小島正憲の凝視中国

09年3月:暴動情報検証

小島氏のレポート「3月暴動情報検証」が届きました。市井の人々の視線、庶民の動向から中国社会の動態を凝視する氏独自の「分析手法」だといえます。読んでいると実に興味深い中国社会の「現在」(いま)が見えてきます。とともに、報道などで伝えられる「暴動情報」などはその背後の奥深くに分け入って検証してみなければ本当の「中国社会の姿」はつかめないということも痛感します。


09年3月:暴動情報検証 
                                                                         16.APR.09
                                        

 3月は北京で全人代と政治協商会議が開催されており、また昨年のチベット暴動から1年(チベット動乱から50年)ということもあって緊張した月であったが、意外に大きな暴動は起きず、件数も普段の月と変わらなかった。

 それでも中央政府の警戒心は強く、全国3千余りの公安局長を北京に招集して逐次訓練しているという。

 この養成訓練の重点はいかに集団抗議事件に対処するかであるという。

 昨年11月に各地共産党トップを召集し抗議事件に対する講習を行ったばかりだから、その緊張振りがうかがえる。

 なお今回は一般の暴動とチベット関連とは区別して記載した。
 @は実地検証済み。A以下は情報のみで未検証である。
 ※暴動レベル基準は文末に記載。


1.一般の暴動情報


@3/25 海南省東方市感城鎮で対立する隣村の村民数百人が乱闘  暴動レベル3。


・実状 

 3/25、東方市感城鎮で感恩城村の村民が、川を隔てて隣り合っている宝上村に棍棒や刃物を持って押しかけた。その途中で宝上村側のホテル「宝珠楼」を焼き討ちした。宝上村の村民も同じく棍棒や刃物を持ち出して応戦したので、双方入り乱れて数百人規模の乱闘となった。宝上村住民1人が刃物で切られ死亡、双方で計6人が負傷。


・原因 

 1か月ほど前、感恩城村の若者が夜間、浜辺で遊んでいたところ、宝上村の青年がそこに海老を獲りに来て、感恩城村の若者を海老獲り用サーチライトのようなもので照らし出し、からかった。感恩城村の若者と宝上村の青年がけんかとなり、感恩城村の若者が大怪我した。数日後、感恩城村の若者は感城鎮派出所や人民政府に訴え、宝上村の青年に医療補償を要求した。ところが感城鎮人民政府はこの問題を迅速に処理せず、放置しておいた。なお感城鎮の行政単位には街の中心にあたる感恩城村と川向こうの宝上村が含まれている。


 3/23、感恩城村の若者が鎮政府を訪れ、返答を求めたが満足のいく対応が得られなかったので、若者は怒って仲間をさそって感城鎮人民政府や派出所を取り囲んで抗議し、警察車両2台を破壊し、人民政府や派出所の建物に投石破壊をした。それでもおさまらなかった若者たちが、3/25、宝上村を集団で襲撃に及んだ。


・経過 

 武装警察約300人が出動し、騒動を制圧。

 4/11現在では、感恩城村側の橋のたもとのホテルに100名前後の武警と装甲車4台が待機、宝上村入り口の「宝珠楼」に100名前後の武警が待機。さらに宝上村側に300mほど入った道路上で武警約100人がバリケードを築いて検問中。政府は武警とともに両村住民を思想教育監督中。

東方市共産党常務委員会は、3/31付けで感城鎮共産党書記を解任。


      

 看板などが破壊された人民政府                            向こう側が感恩城村 手前が宝上村

 

     

感恩城村側の武警待機ホテル            宝上村川の武警待機場所 焼き討ちされた「宝珠楼」



《参考情報》

@.双方の村とも漢族で、東方市や山の中に入ると黎族や苗族などの少数民族が居住しているというが、今回の乱闘には少数民族問題はまったく関係がない。また双方の村とも半農半漁で生計を立てている。


A.巷の話では、感城村の男性が川を越えて宝上村の女性たちのところに通うので、宝上村の男性は感城村の飲食店などでそこの女性を誘うことが多く、双方の男性が反目し合っていたという。


