小島正憲の凝視中国

東日本大震災についての中国人の反応 


東日本大震災についての中国人の反応 
08.APR.11
 3月末、私は新疆ウイグル自治区へ、少数民族問題の調査に赴いた。
 そしてその地の政府や大学、資料館などの公的機関、あるいはホテルやレストランなど私的な場所で、多くの中国人と対面した。そのとき、すべての場所で、すべての中国人から、開口一番、東日本大震災への丁重なお見舞いと励ましの言葉をいただいた。そのことを、ここにまず報告しておく。また行く先々のホテルやレストランのテレビは、例外なく東日本大震災のニュースを報道していた。今回は、以下に、私が中国で見聞した中国人の東日本大震災についての反応を記す。

@東日本大震災後の日本の国力についての評価。

@.中国人経済研究関係者は総じて、次のように楽観的な見解を示している。

・日本のGDPは2011年の前半は若干落ち込むが、後半は持ち直す。

・もし地震がもっと南部の東京や南部工業地帯で発生していたら、日本は非常事態に立ち至っていたであろう。

・地震の復旧過程で、日本は東北地方に工業地帯を復活させるであろう。そうすれば今までの過度の東京への集中が是正される。そうすれば新しい経済成長の段階が来る。

・日本経済は、第1四半期は悪くなるが、第2四〜第4四半期には再建の影響を受けて、年3%の速度で成長する。阪神大震災のときより痛手は少ないのではないか。

A.ただし原発問題をコントロールできなければ、「日本経済は世界の孤島になる」と警告。

・放射能汚染の問題が広がれば、外国人は日本を離れ、日本は金融・研究・観光などの面で孤島になる。

・放射能汚染問題が解決できなければ、日本からのすべての輸出製品が世界から拒絶され、日本は孤島になる。

・原発の再稼働は不可能であり、電力不足から、日本経済の復興は遅れる。

・復興に関わる国家の財政負担は極めて重いものとなり、国家債務は日本を押し潰す可能性がある。

A食塩買い溜め騒動の怪。

・3/16、「塩に含まれるヨウ素に被爆予防効果がある」というデマが、中国全土に流れ、中国の東南沿海部を中心に、ヨウ素添加の食塩の買い溜めが始まった。3/17だけで、中国全土で37万トン(24日分の使用量に相当)の塩が買われた。湖北省のAさんは、3/17に6500キロを買った。これは1人で消費するには3561年かかる分だという。

・中国政府は、これは荒唐無稽なデマであることを報道、あるいは中国の塩の産出量は年間8千万トンにも達しており、通常の年間消費量は800万トンであり、3か月分の備蓄があるので、塩不足にはならないと発表。

・3/20、浙江省杭州市公安局は、ネット上で「日本の原発事故で山東省の海域が汚染された」というデマを流して、市民に食塩の買い溜めなどを促した男を逮捕し、10日間の拘留と500元の罰金を課した。

・ネット情報によれば、今回の食塩買い溜め騒動は、民間投機家が前もって雲南塩化公司や蘭太実業公司などの食塩関連株を買い占めたことに端を発しており、その証拠に一部の食塩関連株は3/15にすでにストップ高になっていたという。その後、民間投機家が少数の市民を利用し,スーパーなどで大量の食塩を買い占めさせ、同時にネットなどで食塩買い溜めのデマ情報を流させた。その結果、各地で食塩の買い溜めブームが起きた。3/16には、市場の食塩の販売量は通常の10倍以上になり、16日の夜のネットや電話の通信・通話の量は爆発的に多くなった。17日には食塩関連株はスタートから、再びストップ高となった。そして市場からは食塩がなくなった。浙江省証券管理局や浙江省経済探偵総隊はこの問題の調査をただちに開始し、数人を逮捕したという。

・中国全土で、塩の返品運動が起きている。

B親日的な反響 : 日本国民の冷静沈着な対応に感嘆の声。

・ネットなどでは、多くの中国人が、大災害にもかかわらず、略奪がまったくなく、日本人全員が整然と行動していることなど、日本人の冷静な態度に敬服する意見が多い。

・テレビなどで、中国人研修生を津波から救い、自らは命を落とした宮城県女川町の水産加工会社幹部の日本人男性のことが報道され、広く話題を呼び、共感が広がっている。

・新聞が、仙台から自転車で19時間疾走し、帰国のフライトに間に合った中国人留学生が、途中で励まされたり、食べ物をもらったりしたことや、災害後の日本人の秩序ある行動を目にしたことを述べたことを報道。それが話題となる。

