小島正憲の凝視中国

カルフールとイトーヨーカドー


カルフールとイトーヨーカドー
05.AUG.09
 今や中国の内需が、世界経済を金融危機の奈落の底から引っ張り上げる神の手になりつつある。

 そこで今回は、中国の小売り戦場で一人勝ちしているカルフール(136店舗)と、健闘しているイトーヨーカドー(成都4+北京9=13店舗)を取り上げてみる。


1.カルフール


@カルフールは、1958年にフランス人のマルセル・フルニエがパリ近郊に、スーパーマーケットの第1号店を出店
  したところから始まった。店舗内には、オートウォークと呼ばれるスロープ方式のエスカレーターがあり、ローラー
  スケートを履いた案内係がいるなどの特徴を持っている。現在では米国のウォルマートに次ぐ世界第2位の総合
  小売業となっている。


A日本進出は失敗。カルフールは、2000年12月に日本で1号店を開いた。当時は日本のスーパー業界に黒船
  襲来と騒がれたが、その後の業績は伸びず赤字が累積したため、8店舗まで拡大後、2005年3月イオン売却し
  撤退した。本国のカルフールの店舗の特徴のオートウォークなどの販売形式がそのまま持ち込まれた日本人の
  強いナショナルブランド志向や飽きっぽいなどの特性がつかめなかったことや、スーパー業界が激戦区であった
  こと、大店立地法などの規制などが失敗要因としてあげられている。韓国にも進出したが、2006年に撤退した。


B中国進出大成功。カルフールは、1995年に北京で第1号店を開いた。中国にスーパーという業態がまだなかっ
  た時代で、「超市」という用語はカルフールの代名詞となり、この業界でのデファクトスタンダードを確立した。
  中国語ではカルフールを「家福楽」と訳しており、ネーミングも素晴らしい。
  その後、順調に発展し、現在では中国全土に136店舗を持っている。
  07年度の売り上げは248億元(約3600億円)。現在多くの店舗が発展的に独資へ移行中。
  営業面積は小さいものでは8600u、大きい場所だと14000uほど。


C成功の原因。

・14年前から「中国は世界の市場」として認識し、中国全土で大掛かりな店舗展開に取り組んだ。
 まだ中国にスーパーという業態がなかったときで、いわば先手必勝という状態であった。

・店舗運営には中国人管理者への権限委譲を徹底しており、各店舗の商品構成にはかなり独自性があり、地域密
 着型となっている。価格も出展地域の消費者ニーズに合わせ、常にライバル店よりも数%安く設定するシステム
 にしているという。

・店舗内は広くて開放的で常に店頭イベントなどを行い、家族連れ顧客を引き付けるなど、その地域のレジャー施
 設の役割も果たすようになっている。カルフールのほとんどの店舗で、レジにはいつも買い物客が長蛇の列を作っ
 ているが、そこにはあまりいらだっている人を見かけず、それをも楽しんでいるようである。店内では日本のスー
 パーの2倍ほどの大きさのカートに商品を満載した買い物客でごった返している。さすがに最近では、キャリーバ
 ッグのような小ぶりの買い物かごが導入され、若干、混雑が緩和された。商品の陳列方法や店舗内の清掃状態
 などについては十分とはいえないが、外部の青空市場などと比べれば格段の差があり、外国人などの買い物客も
 結構多い。


D2008年、チベット問題へのサルコジ仏大統領の発言をめぐって、中国全土のカルフールの店舗で反仏不買運
  動が起こった。しかしカルフールが四川省大地震への義捐金を大奮発したことなども効果を発揮し、程なくして沈
  静化。


2.イトーヨーカドー


@イトーヨーカドーは日本を代表するスーパーマーケットであり、1920年創業、2009年度で資本金は400億円、
  売上高約1兆4500億円、従業員数約42000名、店舗数179店舗。

