小島正憲の中国凝視

「2月危機」は去り景気浮揚へ


「2月危機」は去り景気浮揚へ
25.MAR.09  
                                                                                                                                          

 週刊「東洋経済」2月28日号は「中国大変調」と題して特集を組んでいる。

 その最初の記事の冒頭が次のような文章で始まっている。

 「2月危機は何とか封じ込めた。だが次には6月危機が待っている―。今年の中国は“危機モード”の連続だ」

 私もこの中国の「2月危機」に注目していたが、3月中旬になっても際立った変化はない。暴動についても総計16件ほどしか起きておらず(先週送信済みの「2月の暴動情報検証」参照)、通常月とさして変わりはない。

 つまり中国政府は「2月危機」を、2月初旬〜3月中旬までの中国政府や民間企業の景気浮揚策で乗り切ったということである。


 この間の状況については、≪1.2月の中国の経済環境と2.政府・民間の景気浮揚策≫として以下に詳述しておいたが、すでに過去のことになってしまっているので、読み飛ばしてもらって結構である。


 私は「東洋経済」のようにここであらためて「6月危機」を提起して、狼少年のそしりは受けたくないと思っている。

 むしろ私は全人代における思い切った政策転換と超大型景気浮揚政策の早期実施の決定によって、中国経済は5月ころから浮揚すると予測する。そしてその中国経済が全世界を金融恐慌の底から引っ張りあげると考える。しかし同時にその中国の超大型景気浮揚策はやがて中国をバブル経済に突入させるのではないかと危惧する。

 資本主義世界のバブル転がし(バブル・リレー)の次なる先は中国となるのではないか。

 これらについては、≪3.政府の政策転換、4.次の「バブル転がし先」は中国≫で詳述する。

 

 

1.2月の中国の経済環境(労働環境を中心にした情報)


・出稼ぎ労働者の帰任増加。春節の大型連休が終わり、地方から広東省へ出稼ぎに戻る労働者が増加しており、各地の駅などで、混雑が続いている。

 広州駅で実施した調査によると、同省に戻る出稼ぎ労働者のうち、約7割はすでに同省で安定した職についていることも明らかになっている。


・2/10 深セン市の労働行政当局は、昨年第4四半期に、従業員への給与を未払いで当局が立て替えた企業48社の会社名と逃亡中の経営者名をいっせいに公表した。

 48社の未払い総額は3000万元で、そのうち2600万元を市当局が立替払い。


・2/10 広東の求人数は3割減、就職難浮き彫りに。 

 南方人材市場管理委員会弁公室によると、春節(旧正月)以降、広東省で就職説明会に参加する企業の数が約3割減少していることがわかった。

 一部ではこれまで人気のなかった家政婦や清掃業といった職にも求職が集まるなど、就職難が徐々に現実化しているようだ。


・広州、深?で1月の求人数が計6万人減少。


・2/10 北京市内で7日から2日間、春節明けでは最大規模の就職説明会が開かれた。

 2日間の来場者は6万人。求人ブースは昨年より10〜15%減少、外資企業の減少が目立った。


・2/11 広東省の賃金1割減。求人減で買い手市場に。 

 広州市人力資源市場中心によると、今年に入って同市企業が新規雇用の従業員に支払う賃金が昨年同期から7〜8%程度減少していることがわかった。深セン市でも約10%の減少が確認されており、金融危機のあおりを受け、企業の求人数減少で買い手市場となっているようだ。


