小島正憲の凝視中国

最低賃金UPは人手不足解消策となるか?


最低賃金UPは人手不足解消策となるか? 
16.MAR.10
1.最低賃金UPラッシュ

 2010年に入って、中国では、各地方がこぞって最低賃金を引き上げようとしている。その目的は、超人手不足現象を前にして、各地行政当局が最低賃金を引き上げることによって、地元に労働者を吸引しようというものである。ことに広東省では、この際、最低賃金を大幅アップし、最低賃金を払えない労働集約型産業を追い出し、産業の高度化を図ろうとしている。また最低賃金引き上げと年金アップなどを連動させ、社会の安定への一石にもしようとしている。しかし識者の間からは、最低賃金を上げたところで、全国的な人手不足の解消策にはならず、弱小外資の撤退を早めるだけで、むしろ逆効果となるという指摘がある。   

※以下に最低賃金アップの各地現況を列挙しておく。

1/23 江蘇省人力資源・社会保障庁、同省の最低賃金を約13%、2/01から引き上げ決定。850元→960元。
     (南京、無錫、江陰、宣興、蘇州、呉江、張家港、常熟、昆山、太倉、南通、啓東、通州、海門、鎮江など)

1/24 北京市人力資源・社会保障局、同市の最低賃金を10%前後引き上げる方向、7/01から新基準導入を決定。

1/27 東莞市劉志庚共産党書記、最低賃金引き上げを表明。

1/31 上海市韓正市長、最低賃金を4月から15%前後引き上げると発表。960元→1100元。

1/31 広東省人大代表:陳宗文氏、同省の最低賃金を1200元に引き上げるよう提案。

2/09 重慶市人力資源・社会保障局の候小川局長、同市の最低賃金を引き上げることで見直し作業に入ったと発表。

2/09 瀋陽市人力資源・社会保障局、労働者の最低賃金を引き上げる方針であることを発表。

3/01 浙江省人力資源・社会保障庁、同省の最低賃金を4/01から約15%アップを決定。960元→1100元。

3/01 山西省発展・改革委員会、同省の最低賃金の引き上げを表明。

3/01 深セン市人力資源・社会保障局、同市の最低賃金を10%以上引き上げる方向であることを表明。

3/05 吉林省人力資源・社会保障庁、同省の最低賃金を15%前後引き上げる方針を発表。

3/10 中華全国総工会保障工作部の鄒震部長は、開催中の全人代で、全国の最低賃金を各地平均賃金の40〜60%程度まで引き上げるよう提言した。もしこの提言どおり実施すると主要都市の最低賃金は1500〜2000元となる。

3/12 福建省政府、3/01より全省各地の月額最低賃金引き上げを通知。引き上げ幅は平均で24.5%。厦門市(6区)は900元、福州・泉州などは800元に。

※中国では、最低賃金の決定は各省、自治区、直轄市レベルでなされ、また、同一の省、自治区、直轄市においても、それぞれの行政区域において異なる最低賃金基準を設定できる。(「変容する中国の労働法」山下昇・ロウ敏編著より) 

2.人手不足の実情。

・中国政府の人力資源・社会保障部は、春節前に全国の企業と出稼ぎ労働者を対象に、春節後の就業状況調査を実施。この対象となった企業の70%が「求人は困難になる」と答えた。

・東莞市の人口は、2009年の1年間で、200万人近く減少した。

・大連では、春節明け、製造、外食、不動産業を中心に人材不足が目立つ。賃金を10%ほど上げても効果なし。現在の平均月給は1300元〜1500元。

・浙江省の人力・社会保障庁は同省の2月末時点でのワーカー不足数が30万人と発表。ことに杭州市は12万人不足。

・天津市でもワーカー不足。春節明けに開催された出稼ぎ労働者向け企業説明会では、求人数が2万人超であったのに対し、求職者数は1万人弱。

・珠江デルタ全体で、200万人の労働者不足。東莞市は100万人以上、深?市は80万人、仏山市は5万人、恵州市は4.5万人など。

※広東省人力資源・社会保障庁は、「省内で不足している労働者数は90万人でコントロール可能な範囲」と強調。

・重慶市でも、熟練工は20万人不足。

・上海市嘉定区では、区内1万7千社のうち、約9割が人手不足。月給を20%アップしても人が集まらない状況。閔行区でも7から8割の企業が人手不足状況。人材供給基地の安徽省でも人手不足。

