小島正憲の凝視中国

上海あれこれ:2011年9月 & チャイナ・インサイドウォッチ:2011年10月24日 


上海あれこれ : 2011年9月 
21.OCT.11
1.イケアで、中高年の身勝手な「婚活」イベント

 徐匯区にあるスウェーデンの家具小売:イケア(IKEA)の店内にあるカフェテリアに、近所の中高年が大勢集まり、そこを婚活の場所として利用するようになったため、イケア側は大変困惑しているという。


 イケアは、世界41か国に店舗を持ち、独特の回遊方式の展示陳列やイスやベッドなどを顧客に自由に使わせるというコンセプトで、大きく業績を伸ばしている。また会員になれば平日は、無量でコーヒーなどの飲料のサービスが受けられ、カフェテリアでゆっくり休めるようになっている。これまでイケアは、世界各国でこの方式を取り入れており、まったく問題がなかった。ところが今回、上海の徐匯店では、想定外の事態に直面してしまったのである。

  

 イケアのこの特典を利用し、上海市徐匯区の近所の中高年男女がカフェテリアに、毎週火曜日と木曜日に定期的に集まり、そこを出会いの場所として利用するようになったのである。多いときは700人ほどが集合し、カフェテリアが占領され、イケアに買い物に来たお客さんがまったく利用できなくなってしまったという。この中高年男女は、おやつなどを持参し、無料の飲料を飲み、長時間、居座っておしゃべりを続ける。彼らが参集する日は、無料の飲料の紙コップが通常日の3倍にふくれあがり、ゴミも倍になるという。中にはおしゃべりに疲れると、店の販売用のベッドで高いびきをかいて寝込む中高年が出てきて、営業妨害の状況に近くなってきたので、さすがにイケア側も、個別に注意したり、組織的な集会は止めて欲しいとの貼り紙をしたり、懸命の努力をソフトに続けた。その結果、集合する中高年は、40〜50人に減ったという。

 私がイケア徐匯店を訪ねたときは、金曜日だったので、この集団を目にすることはできなかった。清掃係やガードマンに状況を尋ねると、やはりまだ毎週火・木には、50人ほどが集まり、婚活を続けていると話してくれ、わざわざ彼らの指定席?まで案内してくれた。たしかにイケアに限らず、中国の地方都市ではマクドナルドやケンタッキーの店でも、中高年の男女がその店の食べ物を買わないのに、店の座席を占拠している光景をよく目にする。ことに夏場の暑いときには、近所の中高年が涼しさを求めて集まって来ることが多い。店の側でも、それを追い払う様子も見かけない。したがって一般客は、昼食時などの混雑時には、座席を確保するのにたいへん苦労する。しかし今回のイケアの事態は、地方都市ではなく、中国の顔である上海で起こったのである。まさにこれは世界の常識やモラルが、中国では通用しない代表例であるといえよう。ちなみに当日のイケア徐匯店は、一般顧客が多く、盛況だった。

2.地下鉄駅構内にバーチャルスーパー登場

 上海の地下鉄駅構内にバーチャルスーパーが登場し、話題を集めている。地下鉄駅の構内の壁や柱に、商品広告が値段入りで貼り出されており、利用者はその商品の写真の下の2次元バーコードをスマートフォンで撮影し、簡単な操作をするだけで商品を購入できる仕組みになっている。この中国初のバーチャルスーパーは、「無限1号店」という名称で、中国のEC企業「1号店」が今年の7月から始めた。この反響を見て、北京などにも同様の方法で進出する予定。

 

 私はこの現場を見に行ったが、壁に貼ってある広告については、見つけ出すことができなかった。駅員さんに聞いても、撤去されたという答えが返ってくるだけだった。一生懸命、構内を探していたら、ホームの柱にその広告が貼り出されていた。しかし品数は20点ほどしかなく、それを立ち止まって見ている人もほとんどいなかった。私もこのバーチャルスーパーでなにか購入しようと思ったが、まず購入用専用ソフトをインストールしなければならず、それは柱の側面に表示してあったが面倒そうだったので止めた。そこで30分間ほど、近くのイスに座って様子を見続けていたが、だれ一人、商品購入行動を起こさなかった。私はそれを見ていて、どうもこのバーチャルスーパーはアイディア倒れに終わりそうだと思った。

.田子坊エリアに全国商工会がアンテナショップ開設

 上海市の泰康路の田子坊エリアに、全国商工会連合会が日本の中小企業が製造した商品を販売するアンテナショップ「JAPAN MADE SHOP +8」を開設した。この店は、日本政府の中小企業支援策の一環として、中小企業基盤整備機構の協力を得て、商工会連合会が運営し、当面は、化粧筆、加賀漆器、南部鉄器、沖縄のガラス工芸品などを展示即売する。出展企業には現地での売り上げ動向をフィードバックし、上海でのテストマーケティングの場として利用してもらう予定。なお豊富な商品知識を持ったスタッフによる日本流の接客や贈答品のラッピングなどにより、本格的な日本式サービスを提供するという。