・出稼ぎ労働者の広東離れ増加、条件悪化で。

 企業の求人数減少により、春節明けに広東省に戻ってきた出稼労働者が、再び広東を離れるケースが増加しているもようだ。

 ある青年は、春節前に1700元だった月給が、春節後には1050元までに減給されたので、他地域に職を求めるという。


・2/18 台湾系の靴工場閉鎖、広州で従業員が抗議。

 広州市白雲区の靴工場「広州大一鞋業有限公司」の閉鎖に対し、従業員数百人が補償金を求めて抗議する騒ぎがあった。

 同工場は従業員に対して、春節後も操業すると約束していたが、休暇後に戻ると工場は閉鎖されていたという。  当局が交通費を300元支払うことで沈静化。


・春節明けに「2次帰郷」現象、広東省、給与減や就職難で。

 輸出企業が多く、世界金融危機の打撃が特に大きい中国南部の広東省で、春節明けで戻ってきた出稼ぎ労働者が再び郷里に戻る「2次帰郷」現象が起きている。

 中国の工場では通常、春節前後に休業し、小正月に当たる(今年は2月9日)ころから操業を再開するが、広東省ではいまだに多くの工場が受注の激減で休業を延長している。


・上海の労働争議激増。

 08年度は2.2倍の6.5万件。労働者側の勝訴率は82.3%だが、企業側の完全勝訴率も17.2%と前年より5.3ポイント伸びた。


・天津の労働争議激増。

 08年度は2.6倍の1.6万件。受理件数は3.6万件を超える。労働争議の処理、仲裁を行うスタッフ一人当たりの月間受理数は190〜400件となっており、処理方法の迅速化が急務。


・深センの労働争議激増。

 08年度、深セン市人民法院が判決処理を行った労働争議案件は、3.6万件におよび、前年対比で3.36倍となった。そのうち労働者が企業の賃金未払いを訴えた総額は約6億4千万元(90億円)。


・中国最高人民法院の沈副院長は、中国全土における08年度の労働訴訟は前年対比2倍になったと語る。


・広東省では春節で帰郷した農民工が90%戻った。なおそのうちまだ職についていない者は46万人で全体の5%。


・深セン市で空き工場が増加。景気悪化で借り手がつかず。一部の老朽化した工業団地では1/3から半数の工場物件の借り手がみつからない状況。


・大連 農民工の給料遅配の建設業者13社を公表。最大は209人分=441万元を未払いの公司。


・玩具輸出企業、昨年半減。

 中国税関総署が発表した最新統計によると、玩具輸出許可証を持つ企業数が2008年に前年比49%減の4388社に「激減」した。


・09年度の日中貿易は11年ぶりに前年度を割り込む可能性が高い。


・上海のホテルの半数が空室。

 世界的な景気後退によりビジネス客が低迷。宿泊料金の値引きが始まった。


・中国全土の外資系製造業へのアンケート結果 世界金融危機の影響については、半数が第4四半期は輸出量が前年対比10%以上の落ち込みと返答。


・共産党幹部が推計発表、出稼ぎ農民工(帰郷の意思なし)が約2000万人失業中。


・珠江デルタの貸し工場の空室率が急上昇。空室率は20%に達し、賃料は16.5%下落。


・珠江デルタ地域の香港系工場の約5%に当たる3000か所が春節後も休業状態。


・社会保障相記者会見 中国の雇用情勢、非常に厳しい。


・天津市 中小企業1375社が生産停止状態。


・都市部の失業率4.2%へ。過去3年で最高に―人力資源・社会保障部。


・中小企業に6千億元の融資が必要―工業・信息(情報)化部。


・山東省の石油精製企業、採算悪化で生産停止・減産相次ぎ、経営難に直面。



2.政府・民間の景気浮揚策


・2/06 ハイテク企業に200億元 広東省が基金設立へ。

 広東省科学技術庁によると、同省政府が200億元を投入し、ハイテク企業を支援することを目的とした基金「広東高新技術産業投資基金」を新たに設立する計画であることがわかった。


・戸籍も付与 深セン市が人材誘致作戦。

 深セン市労働・社会保障局は2日、優秀人材を同市に誘致、定着させるための新たな政策を発表した。

 誘致の対象となる職種の増加のほか、条件に合致する労働者に対し、企業の署名なしでも個人で代理機関を通じた深セン戸籍の取得を認めたことなどが骨子となっている。


・2/13「家電下郷」=政府が農村部の家電購入に補助金を支給する制度。

 4年間で累計6億台、1兆6千億元(約21兆円)現在はカラーテレビ、冷蔵庫、洗濯機、携帯電話。今後はオートバイ、パソコン、ガス湯沸かし器、エアコンに拡大。広東省では販売額の13%を補助金として政府から支給。


・2/18 南京市、景気刺激策として住民20万世帯に、抽選で観光クーポン券1セット100元を配布する。

 市内のリゾートホテルやレストランなどで使用できる。総額2000万元。鎮江市も行う予定。


・2/17 深セン市、景気刺激策の一環として、市内の高齢者を対象に計5000万元の「養老消費券」を発行する予定。

 60歳以上の老齢者は13万3千人。深セン戸籍のない高齢者は40万人。


・2/16 政府、「消費券」を肯定。中国商務省は各地方政府が発行している「消費券」について、「特別な状況下で導入される特別な手法であり、実施して差し支えないのない選択だ」と述べ、これを肯定した。


