国家を捨てる中国人・国家に尽くす日本人
国家を捨てる中国人・国家に尽くす日本人 −尖閣諸島問題への私見− |
16.NOV.10 |
尖閣諸島問題が起きてから、この2か月間、私は身の置き所に困った。多くの読者から、私のところに質問が殺到したからである。これには私も、正直に言ってまいった。なぜなら私もマスコミ以上の情報を持っていなかったからであり、それらに真剣に回答しようとするならば、私のもっとも苦手な愛国心論争に踏み込まねばならなかったからである。私はしばらく「だんまり戦術」をとることにし、東アジアの駆け足旅行に出かけた。ところが帰って受信BOXをのぞいてみると、「小島さんが、この問題について発言しないのは卑怯である」と、脅迫まがいのメールまで入っていた。本当に困った。 しかしだんまりを決め込んでいた間に、遺棄化学兵器処理の調査中のフジタの社員が拘束されたり、日中の政府の対応や情報が錯綜したり、挙げ句の果てにはビデオテープが漏出したりと多くの事態が起きた。また論者の見解もほぼ出揃った。これらのおかげで、私の視座が確立した。後出しじゃんけんのようであり、出し遅れの証文のような気がするが、以下に尖閣諸島問題への私見を示す。 1.尖閣諸島問題の解決に欠くことのできない2つの前提条件。 尖閣諸島問題を解決する上で、絶対に欠くことのできない2つの前提条件がある。それは第1に、「絶対に戦争をしてはならない」ということであり、第2に、「尖閣諸島を奪われてはならない」ということである。我々はこの2つを同時に完遂しなければならないのである。 今回、論者の多くが日本政府の対応について、それが弱腰であると批判し、それにつられて日本国民も政府首脳の態度に失望感を露わにしている。中西輝政氏らは「菅政権の歴史的大罪」などと弾劾し、櫻井よしこ氏らは中国軍の侵略に備えて「日本も海上自衛隊を出し、尖閣諸島に自衛隊を常駐させる必要がある」と主張し、佐藤優氏は「日本も帝国主義的に対応すべきだ」と言っている。さらに軍備拡張・核武装必要論まで飛び出してきている始末であり、それらが日本国民の間に一定の支持基盤を確保しつつある。 政府の対応を弱腰であると批判し、自衛隊の尖閣諸島の常駐・軍備拡張・核武装などを声高に叫ぶことは簡単である。しかしそれが戦前の悪夢を再現し、戦争への道を突き進むことにつながることは自明の理である。この道を選択することは絶対に避けなければならない。しかしながらこのまま我々が拱手傍観していれば、尖閣諸島への中国の「侵略」を許すかもしれない。これまた我々が行ってはならないことである。我々には、「戦わずして勝つ」ことが必要なのである。私はこの2か月間、多くの議論が戦わされるのを見聞してきたが、残念ながら「戦わずして勝つ」という戦略・戦術を確認することはできなかった。「孫子の兵法」は謀攻編で、「戦わずして勝つ」の極意を展開している。 百回戦って百回勝ったとしても、それは最上の勝利ではない。戦わずして相手を屈服させることこそ、最上の勝利なのである。すなわち最上の策は、敵の意図を見抜いてこれを封じることである。これに次ぐのは、敵の同盟関係を断ち切って敵を孤立させることである。第三が戦火を交えることであり、最低の策は敵城攻撃である。つまり城を攻めるなどということは、あらゆる手立てを尽くしたのち、やむなく用いる最後の手段である」 2.「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」 さらに孫子は、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」とも言っている。つまり我々が今回のような事態に当たって、「戦わずして勝つ」ために、まず行わなければならないことは、 それでも、なぜ、あの船長は巡視艇にぶつかってきたのか、残念ながらそこは解明できていない。明らかに単なる衝突ではなく意図的なものだが、その背景は不明である。これは今後の経過と展開により、次第に明らかにされてくると思っている。 ここで明確に認識しておかねばならないのは、中国人は現在、「中国は大国である」という言葉に自己陶酔しているということである。上海万博に象徴されているように、中国人民は政府の宣伝に騙され、自国経済が「砂上の楼閣」であるにもかかわらず、大国意識に浸り、「日本なにするものぞ」という若者たちが反日デモに打って出ている。 しかしながら中国は経済大国ではない。