小島正憲の凝視中国

読後雑感 : 09年11月発行本 − その1 


読後雑感 : 09年11月発行本 − その1 
21.DEC.09
今回取り上げる書物

1.「ロスチャイルドと共産中国が2012年、世界マネー覇権を共有する」 

2.「『中国なし』で生活できるか」

3.「米中同盟で使い捨てにされる日本」

4.「中国人に売る時代!」 


1.「ロスチャイルドと共産中国が2012年、世界マネー覇権を共有する」  鬼塚英昭著  成甲書房刊 

                                                           2009年11月15日発行

  この異様に長い題名の本は、独断と偏見が多く、私は悪書の類ではないかと思う。たとえば鬼塚氏は、経済学の両巨頭を、「マルクスはロスチャイルドから、豪壮なマンションと大金を与えられて『資本論』を書いた」(P.44)、「ケインズが世に出ることになったのは、ビクター・ロスチャイルドの厚遇ゆえであった。ケインズは『ロスチャイルドの犬』であった」(P.52)とけなし、「バラク・オバマを大統領にしたのはユダヤ人であることに疑いの余地はない。オバマを大統領にするために資金を出した金融界のほとんどがユダヤ人である。政権内部もユダヤ人だらけだ」(P.159)と書き連ねている。全編にわたってこの調子の記述が続いており、いささか辟易する。

中国についての論評も、「カオス状態に陥っていく中国経済、その光と影」との見出しで、まったくでたらめな分析を行い、「結論を書けばこういうことになる。中国では大量生産方式が崩壊したので、失業者が急増した。彼らは生活の場を失ったので、本土難民と化した。数億人に達する可能性がある難民たちが、中国共産党の指揮下にある人民解放軍と戦争状態に入る可能性があるということである」(P.234〜238)と、内戦必至論を展開している。まさに荒唐無稽としか言いようがない。

それでもこの物語にも参考になる点はある。「中国は近い将来、人民元を世界通貨にしようと企んでいる。そのために中国自体の産金量を増やし、さらに金を買い漁り、金本位制への準備を着々と進めている」という指摘である。

 この点は、宮崎正弘氏なども力説している。私もこの主張については、あながち空想物語ではないと思う。現在の中国政府首脳ならば、そこまで視野に入れている可能性はあると考える。すでに貿易の人民元決済を試行しており、世界通貨への地ならしを始めているからである。またアフリカの金鉱への触手も伸ばし、中国国内の産金も強力に推し進めているのも事実であるからである。今後とも、この点については目が離せないと思う。

 鬼塚氏はこの本を書くに当たって、米国帰りの若手経済学者で、中国政府の経済ブレーンとなっている栄鴻平氏の「ロスチャイルド、通貨強奪の歴史とそのシナリオ」(河本佳世訳 ランダムハウス講談社刊 09年発行)から、そのアイディアを得ているようである。幸い邦訳されているので、私も近日中にこの本を読み、中国政府首脳の経済政策の真相に少しでも迫りたいと思っている。


2.「『中国なし』で生活できるか」  丸川知雄著  PHP研究所刊  2009年11月30日発行

  (副題 : 「貿易から読み解く日中関係の真実」)

 丸川氏は、中国の生産現場や流通事情を具体的にわかりやすくしかも正しく解説しており、これから中国を知ろうとする人にとって、この本は最高の入門書である。また丸山氏は本文中で、日本の食糧自給率や技能・研修実習制度の問題点を鋭く追及しており、この本は警世の書としての役割も果たしている。また毒入りギョーザ、マグロ、フードマイレージ、汚染米問題などの問題についても、わかりやすく解説している。

 丸川氏は、はじめにで「いやはや一体、我々はどれだけ中国製品に依存しているのだろうか。果たして日本において『中国なし』の生活は送れるのだろうか。本書では、いろいろな商品ごとに、中国からの輸入の実態を見て生きたいと思う」と問いを発し、終章で「このように、さまざまな製品を中国からの輸入に依存することは、日本にとって不可避であり、必然的なことだと思える。『中国なし』の生活は、もはやあり得ないのではないだろうか」と答えている。