・全国のIT業界で、専門人材が14万人不足。

・珠江デルタ地域では、春節明けからワーカーが極端に不足しているため、工場の生産停止や工場の稼働率が下がり、CPUなど一部の電子部品が品薄になり、価格が上昇中である。

・このほど青島商務局が実施した労働者市場についての調査(外需を主とする企業191社対象)では、96%に当たる企業がっ労働者不足と答えた。またその数は約2万人に及んだ。

◎労働力不足予測など。

・野村証券経済調査部は、10日に公表した中国に関するレポートで、同国の労働力について「2014年以降に供給過剰が緩和され、18年からは不足に転じる」と指摘した。

・国務院発展研究中心は、今後30年内に農村人口は4億人に減少するとの試算を発表。現状の農村人口は7億2000万人。ただし農村人口に数えられているが、都市に出稼ぎに出ている人口は1億7000万人ほど。

・中国国家教育発展研究センターは、10年後、18〜22歳の人口が4千万人減少するとの試算を発表。

・大学卒などの就職難が取沙汰されているが、大学卒の若者は「3K現場」には行きたがらず、手を汚さない事務職などを希望しており、完全なミスマッチとなっている。

3.各地・各企業の人手不足対策。

≪行政≫

・全国の企業の58%が、春節前にボーナスを支給した。一般ワーカーの平均支給額は約4000元。

・深セン市では、昨年8月から、都市戸籍を持たない出稼ぎ農民工のために、居住証制度を導入した。年末までにその発行枚数は1000万枚に達した。この居住証があれば、戸籍がなくても子どもを市内の学校へ通わせることができるし、香港へのビジネスビザも取得できる。

・珠海市は出稼ぎ労働者の市内定着を目指して、居住証を発行する。広範な行政サービスが受けられる。

・沿岸部の台湾系企業各社は、ワーカーに3倍の給与を支払い、旧正月(春節)返上で操業した。人手不足で納期が大幅に遅れていることと、春節で郷里に帰った農民工が戻って来ないことを防ぐため。

・東莞市のある工場では、ワーカーを集めるために、春節明けに小型車や最高1万元が当たるくじ引きを実施した。同社では現在、1000人のワーカーが不足しているという。

・東莞市では、企業の推薦で農村戸籍から都市戸籍へと転換できるよう労働条件を緩和する方向。深刻化する人手不足を緩和し、産業の高度化に必要な優秀人材を確保するのが狙い。

・広東省河源市の河原高新技術開発委員会では、同委員会の幹部に1人当たり5〜100人のワーカーを集めること義務付けた。現在、同区内で2万人のワーカーが不足しており、それを充足するため。

・広州市は同市の戸籍を持たない出稼ぎ農民工の子女が、就労地の公立学校に通えるように、就学条件を変更する。農民工を同市に定住させることが狙い。

・上海市嘉定区の企業25社は、春節前に地方へ出向き、合同企業説明会を開催し、求人活動を行った。

・上海市は政府主導による低価格住宅を建設し、低所得者や若年層に供給する。

・広東省の珠江デルタなどにある21の市政府は、省内の農村地域にある労働力を工業地区に就労させる取り組みを行っている。

・3/09、10の両日、ジェトロは広州および深?で、「華南ワーカー不足の構造的要因分析と日系各社の対応」などをテーマに講演会開催。

≪個別企業≫

・米スポーツ用品大手ナイキの広東省の下請け工場は、大幅なワーカー不足で従業員が半減(13000人→7000人)。工場の移動を検討。

・深セン市にある富士康科技集団は、春節後のワーカー不足が5万人にまで拡大。従業員が同業者など紹介した場合、市内までの交通費と謝礼金200元を支払うことにしている。