・深セン市、「特区の中の特区」を提案。

 人民政治協商会議の委員100人が、深セン市内に国家級の新たな自由貿易区=金融試験区を設けるように提案した。


・輸出還付率の再引き上げを商務部が検討。

 商務部の鐘山副部長は、電気機械類や労働集約型製品の輸出還付率を再度引き上げ、禁止類、制限類の緩和も行う意向を示した。


・中国国家発展改革委員会の当局者は3月4日、昨年11月に発表した総額4兆円に上る同国の内需刺激策とは別に、インフラ投資や製造業支援に重点を置いた新たな経済政策を実施する方針を示した。


・2/18 広東の旅行会社が55歳以上の市民20万人に、1枚=100元の旅行券を無料配布。総額2千万元。


・2/11 上海が起業支援策。0元起業が可能になる。

 上海市工商行政管理局は、市内の大学新卒者を対象に、「有限責任公司」を設立する際に必要な最低登録資本金を撤廃すると発表した。大卒者の起業による就職浪人問題の解決をめざす。


・2/11 広東省地方税務局は業績不振で納税が困難な企業を対象に、不動産税や都市部土地使用税の減免を認めると発表。

 その条件は、

 ・生産停止、登録取消などで生産を行っていない 

 ・経営悪化により大規模な赤字を計上しており、従業員の給与が平均並み 

 ・自然災害で経営が打撃を受けた などの6項目。


・2/16 東莞市政府は、同市中心部を除く村や鎮への企業誘致を成功させた場合、担当者に奨励金を供与する政策を発表した。

 ただし奨励金供与の対象となるのは、資本金が300万ドル以上の企業。

 企業の資本金50万ドルにつき1万元を供与。上限は100万元。


・東莞市政府は、企業支援の一環として、社会保険料率を労災保険で20%、医療保険で5%それぞれ引き下げる。実施時期は3月初めから12月末まで。

 同市はまた経営難に陥っている企業を対象に3〜6か月の保険料支払い猶予を認める。


・上海市で一部企業がワークシェアリング実施。

 上海市奉賢区の一部企業は週4日労働制を取り入れた。


・天津 科学技術分野の中小企業を支援=800社に総額5億元を融資する。


・大連 農民工の就業対策を強化=職業訓練など4つの措置。


・中国銀行、中小企業救済のため新通知。

 債務返済前でも借り入れ可。審査を通過すれば既存の融資の返済期限を延長することも可能となる。


・中国工商銀行、クレジットカードの延滞利息の軽減策を発表。

 カード業務の拡大のため、利用者のメリットを考慮。


・中国農業銀行、個人間向けローン事業に新たに600億元(約8520億円)の資金を充当することに決定。

 個人向けローンの推進による、個人消費の増加と内需拡大を目的とする。


・上海、市内観光名所(18か所)の入場料が火曜日のみ半額。


・家電量販大手の蘇寧電器は、3月から北京市内の50店舗で、1枚100元のショッピングカードを総額5千万元(7億円)分を分配すると発表。

 同カードの配布を通じて家電消費を刺激したいとしている。

 当局主導の消費券配布はすでに杭州、成都などでも実施されている。


・武漢、旅行消費券を配布。

 国有運輸会社:湖北公路客運集団は、同市の市民を対象に、観光バスなどで使用可能な消費券の配布を開始した。

 労働模範者に100〜200元、低所得者に10〜200元、55歳以上に50元、学生に10〜20元など、総額30万元。


・広東省、メーデーなどを事実上の大型連休に政府が奨励。


・上海、戸籍制度を大幅緩和。

 上海居住7年などを条件にした。市内の居住環境を整備し、優秀な人材を取り組む狙いがある。


・山東省、農村への家電普及事業、1か月余りで20億元超。


・農民の小型車購入に700億円を補助。

 中国政府は自動車産業振興政策の一環として、農民の小型車(1300cc以下)購入や軽トラックの買い替えに計50億元を補助する制度を3月から実施する。


・広東省物価局、電力や汚水処理などの価格を調整することによって、サービス産業や新エネルギー、環境関連の産業の発展を誘導する。


・不動産業界でも低迷する販売を促進するため、クーポン券を無料配布する。

 1枚平均5000元で、1人1枚しか使用できない。

 全国50都市で住宅を購入する際に、直接価格から値引きする。配布総額は1億元に上っている。


・国務院発表、軽工業、化学産業の振興策。

 労働集約型産業やローテク産業に加えて、一部プラスティック製品などに関する加工貿易制限を緩和。

 農村への家電製品普及政策に、電子レンジや電気ストーブを追加し1戸につき2台までを許可。


