小島正憲の中国凝視

09年2月:暴動情報検証


09年2月:暴動情報検証 
                                                                          11.MAR.09
                                                                                

 2月17日付けの日本経済新聞は、「中国、暴動へ警戒強める 北京、100万人態勢で警戒へ」という見出しで、中国政府が景気減速に絡んだ暴動の頻発に警戒を強めていると報道した。しかしながら、2月度の中国全土の暴動の実状は2月危機の勃発が叫ばれていたにもかかわらず、通常月と変わらず、総計16件ほどであった。しかも特別に目新しい性格の事件もなく、今のところ、中国で暴動が激発する兆候はない。

以下に09年2月の暴動情報の検証結果を列挙する。

@〜Cは実地検証済み。D〜Oは未検証。

暴動評価基準は文末に掲示。

 なお、2月28日付けで私の手元に、「北京松下」における労働争議の情報が入ってきた。この件は別項扱いで送信済み(次ページに掲載)のため、今回の検証記の中には掲載していない。

@2/06・07 : 天津市河北区で住民が強制立ち退きに抗議。 暴動レベル0。

 ・ネット情報 : 天津市河北区で、2/06・07の両日、当局の強制立ち退きに抗議した200人ほどの住 民が、北泰路と北中路の交差点を塞いだので、現場は交通マヒに陥った。06日には武装警察が出動して住民を排除。そのとき数名の怪我人が出た模様。

 ・実状 : 河北区には北泰路も北中路もなかった。天津市内の他区にもない。現地でタクシーの運転手数人に聞きまわったところ、天泰路と津浦北路の間違いではないかとのこと。河北区天泰路周辺を見て回ると、道路脇にその一角だけ開発に取り残されたような場所があった。

そこには200軒ほどの古くて倒壊寸前の家屋が密集しており、街路樹には当局の赤い横断幕が翻っており、家々の壁には引っ越し業者や転居用マンションの斡旋広告、家屋の販売広告などがやたらに貼ってあった。

近くまで行って、この地区の標識を確認したところ、東于村と書いてあった。周辺の住民の話によれば、ここの村民が抗議行動を行っているのだという。家屋密集地の中には、当局の移転計画事務所があり、「早搬遷 早受益」という横断幕が掲げてあった。その日は近くの路上に公安の車が1台とまっていただけだったが、06・07の両日の朝には住民の街頭抗議の鎮圧のために、かなりの武装警察が出動したという。

住民は区人民政府にも抗議に行ったが追い返されたという。そのときも数人の怪我人が出たという。

 この村の家屋の立ち退き料は1u=7千元(ネット情報では9千元)ほどで、大体15〜20uの家屋が多く、手にできるのは14万元程度である。それに比べて市内のマンションは安くても1u=1万元(ネット情報では1万4千元)を割ることはなく、しかも40u以下の物件は探すのが困難であり、実際に転居するにはかなりの金額が不足する。

このことに住民は抗議をしているのであるが、私が見たところ、家屋は倒壊寸前の古いものが多く、立ち退き料は妥当な金額ではないかと思う。しかし現在地のような通勤が便利な場所に、転居先を購入するには金額がかなり不足することも事実である。

これらの問題を解決することはなかなか難しいことであろうが、当局が柔軟な解決方法を考え出すことに期待したい。

 天津市は開発途上であり、今後もこのような問題は続発するであろうが、いずれにせよ真相は、より安く買おうとする当局側と少しでも高く売ろうとする住民側との銭ゲバである。

これを高圧的で一方的な当局と強制的に立ち退きさせられる虐げられた住民という図式で見るのは誤りである。

住民の中には1か月ほど前に、親戚が転居後の家屋にわざわざ引っ越してきて、移住費用を受け取ろうとしているしたたかな者もいるのが実状である。


A2/10 : 河北省滄州市孟村回族自治県で回族と漢族の乱闘あり。 暴動レベル0。

 ・実状 : 孟村回族自治県の市内中心部から車で東北に20分ほどの牛進荘村で、2/10、牛進荘村の回族住民と道路を挟んで隣接する耿荘子村の漢族住民の双方約200〜300人が乱闘、約100人が負傷。野次馬約1000人が殺到。

 ・原因 : 9日の夜、漢族の小正月の花火の打ち上げを見に来ていた回族の子供が、漢族に殴られた。翌日、回族住民がこれに抗議したことから騒動に発展。

 ・経過 : 武装警察2000人が出動し騒動を治めた。2/21には、騒動のあった道路わきに公安のワゴン車2台と乗用車が待機中。建物などに騒動の痕跡はまったくなし。

 ・その他 :孟村回族自治県は人口18.9万人。そのうち回族は4.7万人で24%を占めている。この村は鋼管を製造する産業がきわめて活発で、村内には無数の中小企業が、「管件」・「法蘭」・「弯頭」などの看板を掲げ、工場を経営している。孟村県の鋼管製造業者の現有総資産は30億元を突破しているという。