・小型モーター世界最大手のマブチモーターは、深セン市から撤退を決定。深セン市では委託加工が従前の方法で可能かどうか不明だったため、ベトナムと東莞市へ移転。

4.世界の工場の終焉と双子の赤字。

 現在、中国は高い経済成長を遂げ、世界から羨望のまなざしで見られている。しかしそれは、4兆元にも及ぶなりふり構わぬ内需振興策の結果であり、きわめて危険なもので、いわば半病人が超強力なカンフル剤を投与された結果とも言えるものである。当面、中国政府はカンフル剤を切らすわけにはいかないので、赤字財政を覚悟でそれを続行しなければならない。そしてその副作用の一つとして、沿岸部の超人手不足という現象が現れているのである。それに加えて地元政府がわざわざ最低賃金を引き上げたので、中小零細企業にとって事態はますますひどくなりつつある。すでに労働力の需給関係から、沿岸部諸都市では賃金が大幅にアップしている。深セン市のワーカーの賃金水準は1700元といわれており、上海でも1500元に近づきつつある。今後、中国沿岸部での賃金は、人手不足を背景にして、うなぎ上りになるであろう。もちろんそれは中国政府が財政の大幅赤字をかえりみず、内陸部に資金をじゃぶじゃぶと注ぎ込んだ結果である。

 これまで外貨の獲得源だった外資の労働集約型産業は、人手不足、人件費アップ、労働争議多発、人民現高などを嫌い、今後、中国から他国へなだれをうって転進していくだろう。わが社もバングラデシュへの工場進出を決断した。産業の構造転換を目論む広東省の汪洋書記は、労働集約型産業の撤退を好都合だと思うだろうが、事態はそんなに単純ではない。最近の外資の撤退スピードはきわめて早く、このままだとまだ十分に次の高度産業が成長していないのに、広東省には空き工場だけが残ってしまうようになる危険性さえ生じてきている。もちろん広東省政府も深?市内の古い工業区をオフィスなど商業施設や住宅、老人介護施設などに再開発する都市政策を発表し、それらの空き工場対策も考えているようである。

 識者は、人手不足の真因は工場の内陸部移転であると解説している。たしかに内需振興策のおかげで、農民工の地元に就業機会が増えたことは事実である。その結果、外需主体の工場に人手が集まらなくなり、工場激減・輸出不振という結果になっているのである。次に予測できる事態は、内需絶好調・輸出絶不調の結果の輸入超過、そのあげくの貿易赤字である。なにしろ13億の民の消費意欲に火がつけば、多額の外貨準備も、あっという間になくなる。そのとき、外貨の主たる稼ぎ手であった労働集約型外資は、すでに中国から姿を消しており、中国は一方的に輸入するだけの国へと姿を変えている。

 数年後、中国は米国と同じ、財政赤字と貿易赤字の双子の赤字を抱え、もだえ苦しむ国になるのではないか。


バンクーバー五輪と中国人の日本買い占め 
12.MAR.10
1.バンクーバー五輪報道への疑問

 バンクーバー五輪の狂騒は終わった。バンクーバーに居住している白人系カナダ人は、さぞやほっとしたにちが
いない。なぜならバンクーバーには、中国人の移民が大量に居住しており、カナダ国籍を持つ彼らのほとんどが、
熱狂的に出身国の中国人選手を応援していたからである。ところがバンクーバー五輪を報道する日本のテレビに
は、カナダ選手を応援する白人系カナダ人の顔ばかりが登場し、中国人選手を応援するカナダに移民した元中国
人の姿はまったく画面に現れなかった。

 カナダのバンクーバーと言えば、現在、中国人の移民先のトップで、街中を歩くと英語よりも中国語がはばをきか
せているような社会であり、その元中国人たちの喧噪さを嫌い、もともとバンクーバーに住んでいた白人系カナダ人
の多くが他の地に移住したといわれているほどである。そこで開かれた五輪だから、当然のことながら、移民した元
中国人が画面に登場してこなければおかしい。そしてテレビのスタッフも、五輪にかこつけて、その異常な社会現象
を世界に発信する材料にするぐらいの問題意識を持たなければならなかったのではないだろうか。とにかくテレビ
画面にはカナダ選手を応援する白人系カナダ人の姿が映し出されるばかりであった。