 田子坊エリアは、上海の古い街並みが残り、商店やレストランが立ち並んでいる有名な観光地の一つである。日本では、高樹のぶ子氏の日経新聞の連載小説「甘苦上海」の舞台ともなり、最近、一躍脚光を浴びている場所である。また中国人の観光客も団体で訪れるほどの場所でもある。

 私が田子坊エリアを訪れたときも、そこは多くの中国人や外国人の観光客で混み合っていた。せまい路地に商店が軒を連ねており、その光景を観光客がカメラに納めようとして道を塞いでしまうので、通りは余計に混雑していた。私はてっきり全国商工会のアンテナショップもそのエリアの中にあると思い、案内所でその場所を聞いたが、案内係の女性はわかりませんと答え、代わりに日本製品を売っているという店の場所を教えてくれた。そこで狭い路地を通って、その店に行ってみたところ、狭い店内にはたしかに日本製品らしきものがたくさん並んでいたが、やはり全国商工会とは関係がなさそうだった。仕方がないので、その店の主人に全国商工会のアンテナショップのことを聞いてみたところ、それは田子坊エリアからは少し離れた場所にあると教えてくれた。

 

 教えてもらったように、田子坊エリアを出て50mほど歩いて行くと、たしかにそこに全国商工会のアンテナショップがあった。しかしその周辺には観光客も地元の人も、まったくいなかった。そこは田子坊エリアの賑わいがまったくない、落ち着いた静かな場所であった。店内に入ってみたところ、商品は奇麗に陳列してあったが、先刻の店の商品とは値段が2桁も3桁も違っていた。それらは私でも買うのをためらうほどの値段だった。店員の接客態度もそれほどのものではなかった。表に出て、20分間ほど様子を見ていたが、その間でこのショップを訪れたお客さんはゼロだった。私はこの店をアンテナショップと位置づけたら、すべての出展企業は中国進出を断念せざるを得ないという結論に至ると思った。とにかくこのショップにはお客さんが入らず、アンテナにもならない店だと判断できるからである。日本政府はこんなところでも、税金の無駄使いをしているのである。アンテナショップ構想などは、中国がWTOに加盟したときに試行するもので、10年遅い。

4.ミスタードーナツ店、破壊

 上海市の繁華街、静安寺にあるミスタードーナツの店が、貸し主のビル管理会社から、突然退去を求められ、話合いがついていないのに、破壊されてしまった。ミスタードーナツ店は9月末から営業停止状態に陥った。

 そのミスタードーナツ店は、地下鉄2号線静安寺駅の近くの虹環世界大厦の1Fにあり、メーンストリートに面しているので、貸し主はそこに「避難用通路を作る」という理由で7月に退去を求めた。ミスタードーナツ側は、貸し主と2016年4月までの契約を交わしており、それを拒み交渉中であったが、9月27日、突然、電気が切られ、1時間後にビル管理会社の職員らが来て裏側から店舗を破壊しはじめ、29日には表通りにビル入り口の看板を取り付けてしまった。ちなみにこのミスタードーナツ店は、日本と台湾企業が折半出資して運営しており、上海市内には16店舗を有している。

 

 私は10月中旬に、この場所に行ってみた。ミスタードーナツの看板は取り外されてしまっていたが、さりとて避難用通路として使用されている形跡はなかった。表のガラス戸には大きなカギがかけられており、中にはガードマンが一人、座っているだけだった。

5.新世界百貨、上海調頻壹広場を18億HK$で買収

香港の新世界百貨中国は、上海市長寿路にある百貨店「上海調頻壹広場(チャンネル1)」を、18億HK$(約174億円)で、米国の投資ファンド運用会社:ブラックストーンから買収すると発表。「上海調頻壹広場」の店舗面積は約4万2千u。もともと香港の金融会社が所有していたが経営不振のため、2009年、米国ブラックストーンの傘下会社の資産管理会社に売却したものだが、経営不振状態は挽回できず、再売却となった模様。ブラックストーン側は、「上海調頻壹広場」はこの3年間、同物件の使用率は90%を上回っており、経営は順調だったと言っているが、売却理由は明らかにしていない。

 一部の専門家はこの決断について、ブラックストーンが中国の景気後退および商業用不動産市場の急落との悲観的な観測から撤退したと推測している。また同社の撤退についてネットでは、近い将来の中国不動産市場、特に商業用不動産市場の暴落の兆しだとの意見や、この中国の現況は1990年初期に、多くの外国資本が日本から撤退した日本の不動産バブル崩壊直前と似ているという指摘が見られる。たいかに上海地区ではここ数年、百貨店の買収、再編が相次いでいる。