A中国には、1996年12月、四川省成都に第1号店をオープン。2009年までに3店舗までに拡大、今後同市内
  で6号店まで計画中。さらに重慶、西安、昆明などの諸都市への進出を検討中。またインターネット販売事業も開
  始し、すでに会員数は1万3千人を超え、09年中には3万人に達する模様。経営形態は異なるが、北京にはす
  でに9店舗を構えており、拡大中。売上高は一貫して前年対比2割増。

B成功の要因。

・13年前から「中国は世界の市場」として認識し、まず中国奥地の四川省成都に布石し、その後慎重に拡大。中国
 ではスーパーとしての店舗形式を取らず、むしろ百貨店のようなイメージを打ち出した。

・その後、消費者の高級志向や安全志向の波に乗って、顧客を順調に拡大。青果物の50%は無農薬のものを販
 売。

・日本人総経理以下、日本人派遣社員は現地従業員との信頼関係構築に心を注いでいる。

・顧客から愛され、信頼されるように従業員教育を徹底し、周辺地域で好評。マスコミなどになんども取り上げられ
 る。

C2005年には、反日騒動に巻き込まれ、デモや不買運動が起きたが、ほどなくして平常に戻った。日ごろからの
  地域貢献や従業員教育の結果だと考えられる。

D2008年、四川省大地震が起きたときには、店舗や従業員に被害はなかったものの、成都の街には大きな被害
  がでた。イトーヨーカドーは震災翌日から営業を開始し、テント、雨具、水や食糧などを市民に提供した。まだ他
  店が営業を再開しておらず、市民や行政から感謝された。また被災当日から、支援活動を積極的に行った。


3.「両社は1日にして成らず」


@両社の勝因は、「中国は世界の市場」を認識し、10数年前に中国に進出していることである。「中国は世界の市
  場」という認識が一般化してきたのは、2001年末、中国がWTO加盟を表明してからのことであり、両社はそれに
  約10年先んじていたわけである。進出後、試行錯誤を繰り返しながら、中国の消費者に密着した店舗運営方法
  を探り当て、今日の成功を勝ち取ってきたのである。今頃になって、押っ取り刀で中国に進出したわけではない。

※私は2001年に、中小企業の中国市場進出の手助けをしようと考え、上海マート内に上海日本服装商城を設
  け、日本アパレル企業の中国売り込みの足がかりを用意した。5階に200社分のスペースを準備し、成功すれ
  ばそれが日本企業の中国市場攻略の橋頭堡になると確信していた。しかし残念ながら、予想に反し勇躍して中
  国へ乗り込んできた企業は数社しかなく、このアイディアは計画倒れに終わった。もちろん私は大損した。この経
  過については、拙著「中国ありのまま仕事事情」:P.70の「三年遅れの中国市場進出」に詳しく書いておいたの
  で、参照していただきたい。

A両社は、ともに外資として反日・反仏不買運動という過酷な試練を乗り越え、中国に根を張ってきた。これには他
  社は、一朝一夕では追いつけない。新規参入者はよほど強力な武器つまり商品を持つか、新規の販売方式を持
  ち込まない限り、この両社には勝てない。

Bもはや「中国は世界の市場」の時代は終わった。最近、ある雑誌で、「中国市場に舵を切れ!」という特集が組ま
  れた。このような宣伝に釣られて中国に市場進出してみても、両社からほぼ15年遅れ、私の試行よりも8年遅れ
  であり、もはや中国に大儲けできる市場としてのうまみはない。もちろん閉塞した日本市場に見切りをつけ、生き
  残りを賭けて中国に進出することに反対しているわけではない。大儲けできるチャンスは終わったといっているの
  である。

Cしからば今後の中国にいかなる商機・勝機があるのか。一般にビジネスの大儲けの原則はハイリスク・ハイリタ
  ーンであるといわれている。カルフールもイトーヨーカドーもハイリスクをとったから、大儲けできたのである。した
 がって現在、ハイリスクと思われている地域やハイリスクのある業界に進出することが狙い目である。中国でもハ
 イリスクのある地域を狙うか、あるいは中国以外の地域へ行くか、それとも中国でもハイリスクのある業界に進出
 するか。あるいは、いずれ中国もバブル経済に巻き込まれることは必至だから、そのことを織り込み済みで、それ
 以降で大儲けを企む戦略を取るか。いずれにせよ中途半端な心構えでは商機・勝機をつかむことはできない。