 もっともその白人系カナダ人がイギリス系であるか、フランス系であるか、あるいは最近の東欧系であるかは、私
にはわからなかった。カナダは米国同様移民国家であり、最近までケベック独立運動があり、現在でもモントリオー
ル周辺はフランス語圏で、街の標識や看板にもフランス語が多い。またバンクーバーは中国人移民の街と化してい
る。したがってカナダ国籍を持ちながら、平然とフランス人選手を応援する者もあれば、中国人選手の活躍に歓声
を上げる者もいる。これは日本などとはかなり違う社会現象である。残念ながら日本のテレビのスタッフがこのよう
な実態に目を向け、意識的にカナダに移民した元中国人についての報道をすることはなかった。仕方がないので私
は、移民した元中国人たちの五輪開催中の実情をバンクーバー在住の友人に聞いてみた。

 五輪開催中のバンクーバーには、とにかく世界中から観光客が集まり、街中を覆い尽くしていたという。スカイトレ
インもレストランも満杯であった。移民した元中国人たちも郊外からバンクーバーの街中に出かけ、レストランや友
人宅などに集まり、出身国の中国人選手を応援していたという。ショッピングモールにあるオープン式レストランなど
でも、元中国人がそこを占拠し、中国人選手の活躍を喜び合っており、中には中国の国旗を振るものさえいたよう
だ。つまりカナダに移民した元中国人は、国籍を変えてもカナダ人には成り切らず、出身国の中国人選手を応援し
ていたということである。現在、中国人は猛烈な勢いで世界にあふれ出しているが、カナダ同様、彼らは移住先で、
なかなかその国に同化しないようである。

2.なぜバンクーバーに、中国人移民が多いのか

 もともとカナダは移民国家であり、移民を受け入れることに抵抗がない。また国土が広く、今後の経済成長のため
にはまだまだ人手が必要であると考えている。したがってカナダ政府は移民に門戸を開いている。しかもカナダ政
府は、移民を受け入れることがカナダ国家の実益にかなうように条件を設定している。

 その条件とは@投資、A技術、B学力などである。

 @の投資の条件枠での移民では、移民希望者は一定の資金をカナダの指定銀行に5年間無利子で預金しなけ
ればならない。その額は数年前までは4千万円ほどであったが、現在、1億円に引き上げることが予定されている。
また5年間のうち2年間はカナダ国内に在住していることがグリーンカード取得の条件とされている。1997年の香
港返還時には香港から大量の移民がこの制度を利用して逃げてきたという。このとき大量の資金が、労せずしてカ
ナダ政府の懐に転がり込んだ。

 Aの技術とは、移民希望者が先端技術などを持っていることを条件にするもので、これもカナダには大きなメリッ
トとなる。

 Bの学力とは、留学生を受け入れる際の条件で、優秀な学生を選抜する仕組みとなっており、なおかつ学資は前
払いのためカナダ政府に損はない。

 これらの制度の利用者は、現在では大陸中国人に変わり、カナダの中でも気候が温暖なバンクーバー周辺には
40万人ほどの元中国人が暮らしており、カナダ全体では100万人ほどの中国人移民がいるという。ちなみにバン
クーバーは周辺人口を含めると213万人ほどであるから、4人に1人が元中国人という勘定になる。

 カナダ政府は、中国人移民や中国企業の進出への門戸を閉ざそうとはしていない。今後もその資金力と活力を
取り込み、経済成長につなげたいと考えている。たしかにバンクーバーの街の閑静な雰囲気は、元中国人の喧騒
に気圧され気味であるが、それでも治安は米国ほど悪くはない。また中国人移民が不動産などを買い漁っているた
め、米国と隣り合わせであっても、住宅なども値下がりはせず、経済は堅調に推移している。カナダ政府は、中国人
の勢いを自国の活性化にうまく利用している。

