小島正憲の凝視中国

2010年1月 暴動情報検証 


2010年1月 暴動情報検証 
26.FEB.10
 1月は、今までにはない特徴的な暴動が多かった。下記、1〜7までは検証済み、8〜9は未検証。
  暴動レベル基準は文末に掲示。 

1.1/15 江蘇省蘇州市、台湾系企業の従業員4000人が会社側に抗議。  暴動レベル2。

 ・マスコミ情報:1/15朝8時過ぎ、蘇州市にある台湾系企業の「蘇州聯建科技公司」で、工場整備環境の不備による従業員のへキサン中毒事件の補償問題と2年連続の春節前ボーナスの未支給との噂に怒った2000人余の従業員が、会社側に抗議。一部の従業員が工場の設備や車を破壊するなどして暴れた。警察数百人が出動し、催涙弾を発射するなどして鎮圧。従業員100人余がけがをし、5人が警察に連行された。会社側が21日にボーナスを支払うと約束したが、従業員は連行された仲間の釈放を求めてスト続行。

        
         蘇州聯建科技公司                   破壊された看板

・実情:1/15、事件は蘇州工業園区蘇虹西路99号にある「聯建(中国)科技有限公司」で発生。この会社は台湾の勝華科技公司の独資の子会社で、1万3千人ほどの従業員が働いており、米アップル社の「iフォン」向けのタッチパネルなどを生産している。当日は、朝8時から午後3時まで、7時間にわたって4000人ほどの従業員が工場の施設や玄関の看板、工場内の車両などを壊すなどして暴れた。地元政府は300人以上の武装警察を出動させ、電気棒などで従業員を殴り鎮圧。従業員は30〜40人ほど負傷。会社側は給与の1か月分のボーナス支給を発表。従業員はすでに(1/20時点)仕事に復帰している。

・原因:
 @会社側が、経営不振を理由に春節前のボーナスを支払わないという発表をしたので、従業員たちが怒った。この会社では、昨年も金融危機を理由にボーナスが支給されなかったので、従業員は景気が回復し、残業も多いのにボーナスが支払われないことに納得せず抗議行動を起こした。

 A工場内では日常的に給料の計算や福利厚生、食堂のサービスなどの管理が悪く、従業員に不満が溜まっていた。

 B工場内では、作業でノーマルへキサンを使用しており、47人が中毒状態にあり、軽度36人、中度10人、重度1人となっているという。現在治療中であるが、補償問題などは未解決で、これに従業員が抗議。

※この会社の取引先は、アップル、ノキア、富士康など世界の著名企業が多く、彼らも供給会社である当該会社のコンプライアンスなどに注目している。この会社の春節開けの情報は、まだ私の手元に届いていない。3月に入ったら再度、この会社を訪ねてみる予定。

2.1/22 広東省深?市のDDSが倒産、取引業者の取り付け騒動。  暴動レベル0。

・マスコミ報道 : 1/22、深セン市を拠点とする物流企業のDDSが資金難のため営業停止。広州市、仏山市、東莞市などで従業員や取引先が支払いを求めて街頭デモ。

・実情:深セン市宝安区西郷大道の漢唐銀星酒店の4階で営業をしていた深セン東道物流有限公司(DDS)が資金繰りに行き詰まったため、従業員や取引先が給与や代金の支払いなどを求めて街頭デモ。野次馬を含めて1000人規模になる。このホテルの1〜2階では銀行が営業していたため警察500人が出動し、デモが暴徒化して銀行が襲われることを警戒。地元政府が従業員に給与を代位弁済することを約束したので収束。ただしホテルの玄関横の壁には、給与の支払いを求めて裁判を起こしている従業員の貼紙あり。DDS倒産後の荷物の取り扱いについて、勝手に持ち運ぶことを禁止する旨の広東省郵政管理局の貼紙もあり。現在、DDS本社跡は封鎖中。

            
        DDS本社 この4F                 広州市DDS支社跡 

・DDSの広州市支社でも取り付け騒ぎ。

・実情:同じく1/22、広州市天河区石牌西路の電脳城前の道路で、委託業者など数千人がDDSへ支払いを求めて街頭デモ。秩序維持のため警察が出動。道路を封鎖し交通を麻痺させた抗議者数人とDDSの幹部社員が拘束された。

この電脳城近辺には、電化製品や電子部品などの卸売り・小売業者が千軒以上密集しており、華南地域だけでなく上海などからも購入客が殺到している。中には通信販売を専門に行っている業者もある。周辺には物流業者が多数営業しており、最近そのサービスの一環として、代金代行回収サービスも行うようになっていた。DDSはそのような物流業者の中では、早くて安いという評判で業績を急拡大していた。そのDDSが資金難に陥り、業者から委託され代理回収した代金を使い込んでしまった。代金回収を委託していた業者は、地元政府の仲介による早急な解決を望んで大規模なデモを敢行。