・2/24 上海市徐家区の港匯広場で、常州市が「旅行消費券」の抽選会を開いたところ、市民が会場に殺到して怪我人が出るような事態となった。


・3/01 上海市黄浦区杭州銀行上海支店で、杭州市が「旅行消費券」の配布イベントを開催したところ、市民数千人が殺到したため、主催者側は配布を一時中断した。


・家電量販店大手の国美集団は、全国で展開する傘下の店舗で出稼ぎ労働者(農民工)約2万人を採用すると発表。なお国美ではエアコンの消費券も配布する予定。


・労働節「7連休」復活を。開催中の政治協商会議で、消費拡大のために昨年から短縮された連休を、7連休に復活させようという意見が出ている。


・2/16 まだ利下げ余地がある。中国人民銀行易綱副総裁は2月14日、デフレの脅威に対処するため、人民銀にはまだ利下げの余地があるとの考えを示した。(12/22、5.31%)


・2/17 中国国家発展改革委員会の張暁強副主任は、人民元相場について、上昇圧力には直面しておらず、むしろ1ドル=6.95〜7元ぐらいの水準に下落する可能性がある。

 エコノミストの易憲容氏も、今年の人民元の対ドル為替レートは年初に比べ、5〜7%下落するという予測を明らかにした。


・天津市政府、中小企業の海外市場の開拓のための資金繰り支援に、201万元投入。


・上海の量販店、ガス湯沸かし器やガス調理器を対象にして、150元の消費券を配布。


・中国人民銀行周小川総裁発言、金融緩和を継続、一段の利下げも視野。


・上海、中国工商銀行と同済大学が、新卒者の起業に最高30万元を融資することを決定。


・家電量販店の国美電器は、新婚家庭向けに消費券を配布することを決定。総額1600万〜2000万元。


・天津市政府 省エネ・環境事業向けの基金を設立し、年間1億元を投入する。


・中国人民銀行、銀行の幹部からは、景気低迷やデフレ懸念に警戒を示し、追加の金融緩和を示唆する発言が相次いでいる。


・上海市、就業支援特別計画を提起。

 就職困難者を7種類に区分し、それに対応する援助サービスや補助金を設定。


・大連市、農作機械購入時の補助を拡大(中央から2000万元の補助)


・広東省など3地方政府が債券発行。

 傘下企業を通じ、北京と広東が100億元、上海が50億元。


・東莞市 消費券配布を計画。


・蘇州市、中低所得者世帯を対象に住宅補助金(最高1u当たり2000元)支給実施。


・広東省珠海市、従業員をリストラしない企業に対し、雇用継続を条件に1人毎月616元を補助。


・家電量販大手の蘇寧電器が上海店舗で商品割引券を発行。総額1億円。


・北京市 密雲県旅遊局は旅行消費券を発行。


・深セン市、無料で企業のインターン制度を受ける労働者に対し、毎月800元を生活補助金として支給。


・農村の家電製品購入補助金を2000元から3000元に引き上げを検討。



3.中国政府の政策転換


 中国の大変調は2007年末から始まっている。

 08年度の五輪を控えて、人民の不満の爆発を恐れた政府が二つの大きな政策ミスを犯したからである。

 一つはインフレ退治のための超金融引き締めであり、もう一つは労働者の不満を封じ込めるための労働契約法施行と社会保障政策の強制実施である。

 この二つを同時に政府が実施したため、07年度末から、外資が中国から続々と引き上げ、民営会社の多くが廃業・倒産した。

 08年秋の金融危機と経済恐慌は、このような中国の状況にさらに追い討ちをかけたのである。

 したがって中国が以前のような高成長を取り戻そうとするならば、前記の二つの大きな政策ミスをまず打ち消すことが必要である。

 中国政府も08年6月にこの経済の異変に気付き、ただちに金融政策を変更し、金融緩和に舵を切り替えた。

 数度の利下げや民間にも多くの金融手法を許可し、中小零細企業にも資金が行き届くようにした。

 しかしながら労働政策に関してはなかなか変更しなかった。

 一度、権利意識に目覚めた労働者を前に制度の変更を決定できなかったのである。

 しかしながら中国政府は最近になってやっと労働政策の手直しを始めた。

 これによって中国から撤退した企業がそこそこ戻ってくるであろうし、中国人起業者がかなり増加するものと思われる。

 それに加えて、4兆元に及ぶ内需主導の超大型経済刺激策が即時に実施される。

 これによって第2次起業ブームなども巻き起こされ、中国経済は大きく浮揚するにちがいない。


@社会保険費の企業負担引き下げ。


・深セン市労働・社会保障局はこのほど、企業の負担軽減を目的に、社会保険費の企業負担分を引き下げると発表した。うち労災保険は50%、医療保険の企業負担分は10〜30%と大きく引き下げられる。

