小島正憲の凝視中国

09年11月:暴動情報検証


09年11月:暴動情報検証 
17.DEC.09
.2.3.は検証済み。4〜7は未検証。
1.2.は10月末に起きたものだが、情報入手が11月となり調査が遅れたので、今月の調査分に組み込んだ。


1.10/29 甘粛省蘭州市の市内 甘粛省建築職業技術学院の大学生の抗議デモ。  暴動レベル0。

@マスコミ報道 : 10/29に、蘭州市の市内で甘粛省建築職業技術学院の大学生約1000人が、高額な学費や生活環境の不満から市内でデモ行進を行い、省政府前でも抗議活動を行った。1000人以上の武装警察が出動し阻止、学生10数人が負傷。

A実情 : 甘粛省建築職業技術学院は、本校が蘭州市の西端の晏家坪にあり、学生数4000人を超える大学である。ただしここはかなり田舎で、夜間はタクシーや3輪車も行きたがらない場所。

             

         建築職業技術学院本校前        新科分校事務棟前

・甘粛省建築職業技術学院は2009年度の新入生を定員枠より多く入学させたため、新入生の一部を蘭州市東端の東崗鎮付近の新科分校に入学させた。本校と分校は約40km離れており、公共バス以外に交通手段はなく非常に不便。なおこの学校の周辺には街がなく、平日には外出することもままならないような場所。

・この新科分校は、甘粛省内の多くの私立学校が寄り集まっているような建物内にあり、雑居大学にいわば間借りしているような状況であった。その建物には外国語学校という看板があり、溶接学校、裁縫学校、自動車修理学校などの看板が数多く掲げられていた。

・この新科分校の寮を含む生活環境が劣悪で、水は臭くて飲めないし、給湯設備が故障し熱湯が出ず、下痢をする学生が続出する有様であった。この状況は寮に住む他の学校の学生も同様であったが、建築職業技術学院の場合は新設であったため、授業もおろそかで教科書もなく、教師一人が講義を続けるという状況であった。
10/29、たまりかねた建築職業技術学院の学生300人ほどが先頭に立ち、他の学校の学生300人ほどを巻き込んで、省政府への抗議デモを敢行した。学生のデモ参加者総数は約600人。

・学生たちは市内へ向かう東崗大通りを10kmほど西進したが、盤旋路の交差点で約1000人の武装警察に阻止され解散。負傷者なし。ただし午前11時から午後4時ごろまで、現場付近は大混乱し、交通は麻痺した。
野次馬は1000人を超えた。現在、学生の首謀者10数名を取調べ中。

 

    抗議デモ解散地点

・事件後、建築職業技術学院はただちに分校生を本校に移動させたが、本校でも寮設備などが不十分で不満が溜まっており、完全な解決には程遠い状態。

B私見 
・実際に新科分校の寮内に入って見聞してみたが、今でも状態はかなり悪く、今回の抗議デモを「一人っ子大学生のわがまま騒動」と理解すべきではない。むしろ建築職業技術学院の経営者が利益優先で、十分に学業環境を整えなかったため、学生の抗議デモに発展したと考えるべきである。また省の教育関係部門が、このような学業環境や雑居大学を黙認し続けていてはならないと考える。


2.10/30 広東省韶関市翁源県陂下村 強制土地収用に農民抗議、警官と衝突。  暴動レベル1。

@マスコミ報道 : 10/30に、韶関市翁源県陂下村で地元政府の強制土地収用に反対する農民と警官が衝突し、負傷者数人が出た。翁源県政府がダム建設を理由に農民の土地約81ヘクタールを格安の値段で強制収用し、村民の家屋を強引に取り壊そうとした。中には新築の家屋もあったので、村民は必至で抵抗。そこに警官と300人ほどの身元不明者がハンマーを持って取り壊しを開始。投石などで抵抗する村民との間で乱闘。

A実情 : 翁源県陂下村の土地は、2004年に山地は1ムー=1万5千元、田畑は1ムー=2万5千元で、村民から政府が接収済み。価格は当時としては相場並みで格安とはいえない。しかしその価格に納得せず、協議書にサインしていない村民もいるという。

・09年度に入って、村の中央に県道が通ることになったり、また近くに県政府の建物や高層マンションが立ち並ぶようになり、一気に土地価格が上昇してきた。

・それに不満を持った村民の一部が、売却済みの土地に許可なく臨時の安物家屋を建て、土地代や新築家屋?の立ち退き代を政府に要求した。

・政府はそれらの家屋が違法建築であるということを理由に、取り壊しを強制的に実施しようとしたところ、村民との乱闘に至った。

    

      当日の乱闘の様子       約1か月半後の現場 後方は政府の建物

・なお、数ヶ月前には、新設の道路が隣村と境界地点を通るため、隣村が陂下村の土地を強奪し、隣村対決で村民同士の乱闘騒ぎがあり、制止にはいった警官が負傷する事件もあったという。

B私見 
 今回もマスコミ報道と実情にはかなりの温度差があった。たしかに地元政府のやり方は強引であるが、農民の側も一方的な弱者ではなく、したたかに抵抗しているということである。また隣村の村民との争いもあり、このような現象は「銭ゲバ」の結果と考えるのが正しいと思う。

・陂下村の農家で老婆に話を聞いていると、彼女は「田畑を取られたので、私は生きていけない」と泣き出した。しかし隣に座っていた若い娘は、「私はここから自転車で20分ほど走った街で、店員をして月給1000元ほどもらっている。毎日が楽しい」と、ニコニコ話してくれた。たしかに翁源県の街中の店は結構繁盛しており、至る所に求人広告が貼ってあった。これは世代間格差と呼ぶのがふさわしい現象だろうか。


