小島正憲の凝視中国

読後雑感 : 2010年 第23回


読後雑感 : 2010年 第23回
10.DEC.10 
《尖閣諸島問題に関する“反中本”特集》

 尖閣諸島問題が起きてから、この2か月間で、この事件に関して下記の10冊の“反中本”が刊行された。

 これらの本の多くが、尖閣諸島が歴史上、日本の領土であったことを各種の資料を列挙し詳述している。また今回の事件の経過を正確に記して、読者の意識整理に役立てようとしているものもある。しかし、中には書き下ろしではなく、数年前に刊行したものにコメントだけ付け加え再版した便乗本もかなりある。

 さらにこれらのすべてが、中国の現状を経済大国であると分析し、やがて軍事大国化すると予測している。また今回の尖閣諸島問題に関する中国の目的についても、資源確保あるいは国内世論対策などが主体であると記している。その上、これらの中国の動向に対し、日本のとるべき行動として、それぞれ思想的準備、憲法改正、軍備拡張、核武装、日米同盟堅持などの主張を開陳している。

 はからずも今回、フジタの社員が拘束されたことによって浮上した遺棄化学兵器処理問題について、それを詳述しているのは水間氏(6)の1冊のみである。この本は読む価値がある。


1.「日本支配を狙って自滅する中国」

2.「新たなる日中戦争!」

3.「中国はなぜ尖閣を取りに来るのか」

4.「中国はなぜ“軍拡”“膨張”“恫喝”をやめないのか」

5.「尖閣戦争」

6.「今こそ日本人が知っておくべき“領土問題”の真実 国益を守る“国家の盾”」

7.「中国人の99.99%は日本が嫌い 新装版」

8.「これだけは知っておきたい 日本・中国・韓国 の歴史と問題点80」

9.「日中韓 歴史大論争」

10.「覇権国家・中国とどう向き合うか」

1.「日本支配を狙って自滅する中国」  黄文雄著  徳間書店刊  11月30日発行
  副題 : 「世界が警戒する恫喝大国の行方」
  帯の言葉 : 「2011年6月17日、1000艘の中国船が尖閣諸島を占拠する!」

 黄氏はこの本で、「職業的反日活動集団の“新華僑”が、2011年6月17日に、千艘の船団を組み、尖閣諸島を包囲、上陸することを宣言している」と書いている。

 黄氏は、中国が尖閣諸島を取ろうとする理由を、第1に日本を仮想敵国にすることであるとし、「なぜ中国は仮想敵国がないとだめかというと、中国は国も民族もバラバラ (孫文がいう“;一皿の砂”)で、多文化、多文明、他宗教社会である。そういうバラバラなものを無理に一つにしているため、仮想敵国がないと、国として成り立たないのだ。国民のエネルギーが暴動や独立運動へ向きかねないからだ」、第2に「中国の陸上資源がほとんど枯渇に近づいてきたので、海洋資源を求めて、海洋へ進出せざるを得ないからである」と書いている。そして「その先にあるのは、周囲の反日国家を糾合して、尖閣変換を迫ろうとしているのであり、沖縄および日本支配である」と主張している。

 また人民解放軍の動向については、「人民解放軍の首脳部は、“日本は沖縄を死守するために人民解放軍と一戦を交える決意があるので、その沖縄の日本軍を全滅させれば、東海(東シナ海)の長期安定を保つことができる”と分析している。厄介なのは米軍の海兵隊だが、アメリカは核戦争を恐れているので、アメリカへの本土攻撃がないことを示せば、アメリカは中日戦争に介入しないだろうとアメリカの出方も読んでいる」と書いている。その上で、「国防部長の梁光烈は作戦幹部に沖縄急襲作戦準備の開始を指示する一方、もし日本政府が日本の「右翼」たちによる“尖閣諸島守備隊”の尖閣上陸を黙認するならば、中国海軍も総力を上げて“奪還作戦”を展開すると警告している」と記している。