・ネットでは、CCTVなどのキャスターたちの報道が、どこか「他人の不幸を喜ぶような口調」であることを批判している。

C反日・嫌日的な反響。

・香港の東方日報は、「日本が大震災で混乱している機に乗じて、尖閣諸島を乗っ取れ」と主張。ネット上でも、この種の意見は多い。

・ネット上では、もっと大勢の日本人が死ねばよかったという極端な意見も多くあった。

・ネット上では、「関東大震災のとき、中国は日本にたくさん支援した。しかし数年後、日本は中国侵略を始めた。日本人は恩を仇で返した。あの歴史的事実を思い出し、日本を救済するな」という意見も。

・ネット上では、「今回の日本の大地震は日本の海中核実験の結果である」という(荒唐無稽な)「分析」が登場している。

D政府要人などの発言。(儀礼的なお見舞いの言葉などを除く)。

・広東省東莞市の劉共産党書記は、「今回の震災は、被災した日本の企業を東莞に誘致するチャンスである」と発言。

・国務院発展研究センターの趙晋平副部長は、「復興需要で建材や食品などの対日輸出が増える」、「日本産業の一部で生じる空白に、周辺各国企業が入り込むチャンス」と発言。

・人民解放軍の海軍医療船の受け入れが、日本側から「港が壊れていて接岸できない」という理由で断られ、海軍の医療チームの派遣ができなかった。また中国政府のガソリンなどの援助物資の輸送先が、被災地から遠く離れた広島や愛媛に指定された。これらのことに程永華駐日大使は不快感を示した。

・3/22、中国商務省の姚堅報道官は記者会見で、「日本からの部品供給の停滞で、中国国内の日系企業の生産活動に影響が出る」との懸念。

・4/06、環球時報は、東電の放射能汚染水の海への放出について、「日本は周辺国の意見を聞くべきだ」との社説を発表。

E中国の原発建設についての影響。(中国では現在、原発が13基稼働中。建設途中28基。100基以上が計画中)。

・3/16、温家宝首相が主宰する国務院常務会議は、原発の安全強化策を決定。「策定中の原子力安全計画が承認されるまで、新規の原発計画の審査・認可を暫定的に凍結する」と発表。

・3/17、広東省環境保護庁の当局者が、広東省の原発は「緊急冷却装置をそれぞれ異なる電源で3系統用意しているので安全」と発言。

・3/18、中国国務院発展研究センター産業経済研究部の馮飛部長は、「安全確保を前提に、原発をさらに発展させる」と発言。

・3/21、原発業界関係者の声として、「原発の新設計画は当面ストップし、増設ペースの減速はのがれないだろう」、「事故の影響で、原発建設予定地などで住民の強い反対が起きるのは必至」などが上がっている。専門家の意見として、「2020年までに原発の総発電量を7000万KWに拡大する現行計画のペースダウンを求める」、「中国の原発は津波をあまり考慮していない」、「内陸での原発建設は、大量の冷却水を確保するためのコストが高くつく」などがある。また「テロ行為などへの備えが甘い」という声もある。

・3/31、中国人民解放軍総参謀部作戦部の蔡懐烈戦略計画副局長は、「核兵器の絶対的安全と信頼の確保は最重要任務だ」と述べ、そのための緊急救援訓練や事故処理能力を強化する方針を明らかにした。

・4/02、中国国家海洋局は、海沿いの原発建設について、新規計画の審査を暫定的に凍結すると発表。ネット上では、浙江省の沿岸部などの原発建設反対の書き込みが相次いでいたという。

・3/30、6か国協議の韓国首席代表は、中国の武大偉代表と北京で会談し、「北朝鮮の寧辺の核施設も安全が保証されていない」と指摘。

・週刊誌の記事によると、1988〜98年の10年間で、332件の放射性事故が起こり、被爆者数は966人で、そのうち放射源の紛失による事故は8割、256個の放射源は今も発見されていないという。

・4/06から、広東省深セン市で、第9回中国国際原子力産業展覧会が開催。世界各国から関連企業約300社が出展。それぞれ「福島原発より安全」を宣伝。日本からは原発プラントメーカーでは三菱重工業のみ。東芝と日立は出展見送り。

F輸入日用品などについての影響。

・日本製粉ミルクが品薄となり、価格が3倍に跳ね上がっただけでなく、購入制限などの措置が取られるようになり、中国の消費者の手に入りにくくなった。日本製紙オムツもかなり値上がりしている。化粧品も品薄に。