我々は中国経済が「砂上の楼閣」であり、中国が「張り子の虎」であるという認識を持つことが大事である。中国は他力依存の国であり、外資なくしては産業構造の高度化は不可能であり、外資が総撤退すれば即座にデフォルトに陥る可能性を持っている国である。このような中国の実態を中国人自身が、まったく自覚していない。中国人は今、「チャイナ・アズ・ナンバーワン」という言葉に酔いしれているのである。それはあたかもかつて日本人が、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という言葉に酔って、世界を睥睨していたときとまったく同様である。日本人がその座から滑り落ちたのは、その数年後であったことを考えれば、中国人がその自信を喪失し、なりふり構わず他国に援助を求めるようになるのも時間の問題である。 逆に日本人は現在、奈落の底に沈んだような精神状態である。私は日本人が必要以上に落ち込んでいるのではないかと思っている。日本人は生真面目であり、官僚(政府)の宣伝やマスコミの報道をまともに信じ、それに翻弄されている人が多いからである。たとえば昨今の円高は輸出企業にとっては大きな打撃だが、輸入企業にとっては労せずして多額の利益が転がり込んで来ているわけであり、一般庶民にとっても輸入商品の価格が下がり、生活がかなり助かっているはずである。また海外に投資しようとしている企業にとっても、ドル投資は大きなメリットとなっている。さらに昨今、中国が日本の企業や土地を買い漁っているようだが、円高はそれを鈍らせているとも言える。つまりマスコミは円高のデメリットだけでなく、メリットも大きく報道すべきである。少なくとも、日本経済が断末魔を迎えているのならば、円高には絶対にならず、円安になるはずである。日本は日本人が考えているほどは弱くはないと、私は考えている。 日本人が落ち込んでいる最大の理由は、おそらく国家の借金であろう。もしこれがなければ、日本人はとたんに元気になるはずである。私はこの借金については、「団塊の世代が責任を持って完済して死んでいくから、心配は無用だ」と言いたい。今まで国家の借金の恩恵を、一番多く受け続けてきたのは団塊の世代である。したがってそれを完済して死んで行くのは当然の責務であると考えている。この具体的な方策については、いずれかの機会に開陳したい。 いずれにせよ現在、中国人は過信状態であり、日本人は自信喪失状態である。中国人はこの機会に積年の恨みをはらそうと考えているし、日本人はそれを恐れている。その心理状況が、両国人民から冷静さを失わせているのが現状ではないだろうか。 3.私の戦術。 彼我の力量と現状を上記のように分析した上で、私は「戦わずして勝つ」ための戦術を下記のように考えてみた。 @持久戦。 やがて中国のバブル経済が破綻し、日本経済に助けを求めるときが来る。それは1997年のアジア通貨危機のときの韓国の再現であり、中国はデフォルトに陥る。そのときが日本の出番であり、中国の弱みにつけ込み、尖閣諸島問題を話し合う絶好の機会である。日本外交にもそれぐらいのしたたかさが必要である。それまではいたずらに騒がないこと、マスコミが煽らないこと、土下座外交で結構であると考える。今から思えば、IMF危機と言われ、韓国が窮地に陥り、それを日本が助けたときに、なぜ竹島問題の解決を迫っておかなかったのかと不思議に思う。日本政府は相手の弱みにつけ込むことは、フェアではないと考えていたのだろうか。 中国の政府も国民も、自分の実力を錯覚して居丈高となり、「戦争をも辞さない」とのぼせているときに、その挑発に乗る必要はない。相手は必ず自滅する。それまで時を稼ぎ、日本自身の体力を充実させておくことが重要である。今回の菅首相の対応は、たしかに釈然とはしないが、結果として正しい選択であったことが、日時の経過とともに証明されるであろう。まず全面戦争という事態に発展することを避けなければならなかったからである。 A合従策。 中国政府がもっとも恐れているのは、外資の総撤退である。中国経済が今日の隆盛を迎えているのは、自力更生を捨て、他力依存の国家戦略に切り替え、外資に大幅に依存してきたからである。したがって中国の暴走を止めるのには、外資連合を結成して、中国政府に圧力をかけることがもっとも効果的である。もちろん中国政府は中国内でそのような組織を作ることを許さない。外資は中国外で連合体を結成すればよい。現在、中国では外資の労働集約型産業の多くが苦境に陥っており、その一部を他国に移し始めている。