の買い占め
 中国のバブル経済が崩壊し、体制の変更があった場合、そのとき必ず巷に、骨董品や絵画などの財宝が湧出してくる。どの国でも、動乱後は国外に脱出しようとする旧体制側の人間が、財宝を放出しドルや円の外貨に交換しようと狂奔するからである。私はこれを35年前に、ベトナム戦争終結直後のサイゴンの現地で体験した。詳しくは、拙著「アジアで勝つ」(P.9〜)をお読みいただきたい。もちろんそれらは破格の安値であるから、買い占めれば大儲けが可能である。

A中国のマンションや土地などを安値で購入
 バブル経済が崩壊するわけだから、ことにマンションや土地の価格が暴落する。そのとき次期の体制を見極めた上で、安全性をたしかめてマンションなどを安値で購入すればよい。沿岸部諸都市ならば、すぐに復興するので利用価値が出てきて、売却可能だと思われる。また自分で使用してもよい。土地の場合は、法律の変更の有無を勘案した上で、仕込んでおけばよい。

B逆張り経営
 バブル崩壊時には、それが革命に転化するかどうかはともかく、騒動や混乱は必至である。そうなった場合、日本企業の大半は中国から撤退するであろう。そのとき中国社会で、広範に略奪暴行が起きるような事態が起きれば、それはやむを得ないが、そうでなければ日本企業は中国に留まり、経営を続けるべきである。私の大先輩の株式会社サンテイの常川会長は、天安門事件のとき、撤退しないでむしろ事業を拡大した。そのことが地元で大きな信頼を勝ち取ることになり、その後の大成功につながった。今回も、日本企業はその再現を試みるべきだと思う。もちろんそれは中国の次期体制への強力な援護にもなる。

C日本や米国の不動産の購入と売却
 現在、日本や米国の不動産は底値に近い。これらの中の優良物件を購入しておけば、中国のバブル崩壊時に高値で売却可能である。なぜなら中国から旧体制側の人間や金持ちが、これらの国に大量に逃げ出し、居住物件を探すからである。米国でサブプライムローンが破綻し、住宅が極端な安値になったときでも、隣国カナダの住宅は高値を維持し続けた。カナダへ移住する中国人が多く、住宅需要が旺盛だからである。現在に至るもカナダの住宅は値下がりしていない。それどころか東日本大震災以後、バンクーバーでもリッチモンドなどの低地の住宅を買い求めていた中国人は、津波の恐れから高台に大挙して移動している。バブル経済崩壊時には、もっと大量の中国人が国外に移住するにちがいないし、米国はそれらの中国人を受け入れるはずだから、彼らに住宅を提供することは人道的でもある。

D中国人の海外資産の購入
 日本のバブル崩壊時、日本企業は海外資産を安値で放出した。中国のバブル経済崩壊時にも同様の現象が起きる。日本国内でも、中国人が購入した物件を安値で買い戻せばよい。