 そして最後に「経済的利益を損なうという不利益を考える理性があれば、どの国も国家間の関係をこじらせるような愚行を思いとどまるはずだ。日本が中国に多くの製品を依存していることは、恐れるべきことではない。むしろ、それは日本経済の活性化につながり、今後も日本と中国が外交面でも良好な関係を保持する礎でもあるのだ」と結んでいる。私も同感である。

 丸川氏は序章で、中国の強みは安価で豊富な労働力であると説き、しかしその強みも2004年から出稼ぎ労働者不足が叫けばれるようになり、さらに2008年からの労働契約法の施行により労働者の権利意識が高くなってきており、強みの優位性が薄れつつあると指摘している。多くの中国ウォッチャーがいまだに失業者問題云々を言い続けていることを考えると、丸川氏はやはり中国の現場を正しく見ていると言える。

 第2章で、丸川氏は繊維業界について言及している。この業界は私の専門分野であるから、あら探しをしようと思い、じっくり文章を読み進めていったが、実によく調査してあり、結局ミスを発見することはできなかった。

 第4章で丸川氏は、「もしあなたが中国製の雑貨を買い付けようと思ったら、行くべき場所は一つだ。それは浙江省の義烏市である」と書き、そこには全世界から雑貨の買い付け商人が集まっているとその実情を紹介している。もし「そこにアラブ商人街ができているほどである」と紹介してあれば、私は丸川氏に満点を差し上げようと思ったが、さすがにその記述はなかった。

 第5章では自動車業界を俯瞰して、「急速に力をつけている中国の新興自動車メーカーが、日本に自動車を輸出するようになるには、まだ10年を要するであろう」と述べている。しかしBYDなどの電気自動車の進撃は予想外に早く、この点だけは、丸川氏の予測は外れるかもしれない。


3.「米中同盟で使い捨てにされる日本」  青木直人著  徳間書店刊  2009年11月30日発行

 この本からは、「日本がどのように、米中に使い捨てにされるか」を読み取ることはできない。かろうじて、切り捨てられるのが「拉致」と「台湾」であり、尖閣列島問題だということがわかるだけである。

 青木氏はまず、「はじめに」で自民党の歴史的敗北について、「親米保守をここまで追いつめた『米中同盟』とは何か。それは日本になにをもたらすのかを語りたい」と書き出しているが、最後では、「日本核武装阻止。当時から米中はこの一点において共通の利益を共有しあっている」と、結んでいる。

 青木氏は第1章で、オバマ政権の最大の関心事は経済再建とドル一極支配の維持にある。それは中国抜きには実現しない。ドルを支える国債の最大の保有国はすでに日本ではなく、中国なのである。…(略)中国は中国で、米国市場の存在は成功に不可欠である。両国は経済貿易分野に限れば、今や互いに離れることのできないシャム双生児と言っても過言ではない」と書いているが、この論はすでに世界の常識となっている事実であり、ことさらに解説が必要なものでない。

 第2章では、19世紀以降の米中の歴史を振り返りながら、1972年のニクソン訪中以後、劇的に関係が変化し、現在、米国のビッグビジネスの多くは、労働争議もありえない中国市場に殺到し、経済権益の確保に目の色を変えている。同時に共産党もまた外国企業が牽引する市場経済の成功に政権の生き残りをかける。両社の利害はほぼ一致している。…(略)市場経済に驀進する資本主義中国は、米国にとって21世紀のニューフロンティアになった」と書いている。これもまた青木氏にいまさら説明してもらわなくてもだれでも知っている理屈である。

 さらに「米国内には中国市場から利益を得る様座万利益集団もあり、こういう団体のロビー活動も活発である。政府はすでにこれを無視できなくなっている」と続け、「天安門事件以後、キッシンジャーが危機感を持ち、ブッシュを和解に急がせたもの。それは日本の中国ビジネスにあった。80年代以降、中国ビジネスの分野で、日本は一貫して米国を突き放していたからだ。米国企業は日本企業に対して、明らかに後塵を拝していた」と、当時の米国の焦りを説明し、それに対し「ケ小平は米国を引き込まなければ、中国はいつまでも世界の町工場のレベルに留まるしかない」と、中国のこれまた当時の切迫した状況を振り返っている。