 300人の従業員を抱える企業の場合、1か月当たり約7万元、年間84万元(約1200万円)の負担軽減が見込めるという。


・国務院でも2/10、各地方政府に対して、企業の社会保険費負担率を軽減する措置の実施を求めた。


・東莞市政府は、企業支援の一環として、社会保険料率を労災保険で20%、医療保険で5%それぞれ引き下げる。実施時期は3月初めから12月末まで。

 同市はまた経営難に陥っている企業を対象に3〜6か月の保険料支払い猶予を認める。


※これらの社会保険費の企業負担の軽減措置は、未公表ではあるが中国全土の労働・社会保障局で行われるようになっており、ことに労働者の流動の激しい地域では半年間の保険料の支払猶予は企業にかなりの余裕を与えている。


A「最低賃金制廃止」論議が過熱。


・金融危機による打撃が深刻な広東省で、「最低賃金制を廃止すべき」との意見が熱を帯び始めている。

 求人数の減少から、同省内で失業率が上昇するなどの現象が出ていることを指摘し、最低賃金を制定するよりも、社会の安定のためにはより多くの労働者を吸収する事の方が先決と主張。「最低賃金は政府ではなく市場の需給により決められるべきだ」とした。


・現時点で制度が廃止となる見込みは薄いが、省政府でもさきごろ、企業救済を目的に最低賃金を今年は据え置く方針を発表しており、今後の引き上げ案制定に影響する可能性も考えられる。


・それでも2/11、中国国務院は2月10日、「当面の経済情勢下で就業工作を遂行することに関する通知を交付し、「企業が20人以上の人員を削減する場合、30日前に工会(注、労働組合)かまたは全従業員に状況を説明し、当該部門のリストラ計画を報告することを義務付けた」ことを明らかにした。

 企業のリストラによる雇用不安の拡大を最小限に抑えることが狙いとみられる。

 これに対して、香港の経営者は「優遇政策がなくなり、労働法の衝撃が加わった上、今度はリストラ制限だ。このままで行くと、柔軟性を欠いた本土市場は外資企業の吸引力を失ってしまうかもしれない」と話している。


・全国総工会は3月9日、景気低迷を受けて最低賃金制度を廃止する議論が各地で盛り上がっていることに対し、賛成しないと述べ、企業側による廃止論の高まりをけん制した。


※わざわざ全国総工会がこのような発言をするということは、最低賃金制の廃止の議論が一定程度高まってきていることを示している。


B労働契約法の実施についての変化。


・天津の労働争議激増。

 08年度は2.6倍の1.6万件。受理件数は3.6万件を超える。

 労働争議の処理、仲裁を行うスタッフ一人当たりの月間受理数は190〜400件となっており、処理方法の迅速化が急務。


※労働契約法施行以後、天津のみならず中国全土で労働争議が激増しており、その処理が追いつかないのが現状である。したがって各級機関では労使双方に裁判よりも調停による和解を強力にすすめており、その方向で決着することがほとんどとなっている。裁判になれば最低半年間かかると話せば、だいたい労働者側は即決の調停による和解を選ぶという。このことは企業側の負担をかなり減らす結果となっている。


・全人代で常務委員会法制工作員会の信春鷹副主任は、「景気後退にあわせて、労働契約法を改定することはない」と明言し、根拠として「労働契約法による企業のコスト増は2%前後にとどまり、企業経営には大きな影響がない」と発言した。


※この発言は、金融危機に直面した企業から、「労働契約法の改定要求」があるということを裏付けているし、それをある程度政府が意識せざるを得ないということを示している。またこの政府見解は、労働契約法の影響が大きくないということを金銭面で捉えているが、実際には企業経営者に与えている精神的苦痛が極めて大きいのである。この点で政府関係者と企業経営者との間には大きなギャップがある。労働契約法のみをとらえれば、たしかに金銭面での企業負担は大きくない。しかしながら社会保障費用をふくめての企業の金銭的負担は約20%増に及び、それは企業経営に深刻な影響を与えている。