 これらの工場経営者には回族も多く、村中心部には回族料理のレストランが多数あった。モスクもあり、中心部にあるバス停の屋根はモスクに似せて作ってあった。

 滄州市から孟村県に行く途中には、大港油田があり、孟村県から出勤している村民も多いという。

 総じて、孟村県は産業も豊富で就労先も多く、豊かな村である。しかし村人たちの話によれば、昨今の金融危機の影響を受けているのも事実のようであった。

 孟村回族自治県の回族住民は、2000年12月12日にも大規模騒動を起こしている。

 12月8日、孟村県に隣接する山東省陽信県では回族住民の感情を傷けるような小さな事件が起きた。

 12月12日、少数人に扇動された孟村回族自治県の回族100人以上が車に乗って陽信県へ行って警察と衝突した。

 この衝突で回族住民6人が死亡、19人が負傷した。警察も13人が負傷した。事件発生後、党中央と国務院は事件を全力で処理した。この<陽信事件>で、山東省の陽信県委書記劉成文、県長王力、県公安局局長王天河たちが免職された。河北省のリーダー幹部と孟村回族自治県の主なリーダーも処分された。                

                           

B2/14 浙江省桐郷市桐慶小区で農民工と警察が衝突。 暴動レベル2。

 ・実状 : 浙江省桐郷市桐慶小区で2月14日午後5時ごろ、中華路と民豊路の三叉路で交通事故をきっかけとして出稼ぎ農民工約5000人と公安500人が衝突した。公安車両4台が破壊されるなどの騒ぎに発展したため、武装警察1000人が出動し鎮圧した。農民工100人以上が負傷し、少なくとも20人が身柄を拘束された。夜10時ごろに沈静化した。

 ・原因 : バイクに乗った地元男性が三叉路で農民工にぶつかった。そのとき農民工はその場で地元男性に補償金を要求したが、警察官は病院へ行くことを勧めた。警察官が地元男性の肩を持っていると思った農民工は大声で叫び仲間を呼んだため、大勢の農民工と野次馬が集まって、騒動に発展した。

 ・その他 : 交通事故の当事者の農民工や公安車両の破壊者は、この騒動の最中に逃亡してしまったため、公安は16日付けで広報を出し自首を促すと同時に、有力情報の提供者に懸賞金を2千〜5千元を出すと明示している。

 桐郷市は上海市から1時間半、杭州市から1時間という絶好の位置にあり、この周辺は工場密集地で、現地住民よりも出稼ぎ農民工の方がはるかに多く、彼らは出身地ごとに固まって住んでいるため、団結して騒動を起こすことが多いという。

C2/05 安徽省淮南市でタクシー運転手1000人余がストライキ。 暴動レベル0。

 ・実状 : 2/05朝から淮南市のタクシー運転手がいっせいにストライキ。当初は50台ほどのタクシーが湖南路汽車駅近くの金色大地楼付近に結集していたが、その後すべてが自宅に戻り罷業状態となった。

 ・原因 : 淮南市政府が500台の新規タクシーを市内に許可するという決定を出したため、従来のタクシー運転手が供給過剰の結果の収入減を心配してストライキを決行。

 ・結果 : 淮南市政府は当面の増車を撤回。タクシー運転手に2/05日の補償金として100 元を支給。
ただし政府がタクシー会社に渡したため、受け取っていない運転手もある。

 ・その他 : 淮南市政府は出稼ぎ農民工の帰郷対策という名目でタクシーの増車を決定したが、既存タクシー運転手の反対で頓挫。一方、タクシーの運転手によれば、営業許可費は従来の3千元から12万元?に引き上げられており、これは政府の暴利だと いう。市中には2700台ほどのタクシーが走っており、その日はほとんどの運転手がストライキに参加したという。

 なお、ストライキの通知は前日に、ガソリンスタンドに貼紙が出て、それを知った仲間が携帯電話で連絡しあったという。もし今後も政府から増車政策が出ればストライキで対抗するという。

 闇タクシーも1000台ほどあるが、それは主に長距離を走っているので、当日のストライキにはあまり関係がなかったという。

D2/03 江蘇省啓東市で、海外派遣予定の労働者500人が条件面でのトラブルのため、政
 府前で抗議デモ。 暴動レベル0。

E2/06・07 広東省陽江市平岡鎮で、海浜開発に絡んで村民と警察が衝突。暴動レベル0。

 ・実状 : 平岡鎮大魁村の農民と当局との間で、土地収用の紛糾が発生した。200人以上の村民が2日間に渡って港に入る道路を塞ぎ、それを排除しようとする公安とが衝突した。村民が公安に石や物を投げたため、公安側は催涙弾を使用して鎮圧した。この衝突により村民20人あまりが負傷、中でも3人が重傷とのこと。

 上記の情報の他に、2/08、海浜開発にからむ地元政府当局と業者の癒着を糾弾する村民約2000人が大規模な抗議行動を起こし、武装警察1500人と衝突という情報もある。

 ・その他 : 陽江市周辺では香港系企業の撤退が多く、失業者が増加し治安が悪化しているという。ある企業では従業員が自社に強盗に入り10万元を奪う事件も発生した。

F2/09 貴州省徳江県 伝統行事をめぐり地元民衆と警察が衝突。 暴動レベル0。

 ・実状 : 小正月の伝統行事である竜踊りのメンバーが、踊りの会場の変更を不服として県政府に押しかけて発生。群衆2000人以上が現場を取り囲み、公安3人と住民5人が負傷した。