3.中国が日本を買い尽くす

 バンクーバー五輪では、中国のスキー選手があまり活躍しなかったようだが、中国は雪の少ない国だから仕方が
ない。中国人は雪の大地にあこがれており、ことに日本の北海道が好きである。近年ではたくさんの中国人が北海
道に観光に来て、温泉に入り、スキーを楽しむという。そしてとうとうその観光客を当て込んで、北海道のスキー場を
買収しようとする中国企業が現れたようである。つまり中国資本が、赤字に苦しむ北海道のホテルやスキー場を安
値で買い取り、そこに中国人観光客を大量に誘い込み、従業員は中国人を安月給で雇い、大儲けしようという算盤
らしい。地元では地域経済が活性化するから好ましいことだという意見と、給料が高くて中国語が話せない日本人
などは雇用されないに決まっているから、地域が中国人に乗っ取られるだけだという意見に分かれているようであ
る。

 3/10付けのサピオ誌は、「中国が“日本を”買い尽す」というタイトルで特集を組んでいる。そこには中国資本が
買収しようとしている日本の上場企業や老舗デパート、億ション、豪邸、一等地などが実名で記されている。すでに
日本の魂である富士山周辺のホテルも、中国資本によってかなり買い進められているようである。高度成長を続け
る中国経済をバックにした中国資本は、まさに日本を買い尽す勢いである。

 北の大地だけでなく南の沖縄でも、普天間基地での迷走に疲れた現地の人々に、中国資本が大金の支援を条件
に、日本からの独立を焚きつけているようである。沖縄の安全保障に詳しいジャーナリスト、井上和彦氏は「沖縄の
無人島が中国人に買われ、人民解放軍の動きと連携するようなことがあれば、離島の安全保障はますます脅かさ
れることになります」(前傾サピオP.23)と語り、中国資本の土地買収に対する警戒心をあらわにしている。

 総じて、日本の世論はこれらの中国資本を嫌っており、なにかの規制を作って、彼らの日本進出を食い止めよう
と考えている。日本には今のところ、移民に厳しい日本政府の方針もあり、バンクーバーのように忽然と中国人社
会ができあがるということは考えられない。しかし中国資本をホームグラウンドに引きずり込み、手玉に取って、金
儲けをしてやろうという考えもない。

 なお、中国は日本だけでなく世界中で、優良物件を買い漁っており、米国証券取引委員会(SEC)は、中国政府系
投資ファンドの中国投資有限責任公司(CIC)が、米国主要企業の株式を多数保有していることを発表し、米国議
会はこれに強い懸念を表明した。

4.かつて日本は世界を買い漁った

 わずか20年前、日本はバブル経済を背景に世界を買い漁り、顰蹙を買った。そしてバブル経済崩壊後、それら
を捨て値で放り出して日本に逃げ帰り、世界の笑われ者になった。以下は日経ビジネス編:「真説バブル」の一節で
ある。20年前を思い出し、熟読玩味して欲しい。

 「日本人の不動産ラッシュに対しては、現地で徐々に批判が高まっていた。のんびりした保養地であってもいった
ん日本人が進出すると、高層ビルが建ち、大型バスが出入りする画一的な観光地と化し、日本食レストランと日本
語表示が街にあふれ出す。88年にコアラを保護するテーマパークを日本企業が買収すると、“コアラまで”との非
難が出た。無秩序な日本人の海外投機への批判は、世界のリゾート地やオフィス街でほぼ同時に起こっていたこと
だった」(P.118)

 「1980年代後半。日本企業はバブルの追い風に乗り、世界中で不動産を買い漁った。アメリカ西海岸、ハワイ、
グアム、サイパン、オーストラリア…。世界各地の有名リゾート地では当時、日本人が札ビラを切って闊歩する姿が
見られた。だがバブル崩壊から10年を経て、抜本的なリストラを迫られた日本企業の多くが撤退を余儀なくされ、
現地には深く刻み込まれた当時の爪跡だけが残っている。日本人の誰もが永続的な成長を信じて疑わなかったあ
の時代、我々は海外で何をしようとしていたのだろうか」( P.98)