 また黄氏はこの本の題名に、「自滅する中国」と書き、本文中でも「強大化する中国で内部崩壊が始まっている」という項を起こしているが、その姿について具体的にはまったく書いていない。さらに今回中国政府が、強硬な姿勢に出ているのを、「中国に後がなくなってきたのが原因」と書いているが、これまた具体的な記述はない。

 さらに、日本の取るべき道として、「中国の理不尽な領土主張に毅然とした態度で臨むべきであるが、同時に、きちんとその方法やオプションを用意しておくことだ。外交には先手を打って大使を召還するというのがもっとも毅然とした態度になる。断交の一歩手前が大使召還なのだ」と書いているが、その他には具体的な方法を書いていない。

 黄氏はよほど慌ててこの本を書いたのか、本文中にはマスコミ情報を鵜呑みにして書いている個所がたくさんある。たとえば暴動が年間10万件近くもおきているという記述が3個所も出てくることには、呆れた。

2.「新たなる日中戦争!」  田母神俊雄著  徳間書店  11月30日
  副題 : 「中国を屈服させる30の戦略」

  帯の言葉 : 緊急出版 「“ならずもの”国家へ宣戦布告! 恫喝外交と情報操作に騙されるな」

 この本で田母神氏は、「13億の人口を抱える中国は、ここにきて資源の確保に躍起になっています。尖閣諸島の周辺海域には、莫大な量の天然資源が眠っているといわれています。その資源に目をつけ、手に入れようとしているのが、ならずもの国家・中国です」と言い切り、「わが国には、中国に攻め入ろうなどという考えは、まるでありませんが、中国はチャンスがあれば攻めてきますし、あわよくば日本の島をみんな奪いたいと考えています」と書いている。その反面、尖閣諸島付近では、「両軍間で偶発的な衝突が発生する危険性は以前と比べて格段に高まっているといっていいでしょう。しかしそれが国家の総力を挙げた戦争に発展するようなことはないでしょう」とも書いている。

 田母神氏は、「富国強兵政策を掲げ、直接侵略に対抗する軍事力、間接侵略をさせない情報能力を養うことが、日本の責務である」、「非核三原則を撤廃せよ」、「自立した防衛体制を構築しろ」、「石垣島に自衛隊基地をつくれ」、「国産空母建造に着手せよ」などと主張し、「借金だらけで不況に苦しんでいる今、武器輸出三原則など撤廃して武器を売ればよい」と、“死の商人”たちを喜ばせるようなことまで言っている。また「文民統制が自衛隊を弱体化させる」と主張し、軍人が政治に介入する道を開こうとしている。

 米中関係について、「中国とアメリカは、21世紀に入り経済的な関係を強めています。・・・もし中国によるアメリカ国債の売却が実行された場合、世界経済が大混乱に陥ることは目にみえています。中国も困りますが、アメリカも怖いわけで、国債の売却防止のために、尖閣諸島には干渉しないというスタンスを取る可能性は十分に考えられます」と書いている。

 田母神氏は序文で、「この本の中で、中国が尖閣問題で仕掛けて来た“情報戦略”の全貌を明らかにして行きたいと思います」と書いているが、本文中にはその具体的な記述はほとんどない。

3.「中国はなぜ尖閣を取りに来るのか」  藤岡信勝・加瀬英明編  自由社  12月1日
  帯の言葉 : 「日本の論客10人が語り尽くす亡国の危機
          ひれ伏す日本 嵩にかかる中国   尖閣で日中戦わば、自衛隊は勝つ」

 この本の第1章はこの間の事実経過、第2章は歴史的事実について詳細に記述している。

 第3章は、加瀬英明氏と石平氏の対談である。2人は中国が尖閣を取りに来る目的を、まず尖閣周辺の海底資源であり、資源獲得のための海上交通路確保であると語っている。さらに「中国漁船の15人の船員は中国の海上民兵であって、中央の指令によって、我が領海を意図的に侵犯したもの」だから、「逮捕した以上、日本の法律に基づいて、2年だったら2年、3年だったら3年、船長を日本の刑務所に入れておくべきだった」と言い、それが日本政府の取るべき毅然とした態度だったという。さらに毅然とした態度を取らなかった日本政府に対して、「日本人は中国政府の報復を恐れる。なぜかというと、中国人が怒っているから。でも怒らせた方がいいんですよ。もっともっと怒らせて、もっともっとひどい報復措置を出させればよかった」と、日中全面戦争に発展してもかまわないようなことを言っている。しかも「魚釣島に陸上自衛隊を常駐させておくべき、日本は憲法改正をして核武装すべき」と主張している。