G2/10 四川省渠県で鉄道建設地の収用補償金を不満とする村民と公安との間で衝突。
                                                                                                     暴動レベル0。

 ・実状 : 渠県長久村の住民は立ち退きを拒否して、家屋内に座り込んだ。2/10午後、400人の公安により住民は家屋から追い出された。住民の逮捕者5名。

 ・原因 : 立ち退き補償金が少ないため、住民が立ち退き拒否。この地では、一般的な1棟2階建ての農民の住居の建築費は6万元ほど。それに対して当局は3万元しか補償金を出さない。

H2/14・15 広東省広州市で、家主1000人が政府に抗議。 暴動レベル2。

 ・実状 : 広州市天河区駿景花園の家主たち1000人が、施工現場近くの建造物を破壊し、政府に抗議した。家主3名が拘束された。

 ・原因 : 政府は家主たちの居住区に変電所を建てるために、警察権力を使って家主たちを強制排除しようとした。

I2/16 浙江省恩州市竜湾区の村民が政府に抗議。 暴動レベル0。

 竜湾区の村民100名が、政府の役人に勝手に土地を収用換金されたので、政府玄関前で横断幕を掲げて座り込んだ。この中には当地の警察や派出所の職員、区政府幹部も参加していた。

J2/16 湖北省隋州市でリストラされた教師が政府に抗議。 暴動レベル0。

  隋州市下30か鎮でリストラされた教師130名が、集団で市政府に抗議して玄関前に座り込み。

K2/16 重慶市銅梁県のシルク繊維工場の元従業員が工場前に座り込み、公安などが排
   除。 暴動レベル0。

 工場前に座り込んだ元従業員を公安や消防が消防車の放水などで排除。

 この企業は10年前に閉鎖され、当時900名いた従業員は全員解雇された。しかし県政府側が補償金などを支払わなかったため、長年その支払いを求めてきたという。2008年7月ごろから、工場の機械や建物などが随時売却され、現在は事務所棟のみを残すだけ。国有資産として3千万元ほどの価値があったという。

L2/16 広東省広州市松州街の台湾企業で、労働者270名が抗議。 暴動レベル0。

 ・実状 : 台湾系企業大壱靴工場で、労働者が春節明けに工場に戻ったところ、すでに工場が閉鎖しており、経営者は台湾にもどってしまっていたため、労働者270名が地元白雲区政府に抗議。現場の道路を塞いだため交通が麻痺状態となった。

 ・経過 : 警察が現場に出て交通整理をし、地元政府が労働者の交通費などを支払い解決。この工場は1月度は稼動しておらず、12月分の給与は支払い済みであった。その後、春節後再稼動する予定であったが、休暇中に閉鎖を正式に決定。

M2/24 湖北省十堰市で農民と公安が衝突。 暴動レベル0。

 ・実状 : 十堰市隕西県の土地を失った農民たち1000人以上が、2/24、当局の土地収用を実力で阻止しようとした。当局は数十人の公安を出動させ強制排除した。その後、農民は北京への陳情を試みたが、ほとんどが拘束されたという。

 ・原因 : 当局は農民から土地を1ムー=2万60元で強制収用し、業者に35万元で販売した。農民はこの差額と方法に抗議している。

N2/24 広西チワン族自治州桂平市蒙?鎮流蘭村で、公安と住民の間で大規模な流血事件発生。
                                                     暴動レベル0。

 ・実状 : 24日の午前3時ごろ公安が村を襲い、村民10数名を連行した。夜が明けてから村民
約1000人が抗議デモを行った。武装警察約2000人が出動し、催涙弾を発射したため村民側に重傷者9名が出て病院に運ばれた。

 ・原因 : 地方政府が村の耕地を企業「華潤コンクリート有限公司」に売却した。土地の所有者の村民たちはわずかな補償金しか手にできなかったので、売却計画を拒否した。その後、当局が実力行使に出た。

 ・その他 : 逮捕された村民の子供たちは同盟休校をしているといい、その数は700人にも及ぶという。

O2月末 広東省深?市の玩具企業で労働争議。 暴動レベル0。

 ・実状 : 香港系の大手玩具メーカー、広達実業の深?市龍崗工場で労働争議が発生。従業員約150人が龍崗区労働局に押し掛けて仲裁を陳情した。

 ・原因 : 会社が受注減を理由に勤務日数を減らし、賃金をカットしたため。1月は休日が多く、最低賃金を下回る金額であっとという。


≪私の暴動評価基準≫

暴動レベル0 : 抗議行動のみ 破壊なし

暴動レベル1 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以下(野次馬を除く) 破壊対象は
          政府関係のみ

暴動レベル2 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以上(野次馬を除く) 破壊対象は
          政府関係のみ

暴動レベル3 : 破壊活動を含む抗議行動 一般商店への略奪暴行を含む  

暴動レベル4 : 偶発的殺人を伴った破壊活動

暴動レベル5 : テロなど計画的殺人および大量破壊活動

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