3.11/10ごろ 広東省肇慶市懐集県懐城鎮龍湾村  鉄鋼工場汚染に住民抗議。  暴動レベル0。

@マスコミ情報 : 肇慶市懐集県懐城鎮龍湾村では、村内にある嶺南鉄鋼工場から排出される金属粉と硫化物によって田畑が汚染され、肺がんが増えるなど人体にも大きな影響が出るようになった。村民はこの鉄鋼工場になんども抗議をしたが、地元政府からの弾圧もあり、改善はされなかった。11/10ごろ、かなりの人数の村民が工場前で抗議を行ったが解決されなかった。なおこの工場の経営者はこの1年で3度交代したという。

A実情 :
・肇慶市懐集県懐城鎮龍湾村には道路をはさんで問題の鉄鋼工場とセメント工場が並んでおり、その両工場から出る煤煙でたとえ晴天でも太陽は見えないという。地元住民の話ではたしかに鉄鋼工場からの煙もすごいが、セメント工場の煙の方がはるかにひどいらしい。しかしセメント工場は地元企業なので地元政府はそれを規制していないという。

        

     セメント工場看板          道路をはさんでセメント、鉄鋼工場        鉄鋼工場看板

                              

       セメント工場                                        鉄鋼工場

・この抗議デモは、いわば官製抗議デモであり、現代中国のおもしろい一側面を描き出している。

・同時に中国で一番発展しているといわれている広東省ですら、このようなことが起きているわけであり、公害問題の深刻さを物語っている。

 

 「野焼き」状態で煙を排出する工場

・なお、この村へ行く途中の肇慶市広寧県で、車の前方が黒煙でふさがれたので、一時停車して見回したところ、近くの廃品処理工場から、もうもうと煙が出ていた。煙突はなく野焼きのような状況だった。近所の人に聞いてみると、いつもこの状態だという。車を降りてカメラを向けていたら、工場内から屈強な男が3人飛び出てきて、私を怒鳴りつけたので、慌てて車で逃げた。


4.11/04〜 重慶市にあるモーターバイク生産大手の嘉陵集団公司の従業員数百人がスト。
                                                     暴動レベル0。

・重慶市にあるモーターバイク生産大手の嘉陵集団公司傘下の4公司(億机分社、宏翔運送分社、凱越異机場、海源分社)の従業員数百人が、11/04からストに突入。

・11/02、宏翔運送分社の社員がリストラの情報とその補償条件を入手し、その改善を要求して公司幹部と交渉を行った。補償金は短期勤続者で10万元、長期勤続者で20万元を要求。公司側は明確な回答をせず、逆に従業員代表を拘束しようとした。

・11/04、嘉陵集団公司傘下の4公司の従業員数百名が、いっせいにストに突入。公司は全面的に操業停止となる。従業員代表50名が重慶市政府に陳情。

・近年、嘉陵集団公司は経営不振で大幅な人員削減を計画していた。同公司は2007年9月にもリストラを行ったが、元従業員によれば、そのときの補償金もいまだに受け取っていないという。


5.11/04 浙江省慈渓市 市民千人が城管に抗議。  暴動レベル1。

・11/04、慈渓市で城管(都市管理人:路上販売の取締や交通整理を行っている政府末端関係者)が、市民を殴打したことに、1000人以上の市民が集団抗議。市民が城管数十名を取り囲む騒ぎとなったが、武装警察の出動で沈静化した。 


6.11/21 雲南省昆明市螺シ湾卸市場で、商店主1000人が抗議行動。  暴動レベル2。 

・11/21、昆明市螺シ湾卸市場で、商店主ら1000人以上が政府当局の強制移転指示に反対して抗議行動を起こす。

・朝8時ごろ、螺シ湾卸市場の双竜商城の正門前に集合した商店主たちが集まり、政府当局の11/30に市場を強制閉鎖するという発表に抗議した。12時過ぎになって、商店主たちは隆盛門方面へ移動し、そこで市の下水道処理車2台を破壊し、下水処理用パイプを道路上に放り出した。また現場にいた数百名の警官に投石などを行い、パトカー数台を破壊した。周辺道路は閉鎖され、商店はシャッターを下ろした。

・午後1時ごろ、警察が群集に煙霧弾を投げつけ解散させた。

・螺シ湾卸市場は1989年に日用品雑貨市場として開設され、中国10大日常生活品市場と呼ばれるまでに発展した。現在、螺シ湾卸市場には、1万社以上の商店が入居しており、10万人以上の従業員が働いている。


7.11/21 黒竜江省鶴崗市 炭鉱爆発事故で104人死亡。  暴動レベル0。

・11/21未明、鶴崗市の新興煤鉱で爆発事故があり、23日時点で104名が死亡、まだ4名が坑内に。

・炭鉱を管理していた龍煤グループの安全管理がずさんであったことに、炭鉱労働者多数が抗議している模様。

・事故の処理には中央政府が直接当たっている。



≪私の暴動評価基準≫

暴動レベル0 : 抗議行動のみ 破壊なし

暴動レベル1 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以下(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ

暴動レベル2 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以上(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ 

暴動レベル3 : 破壊活動を含む抗議行動 一般商店への略奪暴行を含む  

暴動レベル4 : 偶発的殺人を伴った破壊活動

暴動レベル5 : テロなど計画的殺人および大量破壊活動