小島正憲の凝視中国

09年9月:暴動情報検証


09年9月:暴動情報検証 
22.OCT.09
 9月は暴動情報が少なかった。

 建国60周年の式典を控えて、当局が取締りを強化したのか、情報統制を厳しくしたのか、それは定かではない。

 そのような中で、重慶の近くで中学生の暴動が起きたという情報が入った。
 これは今後の中国の行方を見る上で、たいへんおもしろい事象だと思ったので調査に行ってきた。

 今月はその暴動情報の検証のみ。

 2.〜6.は未検証である。※暴動評価基準は文末に表示。


1.9/10 四川省瀘州市古藺県藺陽中学の生徒が学内騒動。 暴動レベル0。

・9/10、瀘州市古藺県藺陽中学で生徒の騒動が発生。

 生徒たちは寮の環境が劣悪なことを不服として、学校側に怒りを爆発させ騒ぎを起こした。騒動は夜まで続いたが、警察が催涙弾を発砲し鎮圧した。けが人はなし。

・藺陽中学では8月末から、新型インフルエンザの感染拡大を防ぐために、寮生の外出を禁止していた。

・9/10は教師への感謝と尊敬を表す「教師の日」であったが、寮内に留まっていた生徒は、連日の猛暑に気持ちを苛立たせていた。

 そのような中、女子寮の管理人が電気の節約のため、エアコンなどの使用を制限した。女子生徒が管理人室に使用許可を求めに行ったところ、管理人室だけは冷房が入っていたので、それに怒って大声で抗議を始めた。

 管理人との間で口論となったため、近くにいた男子生徒もその抗議に加わった。そのうちに興奮した男子生徒50数名が食堂に入り、ペットボトルなどを投げつけ窓ガラスを壊したり、近くにあった車をひっくり返した。

・その後、生徒1000人以上が騒ぎに加わり、さらに騒動が拡大した。生徒らはレンガ、石、棍棒などを持って、売店、食堂、管理人室などを破壊した。

 この騒動を鎮めるために駆けつけた校長を一時拘束する一幕もあった。

・学校側は警察に通報し、地元警察20名ほどが校内に入ったが鎮められなかったので、武装警察が出動し門前から催涙弾を発砲し、騒動は11日の午前4時半ごろ鎮静化した。

    

※上記の画像は、騒動直後のネット上から

・8名の生徒がガス中毒、2名がガラスの破片で、病院に運ばれたが、いずれも軽傷。

・瀘州市古藺県は、重慶空港からバスで8時間ほど走ったところにあり、貴州省との省境にある街である。毛沢東が長征途中で名作戦を展開した「赤水」の近くである。県内の人口は81万人であり、石炭産業などで結構栄えている。

・10/15の時点では、藺陽中学周辺は平静であった。しかし正門内のすぐ横に、公安の臨時派出所ができており(写真参照)、関係者以外の出入りが厳しくチェックされており、校内へ入ることは難しかった。正門を入ったすぐの場所で基礎工事が行われ始めていたが、どのような建物かは確認できなかった。

 仕方がないので裏門に回ったが、そこに至る道路も工事中(9/30開始)であり、一般人の通行は監視されていた。なんとかすり抜け、裏門の隙間から写真を撮った。

    

    藺陽中学正門前            校 舎              裏 門            裏門から見た校庭

    

    下校途中の生徒       近所の食堂で食事する生徒     工事中の通学路            校 舎

 ※上記写真は10/15時点での映像

・通行中の教師に声をかけたが、いずれも硬い表情で応答がなかった。生徒たちに聞いてみても、ほとんどが詳しいことを語らなかった。近所の小売店で様子を聞いてみても、騒動の確認はできたが、それ以上の話は聞けなかった。

・やっと食事中の生徒たちから、私もいっしょに一杯5元のラーメンをすすりながら、次の情報を聞いた。

 この学校は数年前まで中学生もいたが、現在は高校生ばかりである。4千人ほどの生徒数で、その多くが寮生である。寮費は重慶市内よりも高いのに、食事はまずく、部屋は狭く、断水と停電が頻繁にある。寮生のほとんどが不満を持っていた。

 一部の教師も、自らの処遇について学校側に不満を持っていた。

 9/10には1000人ほどの生徒が暴れた。首謀者数十人は現在も校内で教育中である。騒動後、学校側の責任者は処分された。

(私見)