・香港や珠江デルタ地域の日本料理店に深刻な影響が出始める。食材の供給減少に伴う仕入れコストの上昇や、放射線の風評で客足が遠のき、売り上げ3割減の店も出ているという。仕入れ値の上昇の裏には、食材の売り惜しみで暴利をむさぼろうとする中間業者の存在も指摘されている。

・上海の高級スーパーで、日本産の生鮮食料品の販売停止をする動きが出ているという。

・高級カメラは品薄となり、10%以上値上がりしている。

・一般消費者の放射能汚染などの心配により、日本製品離れが懸念されている。

Gその他。

・3/14上海出航の米クルーズ船が、福岡寄港を急きょ取り消し。

・3/16、大連空港着の航空貨物が「放射線が基準値を超えている」として荷下ろしを許可されず、そのまま引き返す。

・3/18、中国の格安航空会社の春秋航空は、3月末から開始する予定だった高松〜上海間の就航を延期すると発表。中国からの観光客の激減見通しのため。運航開始は未定。

・日本の外資系企業が、原発事故の影響を恐れて、外国人スタッフを香港に避難させるケースが増えており、香港のホテルが満杯状態になっている。

・4/1までに、台湾の震災義捐金総額は100億円を突破した。これは桁外れの支援で、台湾の親日ぶりを表している。

・福島原発の放射能漏れ事故を受け、放射線測定器を個人購入する人が現れ、すでに30%ほど値上がりした。

・日中の有識者らが、震災復興をテーマに、8月に北京でフォーラム開催を決定。

・上海原子力学会幹部が、今回の日本の原発事故によるイメージ悪化で、原子力を学ぼうとする学生がさらに減少しかねないという懸念を表明。

・香港旅行社の日本観光ツアー再開は、大幅値下げ。中止前の半額も。


附:東日本大震災への米国人の反応。 (3/20時点)

・「東日本大震災は、短期的には日本の首都圏を中心に消費者が買い溜めに走る現象が拡大することによって消費押し上げ効果や、復興作業に向けた建設需要の高騰が見られることになるが、双方とも一過性のものにすぎない。むしろ復興費の財政支出によって、日本の健全財政化への道程が一層険しくなった」と論評。

・東日本大震災ニュースに全米国民が高い関心を示し、その注目度は大統領選挙を上回った。

・日本および日本国民の行動(我慢、整然、略奪の無さ、および地震への備え)について、賞賛する声が大きい。米国ではハリケーン・カトリーナの際など、災害や社会混乱時に略奪的行為が必ずつきものだけに、日本人には当たり前のことが米国人の目には別の世界のように映るようである。

・“日本人は最悪の場合でも、礼儀正しく、他者にも気遣いをする”。危機に直面したときには、人間の地と国柄が出ると論評。

・原発危機の日本政府や電力会社の事態説明とその展開・見通しの発表は、米メディアと専門識者には不満であり、不信感を与えている。

・日本の企業や投資家が外国資産を売却し、資金を国内に還流させるため、円高を予測する専門識者が多い。反面、企業の生産拠点の被害が拡大し、生産操業の停止が長期化すれば、日本経済そのものの減速への懸念が高まり、逆に円安に振れやすくなるとの見方も多い。

・福島第1原発事故は、米国の原子力エネルギー政策に大影響を与えることは必至である。

・原子力発電支持派であるオバマ大統領は、米国内原子力発電所104基の安全の総点検を指示。

・米原子力業界やその推進派は、日本の事故による“米原子力発電再開計画”への抑制を懸念し、米議会では反対派との攻防が表面化している。

・米政府規制当局の原子力規制委員会(NRC)は、原発事故の重大性を日本政府の推定評価より厳しく行い、在日米国人の隔離退避を事故現場から50マイル(80km)以遠とするアドバイスを発した。これに対して、「米国内での緊急避難プランの避難周径範囲の基準が10マイル(16km)であるのに、どうして米国政府は50マイル避難を勧告できるのか」という疑問の声が上がっている。

・NRCは、米国内の原発の安全評価見直しに入っている。

・米電力企業大手のNRGエネルギー社のデビッド・クレーン氏は、福島第1原発の事故を受けて、テキサス州での同社の原発施設での大型原子炉2基の増設計画を中止か、すくなくても延期する可能性があると公式に発表。