   

 「上海調頻壹広場」は地下鉄長寿路駅から歩いて10分ほどの位置にあるが、人通りはあまり多くなかった。百貨店内にもほとんど人影はなく、経営不振も頷ける状態であった。また2階には、ユニクロ、H&M、ザラなどの店舗が並んでいたが、ここにもほとんどお客さんは入っていなかった。


チャイナ・インサイドウォッチ : 2011年10月24日 
24.OCT.11
(目次)
1.温州商人の夜逃げ(続報)
2.陶宝商城(タオバオ・モール)騒動
3.悦悦ちゃんひき逃げ放置事件

1.温州商人の夜逃げ(続報)

@温州市現況

・現在、中国のネット上には、温州経営者の夜逃げの話題が頻出している。ある情報では、今年9月までに浙江省で企業経営者が従業員の給料を未払いのまま逃げた事件が228件に達しているという。

・今回の温州経営者の夜逃げの頻発は、政府の金融引き締め強化の結果と、不動産市場の沈静化による資金流動停滞が主因であり、インフォーマル金融から借り入れて不動産や博打に手を染めていた経営者が、資金繰りに行き詰まり、さらに高金利のインフォーマル金融に手を出すという悪循環に陥った結果と考えられる。

・しかもこの金融不安は信用不安に拡大しつつある。ある温州の経営者が香港へ3日間遊びに行き戻ってきたら、会社の前は人で一杯だった。多くの取引業者が、この経営者本人と3日間連絡がとれなかったため、夜逃げした思い、債権回収に駆け付けていたのである。またある経営者が設備更新のため中古設備を大量に売り出したら、翌日、銀行や取引業者が、倒産かと思い、大勢駆け付けてきたという。

・10/17、浙江省温州市の金融管理担当幹部は、省政府に温州市を「金融改革総合試験区」に指定するようにとの申請を出したという。金融引き締めなどに伴う資金調達難から、インフォーマル金融への依存を強めている中小企業を救う処置だとしている。

・温州の中小零細企業経営者の9割は、銀行から融資を受けることができず、親戚や友人からの恩貸、そしてインフォーマル金融に頼っているという。銀行からの借金は、中小零細企業には査定が厳しく、融資までに長時間を要し、なおかつ借金の1割程度のリベートを要求されるためらしい。

A内モンゴル自治区鄂尓多斯市へ飛び火

・10/18の中国紙によれば、鄂尓多斯市で農村出身の女が巨額詐欺で逮捕された。この女は、昨年1年間で、約4000人から総額40億元(120億円)にも上る資金を、利息4割という甘言で集金したのち、それを不動産投資に注ぎ込み、見事に失敗し、借金返済不可能となり、逮捕される羽目となった。なお、この女は、10年ほど前に内モンゴルの田舎から鄂尓多斯市へ出稼ぎに来て、知人などからの借金でエステやレストランを始め、成功をおさめており、それなりに知名度が高かったという。

・温州市の周徳文中小企業促進会会長は、「鄂尓多斯市の民間金融の普及範囲は温州市より広い。早急に手を打たないと第2の温州になる」と警告を発している。なお、学者の一部は、鄂尓多斯市のインフォーマル金融の総額は2000億元(2兆4千億円)規模と推測している。

・鄂尓多斯市の人口は65万人(3人を1世帯と計算すると22万世帯)であるが、2010〜11年だけで、新築マンションは3800万u増加した。これを単純に計算しても、鄂尓多斯在住の市民は、1世帯当たり約180uのマンションを持っていることになる。2010年以前に建てられたものや、現在も建設中のものも含めると、鄂尓多斯市民は1世帯で、マンションを3軒ほど保有していることになる。これは異常な数値である。しかもこれらのマンションの所有者はほとんど賃貸することなく、とにかく値上がり期待で持ち続けている。しかも来年度の建設計画が目白押しである。

 ※既報参照 2011年5月29日 「鄂尓多斯で鬼城増殖中」

B広東省東莞市へ飛び火?

・広東省東莞市厚街鎮の黎恵勤共産党書記は、経営者が夜逃げした場合、給与の未払い額が5万元(約60万円)を越えたときは指名手配を行い拘束するとの考えを示した。同書記は、指名手配の他、企業内部への労働監督員配置、ブラックリストの作成、専門家による刑事事件の追及などを夜逃げ防止策として検討していると発表。なお厚街鎮では昨年夜逃げした経営者のうち、約1/3は無認可(モグリ)経営だったという。

C福建省寧徳市へ飛び火?

・女性不動産経営者が行き詰まる。借金総額は21.5億元(約260億円)、そのうち銀行からの借金は4億元のみ、その他はインフォーマル金融から。債権者は100名ほど。この女性経営者は政府に支援を要請したが断られ、債券を株券などに転換する方法を提案されたという。

D金融危機に発展か?