 なお両氏の米中関係の見方は、「アメリカと中国は、経済の結びつきができた今、全面対決できない体質になっている。中国からアメリカへの輸出を完全に止めれば中国の経済は確実に崩壊する。しかし逆に、中国が持っているアメリカの国債をすべて手放してしまうと、アメリカ経済も駄目になってしまう。ゆえにアメリカと中国の全面的衝突はありえない」という点で一致している。

 第4章は、田久保忠衛氏と平松茂雄氏の対談である。両氏は中国の尖閣取りの狙いを、「尖閣諸島というよりもその地下資源、とくに石油が出るということにまず中国が興味があった。・・・その後の動きをみると、どうもそうじゃなくて、中国が太平洋に出てくるルートを確保しようとしている」と、語っている。そして日本には「断固としてある一線だけは譲らないという意志を示す軍事力の整備、つまり国軍が必要です。プラスは日米同盟以外にない」と述べている。

 第5章は、川村純彦氏と佐藤守氏の対談である。両氏は中国の尖閣取りの狙いを、「尖閣諸島は、中国が核戦略を完成し、超大国になるための最高のプライオリティのはず。天然ガスなどのエネルギー資源の確保という経済的要因は二の次とみてよい。・・・そして尖閣を取ったら次は沖縄ですよ」と語り、日本の対策としては「憲法改正」を行い、「尖閣諸島には自衛隊の駐屯管理小隊を置いて平坦基地にする。レンジャーの訓練基地にすればよい」と述べ合っている。なお、「日本が尖閣周辺に潜水艦を展開すれば、中国は艦隊を出せないから、尖閣の奇襲上陸に成功したとしても補給ができないから戦闘は続けられない。ミサイルと核抑止力をアメリカに依存できるという前提を置けば、自衛隊には尖閣を含め東シナ海を軍事的に守る能力が十分にある」とも語っている。さらに両氏は、日本には領空侵犯に関する法律はあっても、領海侵犯に関するものはないと嘆いている。また「2011年6月17日に、全世界の華僑を集めて数百人規模で上陸する計画がありましたが、アメリカでの資金集めに失敗しました」とも書いている。

 第6章は、西尾幹二氏と高市早苗氏の対談であるが、中国の尖閣取りの目的などに直接言及した個所はない。ただし高市氏は今回の船長を「外国人漁業規制法で逮捕すればよかった」と言っている。

4.「中国はなぜ“軍拡”“膨張”“恫喝”をやめないのか」 櫻井よしこ・北村稔編  文藝春秋 10月30日
  副題 : 「その侵略的構造を解明する」
  帯の言葉 : 「中国の妄言に翻弄されない日本になろう!」

 この本の第1部で、櫻井氏は本書出版のきっかけを、「21世紀以降日本の命運が、軍事的にも経済的にも世界第2の地位を占めるに至った中国との関係によって大きく影響されるのは明らかで、あらゆる意味で一筋縄ではいかないこの隣国との関係構築を間違えれば、日本国未来を過つことになるとの危機感だった」と記している。さらに「米中両大国の間にあって、日本が自助努力することなしにもはや日本の安全は保障されない」、「東シナ海と尖閣諸島で主権を守り得なければ、その先に更なる大きな敗北が日本国を待ち受けていることを、自覚したいものだ」と書いている。また「懸案事項となっている尖閣諸島問題を巡る中国の主張と手法は、中国のチベットに対する手法と共通項がある」と付け加え、過去において、ケ小平が改革開放直後、文革で疲弊した経済立て直しのために日本の援助を必要としていたときが、尖閣諸島問題を解決する好機だったと言っている。