 現在の米中関係については、「米国経済の失速と不振の長期化で、自国製品愛好の流れが出始めた。『バイアメリカ』がそれである。一方でこれに反発するかのように、中国は中国で『中国企業を防衛せよ』、『中国製品を守れ』の声が高まりつつある。警戒すべきは中国国内で高まる経済矛盾と愛国主義がひとつに重なり合ったときである」と、警告を発している。また「中国がもっとも警戒感を隠さないもの。それは日本人のナショナリズムの高まりである。この裏にあるものは核保有国北朝鮮の出現に対して日本は丸腰でいいのか、という自然な民族の防衛本能である」と書き、最後の「米中同盟の共有点は、日本核武装阻止である」という文言に結び付けている。


4.「中国人に売る時代!」  徐向東著  日本経済新聞出版社刊  2009年11月19日発行

 この本は、これから中国にモノを売ろうとする人のためのノウハウ本である。題名と内容がぴったりと一致している。

 まず徐氏はまえがきで、「中国経済はまだ政府の補助に依存している部分があるので、『投資依存型』というのはいまだに脱し切れていない。だが、『外需依存型』ではなくなった。中国はれっきとした巨大内需市場となったのだ」と、言い切っている。この言に無条件で賛成することはできないが、たしかに現在、中国の田舎の隅々まで消費ブームが沸き起こり、中国人老若男女がそれに便乗して踊っている。日本人もこの市場にモノを売り、ひと儲けしなければいけない。

 ところが徐氏は、そのように過熱する一方の中国内需市場に、なかなか日本企業が参戦してこなかったのを嘆きながら、「多くの日本企業が中国への本格参入という決断をできなかったのは、創業者世代がいなくなり、組織防衛を第1とし、冒険を避けようとしているからではないかと推測する。商談しても、即断できず、『本社に持ち帰って相談してから返答します』などという。だが、このような姿勢では、中国人の心を掴むことは難しい。なぜなら今の中国の経営者たちは、組織人ではなく、創業者として会社を経営しているからだ」と書いている。この言は、まさに正鵠を得ており、日本人にとっては耳の痛い話である。

 徐氏は、「日本企業はこれからの時代において低価格商品が大量に消費される新興国市場でも、勝負できる体質にならなければならない。やるかやらないかではなく、日本企業は巨大中国市場で成功を勝ち取らないと次の時代に生き残れない覚悟で、中国市場に臨むべきなのはいうまでもない」と、へっぴり腰の日本企業に檄を飛ばしている。

 徐氏は本文中で、コカ・コーラ、シーメンス、農夫山泉、ZARA、H&M、ユニクロ、カルフール、サムスンなど大企業の中国市場攻略法を具体的に紹介している。その上で、中小零細企業の中国市場進出の成功例として韓国企業を取り上げ、「韓国食品の快走を見ていると、『中国市場を攻めるのは難しい』という日本人ビジネスマンの嘆きを不思議に思う。『どんな格好でも構わないから、とにかくドラマも食品もファッションも何でも持ってきて中国人と一緒に楽しんでいこう』というのが韓国人のスタイルだ」と、韓国商売人の気質を学べと説いている。私は韓国でも工場経営をしたことがあるし、他の国でも韓国人といっしょに仕事をすることが結構多かったが、徐氏の指摘には納得できる。

 さらに徐氏は、「今や日本企業は『ガラパゴス化』している」と揶揄し、「優れた技術や高い生産効率を持ちながら、日本製品の国際シェアは低下し続けている。その一因として、日本市場という独特の環境で技術やサービスなどが独自の進化を遂げた結果、世界の消費市場からかけ離れてしまった」からだと言っている。そしてそのような日本企業には「このあたりで『生産やマーケティングだけでなく、企業経営の考え方そのもにも大変革』が求められている」と強く指摘している。