・今年の7月の1か月間で、銀行から合計1.1兆元(約13.2兆円)を、個人と企業が引き出した。この巨額な資金の行き場は、インフォーマル金融への参入と国際貿易の人民元決済による膨大なチャイナマネーの海外流出となっているのではないかと、予測している学者がいる。

・中国には、高利貸し市場(インフォーマル金融)よりも規模の大きい商業手形市場が存在するという学者もいる。

・上海市内の金融機関が今年1〜9月に新規に受け入れた預金(外貨を含む)は413億1000万元と、前年同期比37%減少した。預金金利が物価上昇率を下回る「実質マイナス金利」が長期化していることが減少につながったとみられている。

2.陶宝商城(タオバオ・モール)騒動

・10/10、アリババグループ傘下のオンラインショッピングサイト大手の陶宝網が運営するB2Cサイト「陶宝商城」が、同サイト内の出店企業5万社余に、「来年から技術サービス料(年会費)を、現行の6000元から3万元と6万元の2段階に値上げする。また保証金を最大で15万元に引き上げる」と発表した。

・10/11夜、これに反発した7000社にのぼる中小規模の出店企業が大手企業に対し、さまざまな嫌がらせを行った。

集団抗議行動はインターネットで呼びかけられ、5599人が一斉に大手業者のモールで、「商品着荷払い可」の制度を利用して大量注文を繰り返し、商品が届いたらすぐに返品する行動が行われた。またネット上に最悪評価を書き込み、営業を妨害した。攻撃の対象となったヤングアパレルブランドの「韓都衣舎」や「七格格」、「ユニクロ」などは、モールから商品を一時的に撤去せざるを得なくなったという。なかには閉店に追い込まれた商店もあった。

・10/14、事態を重く見た中国商務省電子ビジネス・情報文化局の責任者は、陶宝関係者に「中小零細企業の合理的な要求に答えるように」と指示し、出店中小企業関係者には「合法的な手段で訴えるべきだ」と話した。

・10/17、アリババグループの馬雲最高経営責任者は急きょ米国から帰国し、陶宝商城(タオバオ・モール)の年会費引き上げなどを1年間延期すると発表した。ただし2013年度からは引き上げる、また新規出店業者には当初の予定の年会費を徴収するとした。

・10/18、陶宝モールの責任者は、今回の集団攻撃を煽った17名の中心人物は、過去において陶宝モールで問題があり処罰された業者だったと発表。

※陶宝モールの今回の年会費などの値上げは、現在、中国ではECサイトが乱立しており、ことに「京東商城」の台頭に馬雲CEOが陶宝モールの経営に危機感を持ち、入居している店舗の質を向上させようとし、年会費を引き上げ、泡沫商店や不良商店の切り捨てを狙ったものだという。またニセ物商品を売る悪質な店舗を閉め出すことを目的にしていたとも言われている。しかしながら馬雲CEOの狙いは、想定外の中小出店業者の反発を招き、頓挫した。このように中国では、百戦錬磨の中国人経営者でも手を焼くような常識外かつ想定外の事態が起きるということである。

3.悦悦ちゃんひき逃げ放置事件

・日本でも、中国広東省仏山市で起きた2歳女児の悦悦ちゃんのひき逃げ放置事件については、テレビなどで繰り返し報じられている。それらは現在の中国社会の「人心荒廃」、「冷漠社会」を象徴する現象として、騒がれている。

・たしかに現在、中国では、民心のモラルが崩壊している。しかし中国人民の間に、もともと「他人を助ける」という道徳が存在していないということではない。ほとんどの中国人が善良で、他人を助けることを自らの信条として持っている。

それでも最近、中国では「倒れた老人を助けて、逆に訴えられる」というようなとんでもない事件が頻発しており、多くの中国人が自衛のために、やむにやまれず「見て見ぬ振りをする」行為を選んでいるのである。今回の悦悦ちゃんの場合でも、側を通り過ぎた人たちの心情も同様だったと思われる。彼らを人非人として批難することは容易いが、むしろ彼らをしてあのような行動を取らしめた社会に、その責めを負わせるべきだと思う。もし私があの場面に遭遇していたら、おそらく私も彼らと同じような行動を取っていたであろう。

・10/18、広東省政府は、学者や婦人団体幹部らを集めて緊急討論会を開催した。そこでは救助を怠った市民への罰則の検討を求める意見も出たという。

・このような中、北京の有名弁護士20人以上が、道徳社会を構築しようと「冷漠(薄情)停止連盟」を立ち上げ、「困っている人の手助けをして、万が一疑いがかけられた場合、無料で法律面での支援を行う」ことを決めた。