B.感城鎮の治安は従来からあまりよい方ではなかった模様。この乱闘とは関係なく、過去1年間で6件の刃傷沙汰が起きており、いずれも未解決のため、公安局は4/05付けで懸賞金をかけて情報を収集中。


C.感城鎮のホテルは武警で満杯。


D.感城鎮の街中は厳重に警戒されており、一般住民大勢がなにもできず昼間からお茶を飲んで露店にたむろしていた。ある果物卸商は「お客が来ないので半年ほど商売ができないだろう」と嘆いていた。感城鎮の宝上村と反対側の隣村である板橋鎮は商売が活況を呈している。この地域の村周辺にはバナナやマンゴーの林が広がっている。


E.閉鎖中の小・中学校は3/30から授業再開。



A3/03〜05 北京で直訴者が当局と衝突  暴動レベル1。


・実状 

 北京で、全人代と政治協商会議が開かれたため、全国各地から直訴者が押しかけ、これをとどめようとする政府関係者との間で、数多くの衝突が起きたという。以下はその一端。


@.3/03 北京南駅で山東省から来た直訴者4〜5人を警察が拘束。直訴者の中の老婦人を警察が殴ったため、周りの民衆が怒り、1000人ほどが終結し警察の車両を破壊した。


A.3/03 上海から来た68人の直訴者は、北京治安総本部にデモ行進を申請したが不許可とされた上、上海当局関係者に拘束された。


B.3/05 江蘇省から来た女性直訴者は、北京信訪局を出てから、江蘇省当局関係者に連行用のバスに引き込まれ、殴打された。現場にいた他の直訴者約1000人がバスを包囲、破壊した。


C.3/05 陝西省から来た女性直訴者が天安門金水橋前で焼身自殺を図った。警察がすぐに火を消してどこかに連行した。


B3/04 重慶市で住民が警官隊と衝突  暴動レベル0。


・実状 

 重慶市長寿区で三峡ダム建設に伴い移住した住民約2000人が、約1000人の警官隊と衝突。少なくとも30人が負傷した。

・原因 

 移転した住民への補助金1000万元以上を地元政府の当局者が着服したと疑い抗議に発展。


C3/11 広東省肇慶市 立ち退き補償で衝突  暴動レベル0。


・実状 

 肇慶市の住民が鉄道建設用地の立ち退き補償をめぐって当局と衝突。少なくとも30人が負傷、100人が拘束されたという。


・原因 

 同市から貴州省貴陽市を結ぶ鉄道の建設に当たって立ち退きを求められた住民が経済補償を要求。 


D3/16 深?市 バス運転手100人が抗議  暴動レベル0。


・実状 

 台湾系大手携帯電話メーカー:富士康の社員送迎を請け負っていたバス運転手が契約解除に抗議して、バス100台で道路を塞いだ。


・原因 

 運転手たちは個人でバスを購入し、3年間の契約で社員送迎を請け負っていた。ただし契約の解除は1か月分の補償で可能という付帯条件付きであったため、富士康側は昨年末からの不況対策として、バス代の経費節減のため従業員のリストラや寮への入居をすすめ、法律にのっとって契約を解除した。しかしほとんどの運転手はこの事態は想定外であり、多額のバス購入代金の負担のみが残ることになり、抗議行動に訴えることになった。

・経過 宝安区法院で係争中。


E3/19 重慶市 治安部隊兵士銃撃され死亡  暴動レベル0。


・実状 

 19日夜、重慶市の治安部隊駐屯地で、歩哨1人が何者かに銃撃され死亡。 


・原因 

 重慶市の公安局副局長が局長に昇格するのを阻もうとしたものらしい。彼は前任地の遼寧省鉄嶺市で公安局長のとき、暴力団対策に辣腕をふるい、暴力団関係者の恨みを買っていたという。重慶市には薄煕来書記の要請によるものとのことで、着任以来80日間で、過去2年間に匹敵する数の犯罪容疑者を逮捕し重慶市でも不満が多かった。