附.北京のイトーヨーカドーとカルフールを訪ねて     中村 香央里  (中小企業家同友会上海倶楽部 北京特派員)

@イトーヨーカドーを訪ねて。

 イトーヨーカドーはスーパーというよりも、百貨店に近いイメージである。建物自体も個別になっているなど、独立した営業スペースをもっている。

 今回訪れたのは西直門店であるが、建物の全てが販売スペースとなっており、1階は化粧品売り場、2階と3階は衣料品、4階が電化製品、日用品等、そして地下が食料品売り場となっている。各階には飲食店もあり、ほとんど日本のデパートと変わらない作りである。


                   

       ヨーカ堂商場               1F化粧品売り場                  婦人服売り場

 飲食店はマクドナルド、サイゼリア、また中国式のうどん屋などで、それほど値段も高くなく、気軽に利用できるものが多い。

 商品は、衣料品では日本のブランド(例えばOZOC)などがあり、また中国のブランドでも認知度の高いものが多い。ただし高級ブランド店は入っていない。日本の製品が多いので値段が安いというイメージはない。食料品に関しては、全体的に、他のスーパーに比べ値段は高いが、生鮮食品は包装がきちんとされており、鮮度は保たれている。肉、魚などの衛生管理もよい。日系の店であるので、日本の食材などが多く、また、惣菜ではおにぎりなども売っている。

 客層は主に中流―上流層が多い。レジなどもあまり混雑しておらず買い物はしやすい。また店員も大変親切である。

Aカルフールを訪ねて。

 私が今回訪れた店舗は、中国の秋葉原といわれる電気街の真ん中にあるカルフールである。電気街ではあるが、地下に巨大なショッピングセンターが広がっており、ここの一部にカルフールが入っている。 他のカルフールの店舗でも、別のテナントと複合して同じ建物に入っている場合が多い。

 このカルフールでは2フロアを利用しているので、1フロアあたりがかなり広い。そのためか、必要なものを探すのが大変である。

        

 カルフール入り口(売り場は地下)  入り口すぐの衣料品売り場      食料品売り場           レジに並ぶ人々

 上のフロアには家電から、衣類、文房具などの日用品まですべてを取り揃えている。下のフロアには食料品の他、化粧品、洗剤などが陳列されている。家電などは中国製が多く、値段は安い。また衣類などは低価格商品が多いが品質はあまりよくない。(カルフールの95%の商品は現地の卸業者から買い付けている。)

 食料品がメインで、野菜などの種類も大変豊富である。価格も中国式の市場で買うより少し高い程度であり、産地なども記載されているので安心感はある。有機食材など値段の高いものは個別包装されているが、その他はほとんどが量り売りである。

 夕方や週末は多くの人でごった返し、ショッピングカートが通れないほどになる。またレジは1時間ほど並らばないといけない。店員は無愛想で品物の場所を聞いてもあまり把握していないのか、答えが返ってくることは少ない。

B両社を比較してみると。

 ヨーカ堂の顧客はその値段から、中から上所得層がメインのようである。スーパーではなくデパートと言える。客のマナーも比較的良く、気持ちよく買い物ができる。その反面、カルフールは庶民的なスーパーである。それでも昔ながらの中国の市場に比べ、衛生状態もよく、安心して品物が買えることで大変人気である。サービスは良いとはいえないが、中国に根付いた販売方式で、次々と店舗を増やしている。
 もちろん北京は豊かな都市であるため、一般市民は気軽に利用できるが、地方都市ではスーパーで買い物ができると言う事はある程度富裕層である。そのような中国の特殊な社会形態のもと、カルフールは一方では庶民の生活スタイルに合わせ、また一方ではブランド(高級スーパーというイメージ)をうまく利用し大成功をしているのではないかと考えられる。