 田久保氏は、「米国はイラク、アフガニスタン問題を抱え、イランの核開発阻止や北朝鮮の核拡散に意を用いるなど対外的に難問を抱えているからこそ、中国との間ではなるべくトラブルを回避しようとする。中国は国内にいくつもの火種を宿しつつ、13億の人口を支えるために石油などのエネルギーその他の原料を海外で確保しなければならない。安定した米中関係の中で米国の対中関与政策はさらに進展し、中国が“和平発展”を強調し続ける理由は十分にある」、「米国は日本との間で同盟関係を維持しつつ、中国との間では経済的相互依存性を強め、直接、間接に中国の民主化を促す方向を求めていくだろう」、「米中両国が歴史認識で歩調が合えば、日中の争いは中国に軍配が上がる。・・・日本にとって米中対日本の対立の構図は、最大の悪夢となりかねない」と書いている。

冨山氏は、「米国は中国の軍備増強に対するヘッジを実質的に継続する一方で、できれば台湾をめぐっても、朝鮮半島をめぐっても、中国と一戦を交えたくないという気持ちを近年強めている。この傾向は、今後ますます強まるだろう」と述べている。

 この本の第2部では、「中国の“歴史解釈力”の嘘を見破る」というテーマで、多くの論者が持論を展開している。それぞれに学ぶべき点も多いが、私なりの疑問点もそこそこある。

5.「尖閣戦争」  西尾幹二・青木直人著  詳伝社新書  11月10日
  副題 : 「米中はさみ撃ちにあった日本」
  帯の言葉 : 「中国は次も必ずやってくる。ここは正念場」

 青木氏は、「今回の尖閣事件は、単に無法者の中国漁船が日本の領海に来て暴れた、それを海上保安庁が逮捕して、仙石官房長官が超法規的に釈放したということ以上に、中国がアメリカを事実上、抱き込むことによって、良好な両国関係を背景にして、日米安保を空洞化させ、日本に揺さぶりをかけるという思惑があったのではないかと思われる」と、独特の切り口で書いている。西尾氏は日米中の経済関係について、「米中両国の間には、いつ摩擦が起きてもおかしくないほどの不均衡が存在しているのに、アメリカが寛大で問題視しないのは、中国の対米輸出の半分近くがアメリカ進出企業だからである。つまり中国商品を一番多く輸入する国はアメリカであり、そして中国が一番多く購入する国は日本なのです。すなわち中国は日本から大量に購入し、アメリカに大量に輸出するという三角貿易が行われている」と、書いている。

 さらに西尾氏は、「アメリカは13億の市場に惹かれて、そのような不明瞭な中国に接近し、和解し、これと政治的強力関係さえ結んだ。いまや米中経済同盟の時代に入った。さらに米中軍事同盟の時代にさえ進みかねないきわどい情勢が近づいている」と書き、続いて「日本はこの情勢の変化になんの用意もできていない。軍事的にはもとより、その前に心理的、精神的用意が必要だ。尖閣の一件が中国による対日侵略の宣言であり、ある種の“宣戦布告”だという、本来、われわれがしっかり見抜かなくてはならない当然の認識さえ、まだ持っていない人が圧倒的に多い。今後、アメリカとの同盟が続いている間に、アメリカにこれ以上依存するのではなく−現実には突き放されているのだから−日本自身が独力で国を守る意志を明らかにし、具体的行動を内外に展開しなくてはならない」と、記して。

 また青木氏は、「私個人は国家の意思として、尖閣の周辺海域に海上保安庁ではなくて海上自衛隊を常時覇権すべきだと思います」と言うと、西尾氏は、「その通りです。・・・さしあたりは、向こうが軍事的に対応してくる前に軍事的に行動するという覚悟をしっかりと持つ準備態勢を、いまの政府でもやってもらわなければ困ります。・・・やられたら日本の軍は立ち上がる、自衛隊はやるという体制をしなければならない。そういう国民世論を持ち上げていくということが大切であるとお思います」と答え、二人で「政府と日本国民に戦争の準備をせよ」と、けしかけている。