それらが中国外で産業別に外資連合を組むことは、そんなに難しいことではないと私は考えている。 B老人決死隊の結成。 4.国家を捨てる中国人。 尖閣諸島問題で、中国各地で反日デモが起きている。このデモが官製であるかどうかはさだかではないが、参加者はネット上などの呼びかけに応じた学生が多いようである。デモに参加した学生たちが、成都ではイトーヨーカドーの窓ガラスを割ったり、各地で日系と見られる飲食店を壊したりしたようである。これらの反日デモに参加している学生は、「小天皇」と呼ばれわがまま放題で育ってきた連中であり、同時に負け組の親の子弟である。なぜなら勝ち組の親の子弟は海外に出てしまっている場合が多いからである。したがってこのような反日デモを行っている若者の大半は、反日を掲げてはいるが政府に対する不平不満を鬱積させている連中であり、それは容易に反政府デモに変わりうる。政府はそれを察知し抑止する方向に回った。それでも多くの中国人民は、これらの学生の行為を愛国心の発露として見ている。 しかしながらやがてこのような学生が卒業して社会に入ると、たちまち彼らは豹変する。優秀な学生や政府高官の子弟は間違いなく先進各国に留学してしまう。次期国家主席の最有力候補の習近平氏の一人娘も、浙江大学を卒業後、米国に留学したという。またビジネスセンスがあり、金を儲けた若手中国人の多くがカナダなどの先進各国に移民する。つまり現在、愛国を声高に叫んでいる学生も、いずれは国家を捨てるのである。中国人にとって、「愛国無罪」を叫ぶのはその場しのぎの方便であることが多い。 現在、中国から大量の中国人が逃げ出している。移民仲介会社によれば、広東省からは2009年の1年間に、カナダや米国、オーストラリヤなどへの投資移民として1500人余の中国人が渡り、国家を捨てた。正規に国籍を変えた中国人で、しかも広東省だけでそれだけいるのだから、中国全土でなおかつ不法に移民している中国人まで含めると、香港返還以降の13年間に、国家を捨てた中国人は莫大な数にのぼる。また昨年1年間で、中国人が移民で海外へ移した資産や投資金額は少なくとも100億元(約1225億円)を超えているという。なお、これらの移民を取り扱う仲介会社は、広州市だけでも正規のものは約100社、非正規のものまでふくめると600社近くが存在しているという。またひとまず留学ビザや就労ビザなどで日本に来て、それからカナダなどへ移民する中国人も多く、それらの移民業務を取り扱う会社は日本にも少なくない。 カナダのバンクーバーなどは、これらの投資移民、技術移民などの中国人に占領されてホン(香港)ク−バーと揶揄されているほどである。カナダ政府もしたたかで、今年から投資額を最低800万元(約1億円)に引き上げたと聞いている。それでもカナダへ移民する中国人はあとを絶たない。もちろん豪州・ニュージーランド・英国などへの移民も多い。これらの移民の特徴は、優秀な中国人、金持ち中国人(グレービジネスで儲けた中国人、汚職その他で儲けた政府関係者を含む)であることである。貧しくて食えない人々が国を出て行くのではない。エリートや資産家が国家を見捨てて行くのである。私はこのような中国人の愛国心とやらに、まともに取り合う必要はないと考えている。 5.国家に尽くす日本人。 日本人は、国家を捨てることなど毛頭考えていない。それだけ民主主義国家の日本は住み心地がよいのかもしれないが、いずれにしても老人になっても海外に移住する人は少ない。ことに最近の若者は海外に出ない。中でも男性はまったく出ない。気が小さいからであろうが、内向き男児がほとんどである。半月ほど前に、「君、國を捨つるなかれ」(渡辺利夫著 海竜社刊 2010年10月22日発行)という本が発行された。渡辺氏がそのような言葉で檄を飛ばさなくても、現代の日本の若者は「国家を捨てる」ことなど、さらさら考えてはいない。そんな勇気のある若者はいない。もっとも文中で渡辺氏は、「私的にではなく、公的に、利己的にではなく利他的に生きることの中にこそ、人間の幸福がある」と説いているのであり、「国家を捨てるな」と直言しているわけではない。 クラウゼヴィッツはその著書「戦争論」の中で、「多くの者は危険と損害を恐れて闘争を避けたがる」、「血を流さずに勝利を得ようとするものは、血を流すことを辞さない者によって必ず征服される」と説いている。私はこの主張は正しいと考えている。