F3/24 広東省東莞市 300人が給与未払いで抗議行動  暴動レベル0。


・実状 

 東莞市長安鎮の香港系電子メーカー:盈基電子塑膠製品公司の従業員300人が、賃金の支払いを求めて地元の労働局に抗議。


・原因 

 公司側は過去3か月にわたり賃金が未払い。最近、公司側が工場の設備を香港の別会社に売り払ったため、従業員が抗議行動に出た。


・経過 

 労働局が公司側と話し合い解決を約束し収束。


G3/30 江西省萍郷市 当局の強制執行に抗議、1万人に拡大。 暴動レベル2。


・実状 

 萍郷市の都市管理行政執行者約20人が、市民:陳茶珍さんの建設中の自宅を違法建築物の理由で取り壊し

た。これに抗議した陳さん家族が暴行を加えられ、陳さんの兄が死亡。怒った家族や村民が当局の車両3台を破壊、死者の遺体を国道に持ち出し、交通を遮断。野次馬が1万人に及ぶ。


・経過 

 萍郷市公安局が数百人の警察官を出動させ、群集を退散させた。 


H3/31 四川省南充市 当局の強制執行に伴う暴力に抗議  暴動レベル0。 


・実状 

 南充市の繁華街で野菜売りをしていた老婦人が、都市管理行政執行者に販売行為を止められ暴行を加えられた。それを目撃していた学生たちが抗議したところ、殴られ重傷となった。学生の友人たちが近くの高層ビル前に集合しデモ行進を行った。一時は野次馬を含めて数千人規模となり、交通が麻痺した。


・経過 

 夜9時ごろまでには騒ぎがおさまった。


I3/31 新疆ウィグル自治区 警官と民衆が対峙  暴動レベル0。


・実状 

 ウルムチで男性1人と警官3人がけんかとなり、男性を連行しようとしたところ、民衆200人以上がこれを阻止。


・原因 

 民族問題であるかどうかははっきりしていない。男性が警官3人の乗った乗用車を止め、警官を殴り怪我を負わせたという。

・経過 

 警察当局が調査中。拘束者なし。


2.チベット関連情報


J3/09 青海省果洛チベット族自治州班瑪県で警察車両など爆発。 暴動レベル1。


・実状 

 3/08、地元チベット族住民が材木を運搬中に林業検査員と出会い口論となった。住民10数人が駆けつけ騒いだが、政府部門職員の仲裁で解散。3/09午前2時ごろ、林業検査場内にあった警察と消防の車両が原因不明の爆発を起こした。地元住民が自家製爆発物を投げつけたものと見られている。死亡者なし。


K3/16 四川省甘孜チベット族自治州の巴塘県で爆発。 暴動レベル1。


・実状 

 巴塘県の村役場で爆発が起きた。地元当局はテロリストが爆弾を投げ込んだという。死亡者はなし。


L3/18 ラサ駅で大量のダイナマイト発見  暴動レベル0。


・実状

 武装警察がラサ駅で大量のダイナマイトが詰められたトランクを発見した。


・経過 

 武警隊員がロボットを使って爆破させた。公安はこれを手がかりに不法組織を摘発したという。


M3/21 青海省果洛チベット族自治州瑪沁県でラマ教僧侶ら数百人が暴動。 暴動レベル2。 


・実状

 チベット寺院の僧侶約100人を含む住民数百人が、地元警察を襲撃。その後約4000人のチベット人がデモを起こし、警察と対峙。政府の職員数人が軽傷。警察当局は暴動に参加した6人を逮捕。89人が出頭。


・原因 

 拉加寺の僧侶の1人が警察の厳しい管理に抗議して、黄河に投身自殺したことが引き金になったという。

・経過

 中央政府はチベット自治区、青海、甘粛、四川省に7万人の軍人を進駐させ、厳重な警戒を継続中という。


≪私の暴動評価基準≫

暴動レベル0 : 抗議行動のみ 破壊なし

暴動レベル1 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以下(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ

暴動レベル2 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以上(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ 

暴動レベル3 : 破壊活動を含む抗議行動 一般商店への略奪暴行を含む  

暴動レベル4 : 偶発的殺人を伴った破壊活動

暴動レベル5 : テロなど計画的殺人および大量破壊活動