6.「今こそ日本人が知っておくべき“領土問題”の真実 国益を守る“国家の盾”」水間政憲著 PHP
                                                    12月10日
  帯の言葉 : 「一次資料で読み解く“尖閣、竹島、北方領土は日本領”の動かぬ証拠」

 この本は、第1章のみが尖閣諸島問題を扱っており、第2章は竹島、第3章は北方領土、第4章は靖国神社の問題を扱っており、第5、6章では遺棄化学兵器問題を詳述している。しかもそれらは過去に発表したものの再録が多い。その意味ではこの本も便乗本である。しかしながら水間氏は、「2010年9月7日に勃発した中国漁船による尖閣問題が飛び火し、中国石家荘でフジタの日本人社員4人が中国公安部に拘束され、俄然注目を浴びることになった、“遺棄兵器”問題は、日本のマスメディアがほとんど報道しないままに進展していました。これを機会に“遺棄兵器”問題を徹底的に掘り下げることで、日中間の闇を明らかにできる」と書き、この本の半分を“遺棄化学兵器”問題の解明に割いている。この本は尖閣諸島関連出版本の中では異色であり、一読の価値がある。なお、遺棄化学兵器問題については、この本をタタキ台にして、次回の小論で、私見を述べる予定である。

 水間氏は、「今後、わが国が固有の領土である尖閣諸島の実効支配を確実なものにするには、物理的に海上保安庁の巡視船と海上自衛隊の艦船を増強することと、自衛隊員の常駐など尖閣諸島の要塞化も必要であるが、中国が日本の主要都市に核弾道の照準を合わせている現状では、時すでに遅きに失した感がある。それに対抗するには、2011年早々、空母機動艦隊を就航させると恫喝している中国を抑止するための方策として、米国の直接的な国益になる手段を講じる以外に、尖閣諸島を守りきることはできない。その手段は、約800兆円と推定される尖閣海域の海底油田、天然ガスを、日米共同で開発することである」と書いている。

7.「中国人の99.99%は日本が嫌い 新装版」  若宮清著  ブックマン社  10月25日
  帯の言葉 : 「中国は絶対に謝らない! ウソを100回言い続ければ真実になる国が、尖閣諸島を奪うのは
            いつだ!?」

 「本書は、2006年2月に出版したものの新装版」であり、いわば尖閣諸島問題にかこつけた便乗本である。

 若宮氏は5年前に出版した本のプロローグで、「読者諸君、政府当局者に注意を喚起したいことがある。それは尖閣諸島の石油問題である。・・・中国は一歩も退かず、軍艦を派遣して一戦も辞さずの心構えでいるだろう。・・・軍事衝突になれば、我が海上自衛艦はあっというまに沈められるだろう」と、書いておいたといい、「念を押すが、これは、今、書いたものではない。幸か不幸か、2010年の今、筆者の予測はハズれることはなかった」と、この本のプロローグで自慢している。若宮氏はその“予言”が当たったことを披瀝しているが、過去において、他の多くのチャイナ・ウオッチャーたちにも、尖閣諸島についての指摘は少なくないので、これは若宮氏だけの独創的予測とは言い難い。

 なお、本書の中国大陸関係部分に関する分析は、聞き書きが多く、それが5年前のものであることを考慮しても、わざわざ購入して読む価値はないと思う。

 またこの本文中で黄文雄氏について、「黄氏の著作は中国理解にとって必要なものだと思っているのだが、台北に住む彼は“無益の長物で読むことは時間の無駄だ”という「意見を持っているようだ」と書いており、さらに金美齢氏や黄文雄氏などは、30年以上も前に台湾から逃れて来た人たちで、彼らの影響で、「台湾がさも親日だと思っている日本人が多いのには困ったものです」とも記している。