        
             電脳城周辺  左:2/22昼   右:1/22夜

・補足:中国では最近、通信販売が盛んになってきており、物流業者などによる第3者の代金代理回収という便利なシステムも出来てきている。しかし今回のDDSのように中間業者の倒産という事態も同時に起きてくるということには、中国の一般業者はまだ経験不足であった。一般資本主義国の市場経済下においてこのような事態が発生した場合、多くの委託業者は自己責任の結果として、それを仕方なく受容し地元政府に泣きつくことはない。しかし中国ではまだ社会主義の名残があり、このような場合でも地元政府への依頼心が強いようである。たとえばある業者は「DDSは地元政府に税金を払っている。だからその分を我々に還元すべきだ」と息巻いていたが、私にはその理屈はあまり理解できなかった。それでもDDSの倒産被害者は数百軒で、その中には50万元(約750万円)ほどの金額の業者もあるということを聞いて、彼らが騒動を起こす気持ちはよくわかった。

3.12/下旬〜1月 広東省深?市沙一村にて、汚職容疑の幹部を巡る騒動。  暴動レベル0。

・マスコミ報道:深セン市宝安区沙井街道にある沙一村の前村長が香港との境界で汚職容疑のため逮捕。前村長の個人資産は30億元(約450億円)とも言われている。ところがこの前村長は、村民に毎月4500元ずつ配当を出していたので、この逮捕に村民100人ほどが抗議。身柄の拘束を延期したという。

・実情:前村長の陳才興はやり手で、工業団地や会社の経営で手腕を発揮し、「沙井の皇帝」と呼ばれていた。沙一株式会社を経営し、村民600人に毎月4500元の配当を渡していた。しかし定年のため村長の座を明け渡した。次の村長の陳海平は、前村長を沙一株式会社の董事長の座からも外すことを画策し、前村長の所業を暴き、告発した。市の監査が入り、前村長の拘束という事態に立ち至りそうになったとき、村民400人ほどが署名運動を行い、前村長の潔白を訴えた。その後、前村長派と現村長派の泥仕合が続いている。

     
         前村長を守る村民の運動               沙一村役場前で、筆者

・補足:周辺で聞き込みを行ったが、前村長の所在は不明。監獄に入っているという者もあれば、昨日もこの庁舎に来て仕事をしていたという者あり、まったくわからなかった。しかし庁舎内は春節休み中で人影がなかった。

この村の周辺は工業地帯として開発されており、またマンションが林立し、別荘も立ち並んでいる。マンションの駐車場にもベンツがずらりと並んでおり、まさに成り金村という感じがする一帯だった。

5.1/24、広東省仏山市で、ごみ焼却場建設に反対する住民400人のデモ。  暴動レベル0。

・マスコミ情報:1/24、仏山市で、ごみ焼却場建設に反対する高明区市民約400人が高明区内をデモ。

・実情:仏山市南海区江南発電場が、南海区西樵鎮に建設を計画したごみ焼却発電所に、隣の高明区の住民約500人が反対してデモを行った。住民は全員がマスクをしてデモを行い、空気の汚染に反対した。警察約50人が警戒。

補足:この地域にはすでに火力発電所が稼動しており、他の地域と較べると明らかに空気が汚染されていた。

・1/25、広州市白雲区でも、村民約300人のごみ焼却場反対の抗議行動あり。白雲区にはすでに李坑ごみ焼却発電所が稼動しており、これ以上の大気汚染に村民が反対。既存の李坑ごみ焼却発電所は広州市全体の1/12のごみを焼却している。1/07の午前9時半ごろ、この発電所の冷却用水管が破裂し、大量の白煙が巻き上がる事故もあった。周辺ではガン患者の発生も多くなっているという。

同じく広州市の番禺区では、昨年、ごみ焼却場の建設に反対する大きな住民運動が起き、計画が中止に追い込まれている。

6.1/07、広東省仏山市南海区万石村で、土地開発をめぐり、村民約300人が警官隊と衝突。
                                                                 暴動レベル2。

・マスコミ報道:1/07、仏山市南海区万石村で土地の所有権をめぐって村民約300人と警官隊が衝突。警官隊は催涙弾を発射、村民10数人が負傷、うち一人が重傷、村民48人が逮捕される。

・実情:1/07早朝、仏山市南海区万石村の南海獅山松岡東風用水ダムの東側で、棍棒などを持った村民300人と2000人余の警官隊が衝突した。村民一人が死亡し、数十人が逮捕、2/24現在でも3人が拘束中。午後1時ごろ、事態は収束。工事が始まり、村民の家屋は取り壊され、その一帯が臨時の白レンガ壁で囲われた。

     