C4兆元の財政出動。


 全人代終了後、温家宝首相は4兆元(約57兆円)の景気刺激策を即時実行することが必要であるとの考えを示した。この景気刺激策については各種のマスコミで報道されているので、あえてここでは述べないが、ただちに実行に移されることになっている。しかもすでに追加景気刺激策まで検討をされている。一説ではそれは合計100兆円にも及ぶとされている。さらにこれらの景気刺激策に対して、中国政府はこれに乗じた税金の無駄使いや汚職を防ぐために、支出が適正であるかどうか検査する新たな組織(中央拡大内需促進経済成長政策実施検査活動指導小委員会)を設置したという。これらの中国政府の決意が、中国経済をいちはやく経済恐慌から脱却させるだろう。



4.次の「バブル転がし」先は中国


 ドルショック以来、金融面で歯止めの利かなくなった世界経済は、各国でバブル経済を発生させながら、その規模と被害を拡大させてきた。いわゆる「バブル転がし(バブル・リレー)」で、世界経済は「成長」してきたのである。

 今回のサブプライムショックに発端を持つ米国発金融危機と世界恐慌は、それを上回る規模のバブル経済をどこかで発生させなければ解決不可能であると考える。

 現在、世界経済を浮揚させる可能性がありかつ最短距離にいるのは中国である。

 57兆円とも100兆円とも言われる財政出動が即座に実際に行われる可能性があり、そのムードに国民が乗る可能性があるからである。

 中国はさすがに社会主義国であるから、財源論争などはほとんどしない。

 一般人民も誰もこの財源などには無関心である。これが先進資本主義国とは大きな違いである。

 ブレーキ役がいないから、政府はとにかく景気浮揚のために大量の資金を投入してくる。

 おそらく国債や地方債を大量に発行してその財源とするのであろうが、中国政府のふところについては、実際にどれだけ使用可能な資金があるのか、だれにもわからない。

 先日、ある日本のセミナーでこの問題を提起したところ、一人の先生から「中国の景気が浮揚してくれば、世界中のファンドや投資銀行の余裕資金がなだれ込んでくるので、心配は無用である」との答えがあった。


 最近、「バブル・リレー」(山口義行編 岩波書店刊)という本が出版され、その中に次のような叙述があった。


 「新興国の中に、“性急に経済成長”を追い求める国々が登場したり、先進国の中に“資産インフレ”による景気浮揚策を試みる政府が現れたら、(金融取引に関する)規制と監視を求める国際世論にもほころびが生じる。そうなれば、アメリカは持ち前の強引さを発揮して、再び金融規制の緩和を実現するにちがいない。となれば、いったんは鳥かごの中に入れられておとなしくしていた旧投資銀行も、国際的な監視下におかれていたファンドも、再び自由に活動を開始して、“アメリカ型金融資本主義”の復活を高らかに宣言しながら、どこかできっとバブルを引き起こすことになる」


 中国政府の超大型財政出動の結果、中国経済は世界の先陣を切って浮揚する。そしてその動向を見て、世界中の余裕資金が中国になだれ込む。その結果、中国に未曾有のバブル経済が発生し、世界経済はふたたび活性化する。しかし数年後、中国のバブル経済が崩壊し世界経済は奈落の底に転落するかもしれない。


 それでもわれわれ中小零細企業にとっては、現下の経済が浮揚し、ビジネス環境が好転することが重要である。中国政府に資金があるかどうかや、国際金融資本がなだれ込みバブル経済が発生するかどうか、そんなことを考えている余裕はない。この中国経済浮揚のチャンスに乗って、いかに儲けるかを考えればよいのである。マンション、株などは底値なので買いかもしれない。中国政府の内需拡大政策に便乗して、「世界の市場」に売り込みをかけるチャンスが到来するかもしれない。

 中国政府は産業の高度化や環境対策を重視しており、これにまつわる事業に優遇策が導入され、ここに第2次起業ブームが起こるかもしれない。また「世界の工場」の復活があるかもしれない。それらに便乗してソフト産業が伸びるかもしれない。

 いずれにせよ、中国の景気浮揚は日本の中小零細企業家にとっては、千載一遇のチャンスが到来したと受け止めるべきである。