 遺棄化学兵器問題については、「この処理に対し、中国から1兆円あまりの金額を要求されているという話がある」として、「外務省の今後の行動を厳重に監視せねばならぬ」と書いているが、この所轄官庁は内閣府である。


8.「これだけは知っておきたい 日本・中国・韓国 の歴史と問題点80」
                                     竹内睦泰著  ブックマン社  10月5日

帯の言葉 : 「尖閣諸島はあきらかに日本領だ! 今こそ知るべき日本の領土と戦後賠償。1時間で全体像がわかる!」

「本書は、2005年に弊社より発行した同名著を、新装改訂版として新たに出版したもの」で、この本もいわば尖閣諸島問題にかこつけた便乗本である。尖閣諸島問題が記してあるのは、わずか6ページのみであり、日中韓3国の歴史についてもその記述がかなり偏向しており、わざわざ購入するまでもない。


9.「日中韓 歴史大論争」  櫻井よしこ他著  文春新書  10月20日
  帯の言葉 : 「“尖閣漁船事件”“日韓併合百年”で沸騰 軍拡、靖国、竹島、人権・・・祖国の名誉をかけた
           マラソン言論戦」

 この本の8割は過去の討論(2005〜08年)の再録である。最後の40ページほどが今回の尖閣諸島問題を扱っているだけであり、その意味ではこの本も便乗本の類であると言わざるを得ない。その最後の部分も、櫻井、田久保忠衛、古田博司氏の鼎談であり、田久保氏が、「日中間でいえば、目の前にあるのは尖閣問題ですが、大局的観点に立てば、背景には中国の東シナ海から南シナ海、太平洋、さらにインド洋にかけての覇権拡大という戦略があることに気付くはずです。ただし、戦略を実行に移す戦術が稚拙なために、アメリカをはじめインドやASEAN諸国に警戒心を抱かせている」と主張している点が、直接的に中国の尖閣諸島問題への意図を解析しているのみである。

10.「覇権国家・中国とどう向き合うか」上田愛彦・五味睦佳・杉山徹宗著 ディフェンスリサーチセンター 
                                                        11月10日
   副題 : 「2020年を見据えたわが国の防衛」

 この本は、尖閣諸島問題を正面から取り扱った本ではないが、「中国の海洋進出の目的は、@国土防衛のための防御縦深性の拡大、A海洋権益と資源の確保、B国際的影響力の向上であり、中華帝国の再興と覇権の確立をねらいにしている」と述べ、それに対抗するための日本の防衛の戦略・戦術を自衛隊OBなどが詳しく論じている。

 まず2020年の国際情勢を、「中国が中華帝国の実現を先にするか、それともロシアが旧ソ連と同様の超大国となるかは、今後の両国の経済発展の進展次第だが、09年現在の経済成長率からするならば、2021年前後には、両国とも確実に超大国となって、米国、EUとともに、世界を4分割する事態が生じる可能性もある」と分析している。また中国の覇権主義については、「胡錦濤主席は世界に通用する儒教を復活させ、社会主義と結び付けた思想を展開し自由民主主義や資本主義に対抗しようとしている。すなわち、中国的共産主義社会の建設を目指しているとも見える。今後は、軍事のみならず、経済、思想のソフトパワーを含めたあらゆる手段を駆使して覇権を追求してくるであろう」と書いている。

 さらに「今後も中国は間違いなく日本にとって最大の軍事的脅威となる。これを抑止するためには日米同盟は日本にとっても中国の影響を恐れる国にとっては必要不可欠の存在である。米国の政権が変わろうとも日米同盟・日米関係を信頼性の高いものにすることは日本の責務でもある」、「難問だらけの日本独自の核武装よりも、米国の核抑止力を強化する方が日本にとって得策である。しかし、日米同盟が解消され、米国の核抑止力がなくなる事態に陥ったならば、最後の手段としての日本の核武装の選択はのこすべきだろう」と記している。

 「防衛省幹部OBを大学の教授に、また自衛官下士官OBを中学・高校教師に任用すればよい」との提案もしている。