      白レンガの壁で囲われた土地            土地所有問題の掲示

・原因:従来からこの土地は係争中であったが、仏山市国土局はこの一帯の土地が歴史的に国有であると裁定した。村民側は、1953年の「土地所有証」を持ち出し、さらに最近までそこを耕作し農業税を納めていることから、その土地が村民のものであると主張した。しかし地元政府はその文書はその後の歴史的経過の中で無効となっており、その土地は国有であると判断し、12万平方米の土地を民間会社(保利華南実業有限公司)に売却した。村民は裁判所などに訴え出たが却下。村民はほとんど補償が得られなかったため、その土地にテントを張って開発を阻止した。そして1/07に強制執行日を迎え、法律執行人員や警官隊との衝突になった。

・補足:裁判所はこの土地が、人民公社運動期間には人民公社に属していたが、その後80年代以降に営林場の土地となり、国有化されていると裁定。地元当局は村中を1軒ずつ戸別訪問し、それを説得して回った。さらに仏山市国土資源局南海分局は、万石村の土地所有問題について、昨年12/07、村長・村民代表・共産党員などを集めて討論会を行った。そしてその結論を掲示した。しかし村民は納得せず、省政府などに陳情を繰り返したが無駄だった。

万石村の公園で雑談をしていた老人たちに話を聞いたところ、「この衝突現場には多くの記者が訪れ取材していったがどの新聞もほとんど取り上げてくれなかった」と怒りをあらわにしていた。

7.1/19、広東省清遠市陽山県で、住民数百人と警官隊約100人が衝突。  暴動レベル2。

・マスコミ情報:1/19朝9時ごろ、清遠市陽山県で住民数百人と警官隊約100人が衝突。警察車両2台が破壊され、双方にけが人が出た。地元政府の発表では、住民が自宅に爆発物を持っているという情報が入ったため、強制捜査に踏み切ったところ、住民の集団での反撃にあったという。住民側は、警察が住宅の強制撤去をしようとしたため、火炎瓶や石を投げ、棍棒や農具で自衛したという。

・実情:1/17朝7時半ごろ、清遠市陽山県陽城鎮通儒村の入り口付近に、陽城鎮共産党書記の林光強が約200人の武装警察と一部政府職員を含む300人ほどの輩、合計500人を引き連れて現れ、まず住民の家の立ち木を強制的に撤去しようとした。住民側は住宅取り壊しの許可書類の提示を迫ったが、林書記がそれを拒んだため、住民側は火炎瓶やレンガ、竹などをパトカーに投げつけるなどして反撃した。警察側も催涙弾や銃で威嚇し、住民を追い散らした。騒ぎは午前11時ごろ、地元政府側が撤収し収束した。

        

・原因:陽山県政府は、県内の再開発を行っており、通儒村付近に中心道路を通す予定である。この計画は2004年から立案されていたが、地元住民との間で立ち退き価格面での話し合いがつかず、強制執行となった。現在(2/23)、住民6人が警察に拘束中であり、10人ほどが行方をくらましているという。

・補足:この通儒村は県内繁華街のすぐ側にあり、裏寂れた場所ではない。したがって住民は土地を安く手放す気にはなれないのであろう。住民の一人は、「1u=200元(約3000円)でなければ売らない」と大きな声で話してくれた。すでに道路はかなりできあがっている。道路際にはマンションなども立ち始めており、数年後には上の看板の写真のような立派な町ができあがるのであろう。おそらく政府側が住民側の要望をある程度飲む形で決着するのではないかと思う。住民たちは、「事件後多くの記者が取材にきたが、だれも真剣に取り上げてくれず、もう話し疲れた」と言っていた。

8.1/25、パナソニック北京子会社で数百人が抗議。  暴動レベル0。

・マスコミ情報:1/25、北京市の天竺空港開発区A区にあるパナソニック傘下の松下部品(江門)有限公司北京分公司で、従業員数百人が希望退職の補償金をめぐって、門前で抗議行動を起こした。会社側の支給額は法定以上であるが、幹部社員との間に倍以上の開きがあるため、一般従業員は不満。従業員側は(1年当たり2万元×勤続年数)の計算式で退職補償金を要求している。会社側は誠意を持って対処すると話している。

9.1/08、江蘇省ヒ州市運河鎮河湾村で、土地収用で行政・業者側と住民が衝突。  暴動レベル2

・マスコミ情報:1/08、江蘇省?州市運河鎮河湾村で、土地収用をめぐって1000人以上の住民が警官隊と衝突。住民50人が負傷。1/07の午後4時ごろ、鎮政府に雇われた暴力団風の男たち約200人が住民の土地を収用しようとして、村に侵入してきた。それを阻止しようとした住民と争いになり、住民2人が死んだ。翌日、住民1000人以上が二人の棺を担いで、鎮政府に抗議に押しかけ、警官隊と衝突した。



私の暴動評価基準

暴動レベル0 : 抗議行動のみ 破壊なし

暴動レベル1 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以下(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ

暴動レベル2 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以上(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ 

暴動レベル3 : 破壊活動を含む抗議行動 一般商店への略奪暴行を含む  

暴動レベル4 : 偶発的殺人を伴った破壊活動

暴動レベル5 : テロなど計画的殺人および大量破壊活動