5.中国は日本の轍を踏む

 米国の著名投資家ジム・ロジャーズ氏は、「人民元建てA株市場は株価が上がりすぎ」と指摘、「不動産市場につ
いてはすでにバブルが発生している」と主張している。中国の不動産最大手の万科企業の王石会長は、「中国の一
部の大都市ではすでにマンションバブルが生じており、これが拡大すれば1980年代後半の日本のバブルのような
状況に陥る恐れがある」と警告を発している。中国国家統計局は、11月の全国の不動産価格が前年同期比5.
7%上昇と6か月連続で伸びたことを受け、今後の不動産バブルの発生を懸念する分析を発表した。

 現在、上海の新築マンションの値段は東京都内よりも高い。2LDKで4000万円を越す。郊外の一戸建ては1億円
を越えている。日本のバブル期には、土地、マンション、株、ゴルフの会員権、絵画などの価格が異常につりあがっ
た。中国では土地は一般人が自由に売買できないため、土地については異常なバブル現象が見られないが、マン
ション、株、絵画などが高騰している。一般サラリーマンの月給は高くても10万円ほどであり、日本のバブル期と同
じで、とてもサラリーマンではマンションを購入することができなくなった。

 中国人民銀行はバブル発生を警戒して、1月に入って、約1年半ぶりに預金準備率を引き上げた。中国政府は引
き続き「適度に緩和的な金融政策」を掲げているが、3月には利上げの可能性も予測されている。中国政府はま
た、「景気対策の撤収」に舵を切り、多くの銀行が1月後半の貸し出しを一時停止するように命じられたという。これ
らの影響から中国企業の約4割が、「今年は銀行からの融資がきびしくなる」と認識しているようだ。さらに中国政
府は、不動産の価格抑制のため、2軒目以降の住宅購入に、個人不動産ローンを受ける際の頭金を最低4割とす
るなどを盛り込んだ通知を発表した。

 上記のように、すでに中国がバブル経済に突入していることは、誰の目にも明らかである。したがってバブル経済
崩壊の経験者としての日本人ならば、当然、近い将来、中国のバブル経済が崩壊することは予測できる。そしてそ
のバブル経済が崩壊したら、札ビラを切っていた中国人が尻尾を巻いて逃げ帰ることも、自らの体験に照らし合わ
せれば、容易にわかる。

6.われわれ日本人の取るべき態度は、「努力と忍耐」

@日本人はホームで、中国人に勝つ努力をすべきである。

日本へ中国人が進出してくるということは、日本人のホームグラウンドで勝負ができるということであり、それは日本
人にとってきわめて有利である。カナダ人のようにうまく利用できないにしても、日本人も中国人の勢いを経済活性
化に活用すべきである。他国でビジネスを展開するには、やはりその国の人の力が必要である。中国人も生活慣
習や法律が違う日本で、ビジネスを円滑に行うには日本人を利用する方が得策である。日本人も中国語を覚え、中
国企業に取り入り、それを牛耳るぐらいになればよい。調子に乗った中国企業が日本で傍若無人の振る舞いをす
るならば、それを追い出すことも可能である。現に韓国の双龍自動車では、韓国人労働者が過激なストを繰り返
し、中国資本の上海自動車を追い返した例もある。

 この際、日本人がやってはいけないことは、規制などを作って外資の進出などに反対し、守りに入ってしまうことで
ある。それは鎖国に至る道であり、国際的に孤立する道である。

A中国人はやがて撤退する。 

 現在、大手を振って日本を闊歩している中国人や中国企業も、中国のバブル経済が崩壊すると同時に、日本か
ら逃げ出さざるを得ない。それが中国人の移民であろうと、中国企業の買い尽しであろうと、やがて彼らの資金は
枯渇する。現在、中国は外貨準備高が世界一だと言って威張っており、企業はそれを海外進出ために湯水のよう
に使っている。しかし「中国は世界の市場」と言われるようになった今、16億人の消費をまかなうために、中国は世
界から膨大な物資を輸入しなければならない。「中国は世界の工場」といわれ、世界を相手に膨大な物量を輸出
し、外貨を稼ぐ姿は、すでに過去のものとなった。数年後、中国は米国同様、双子の赤字に苦しむようになる。バブ
ル崩壊と外貨不足が中国を襲う。

 中国企業はかならず撤退する。日本人と日本企業は慌てふためくべきではない。