したがって、もし尖閣諸島へ中国軍が侵略してきたとき、あるいは戦争を仕掛けて来た場合、私はただちに老人決死隊を組織し、尖閣諸島に丸腰で乗り込みそれを迎え撃つ。私が策定した戦略・戦術の@とAが外れたわけであるから、Bの戦術、つまり責任は自らの死を持って私が取る。ここで前途有為の若者を死なせるわけにはいかない。私は団塊の世代の老人によびかけ、戦いの先頭に立つ。私が身を捨てれば、愛国者の櫻井よしこ氏、にわか愛国者の石平氏なども、共にスクラムを組んで死んでくれるであろう。まさかそのときになって逃げはしないだろう。私のよびかけには、数万人の日本の老人が結集してくれると信じている。そして中国軍の銃弾の前に倒れれば私は本望であるが、場合によっては拘束され監禁状態に置かれるかもしれない。そのときはハンガーストライキで戦い、即身成仏を目指す。 団塊の世代の老人たちは、戦後の日本の高度成長期時代に生きることができ、飢え死にもせず、戦争に狩り出されることもなく、幸せな人生を堪能することができた。したがって人生に未練を持つ者は少ないと思う。ただしこのまま行けば結構長生きし、年金・医療・介護などで次世代の社会保障費を食い潰すにちがいない。その結果、後世に莫大な借金を残し死んで行くことになる。したがってこの世代が尖閣諸島に乗り込み、中国軍の銃弾の前に倒れれば、社会保障費を食い潰すこともなくなる。また団塊の世代は、老後のために相応の資産を持っているので、それを国家債務の返済に充てると遺書で明記しておけば、多大な国家の借金もかなり少なくなるであろう。さらに数万人の日本人が丸腰で中国軍の銃弾の前に倒れれば、その行為が南京大虐殺など戦前の日本軍の蛮行を帳消しにする。したがってこの老人決死隊の戦術は、一石三鳥であると思う。また私はこのような私の提案に、多くの団塊の世代の老人が賛意を示し、行動を共にしてくれると確信している。このように日本は、国家に尽くす決意のある日本人が多い国であるから、最後は日本が勝つと私は信じている。 ただし、「もし中国軍が攻めてくるのならば、10年後ぐらいにして欲しい」というのが、私の本音ではある。 6.中国の軍拡に一役買いながら、日本の軍拡を叫ぶヤカラの台頭。 尖閣諸島問題に付随して生起したフジタの社員の拘束は、はからずも日中間で暗躍する巨大会社の姿を浮かび上がらせた。残念ながら、これらの事態についてのマスコミの追及報道はほとんどなかった。 ・遺棄化学兵器廃棄処理事業は、巨大な利権の巣窟になっており、日本国民の税金が湯水のようにつぎ込まれており、その多くが中国人民解放軍の懐に転がり込んでいる。 ・遺棄化学兵器廃棄処理を請け負っている主要な会社の一つが、A鉄鋼である。 ・A鉄鋼は元首相(自民党)のB氏の主要スポンサー会社である。 ・B氏は、ある雑誌で尖閣諸島への自衛隊の常駐を主張している。 つまり尖閣諸島問題は、「中国軍の軍拡に手を貸しながら自分も儲け、日本の軍拡を叫びさらに儲ける」というヤカラが大手を振って歩くことを許すような世論の形成を誘導する結果になったのである。なお遺棄化学兵器問題については稿を改めて言及する。 7.領土問題に対する冷静な対応。 ごく少数ではあるが、「領土問題にたいして、“ナショナリズム”と“愛国心”をもっと抑えては」という意見がある。ボーダーレス化が急速に進んだ現在、領土が大きいことが必ずしも国家の利益につながらないという見解であり、歴史的に見ても、植民地経営は全体として赤字に陥っており、その後の世代に禍根を残しているという考えである。その代表例が遺棄化学兵器処理問題であり、現代日本の国民が戦前の日本政府の植民地経営のツケを払わされているのである。 田岡俊次氏は、「テリトリー争いはアリでも必死になる動物の本能だから、領土問題ではどの国民も非常に興奮し、政府も世論を恐れて強硬姿勢を示し、対立を激化しがちだ。どの国も平素から貿易や金融など、対外協調の利を国民に説いて領土本能を少しでも抑制するのが得策だろう」と言っている。私も同感である。 テレビなどでは、今回の事態に乗じて、大声で「これは戦争だ」と叫ぶ人たちが突出してきた。私はこの状況は、米国で9・11テロが起きたとき、ブッシュ前大統領が「これは戦争だ」と叫び、アフガンやイラクへの戦争に突き進んで行ってしまった状況と酷似しているのではないかと思う。いまこそ日本国民は冷静にならなければならないと考える。 |
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