・古藺県藺陽中学の騒動は、中学生ではなくて高校の生徒であった。

・日本でも高校が荒れた時代があったが、武装警察が催涙弾を発砲しなければならないような騒動はなかったと思う。

 中国の田舎の高校生が日常生活の中での単純な不平不満が原因で、学校関係者が収拾不能なほどのヒステリックな集団騒動を起こしたことは、彼らが今後の中国を担う若者だけに、私はそこにきわめて大きな不安を感じる。

 この騒動からは幼児が駄々をこねて、物を投げつけるような幼稚性を感じるからである。

 私はこの1年半の暴動調査の中間結論の中で、中国人の中には、さしたる理由もなく騒動を起こすような性格(幼稚性・野次馬性)があると指摘してきたが、それが成人の中だけでなく、高校生の中にも蔓延しているとするならば、今後の中国の暴動は意外な展開を見せる可能性があるからである。

 むしろ中国では、一人っ子政策の結果、若者がわがまま放題に育っているので、彼らが今回のような不平不満の爆発を、その幼稚性から卒業できず、成人してからも起こす可能性が大きいと考えるべきかもしれない。

 少数民族の暴動よりも、この影響が今後の中国の動向を左右するのではないだろうか。

 中国ウォッチャー各位に、このような角度から研究を進めてもらいたいと思う。


2.8/24〜27 甘粛省蘭州市で銀行員200人スト。  暴動レベル0。


・蘭州市の工商銀行の従業員200人以上がリストラに反対し、4日間にわたるストを決行。

・工商銀行は、銀行業務の電算化にともない、手作業しかできない従業員を解雇すると発表した。銀行側は定年までの残り年数分の給与を支払うと約束したが、該当する従業員はほとんどが高齢者のため、他所に再就職するわけにはいかず、途方にくれた。

・従業員は25日、省の工商銀行本部前で、「詐欺反対、仕事を返せ」という横断幕を掲げ座り込んだ。

・工商銀行側が、10/01の国慶節間近でもあり、善処する旨の回答を行ったため、ひとまず座り込みは中断。


3.9/13 山西省臨汾市浮山県で、キリスト教系の工場が強制撤去。反対した信者が負傷。 暴動レベル1。


・9/13早朝、臨汾市浮山県の「中国キリスト教会」が建設中であった靴工場が、警察当局によって強制撤去された。

・警察は400人を動員し、ブルドーザーやシャベルカーで、一気に建物を取り壊した。

・撤去に抵抗した信者など7人が、警察から暴行を受け負傷し、病院に運ばれた。

・この建物は最大で400人が収容できるようになっており、靴の製造を行う以外に、集会所として使用する予定だった。


4.9/16 青海省玉樹チベット族自治州嚢謙県の大型音楽祭で、ラマ教僧侶が抗議行動。 暴動レベル0。


・9/16午後5時ごろ、玉樹チベット族自治州嚢謙県のラマ教寺院前で、地元チベット企業団体が大型音楽祭を開催していたところ、突如、数名のラマ教僧侶が会場内にチベット旗を掲げ参入。会場内の参加者を扇動し、大声で政府当局を糾弾した。警察が駆けつけたときは、すでに僧侶たちが姿をくらました後だった。

・僧侶たちは、数日前に当局と些細なことが原因で口論となり拘束された2名の同僚の釈放を要求した。


5.9/17 福建省竜陽市上杭県蛟洋開発区で鉛汚染に抗議。 暴動レベル0。


・竜陽市上杭県蛟洋開発区にある華強電池工場からの廃液で、周辺農村が鉛に汚染され、児童らが鉛中毒になった。住民数百人が地元政府に押しかけ抗議行動を行ったが、解決せず。

・村の学校で100人の生徒を診察したところ、65名が鉛中毒であった。村民は児童を多村に転学させるなど、自衛措置を取っている。


≪私の暴動評価基準≫

暴動レベル0 : 抗議行動のみ 破壊なし

暴動レベル1 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以下(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ

暴動レベル2 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以上(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ 

暴動レベル3 : 破壊活動を含む抗議行動 一般商店への略奪暴行を含む  

暴動レベル4 : 偶発的殺人を伴った破壊活動

暴動レベル5 : テロなど計画的殺人および大量破壊活動