小島正憲の凝視中国

民主党大勝:中国マスコミの意外な論評


民主党大勝:中国マスコミの意外な論評   
09.SEP.09
 8/30、衆議院選挙で民主党が大勝した。

 8/31、中国は民主党政権誕生におおむね好意的な反応を示した。しかしながら中国の一部のマスコミでは意外な記事が載った。

 9/02付け「環球時報」が、「日本要建4艘準航母」という大見出しを掲げ、護衛艦「日向」の大きな写真を載せ、1面全部を使って、日本に自民党よりも軍国主義的で反中的な政権が誕生したかのように報じたのである。

 この突拍子もない記事は、8/31に出された防衛省の来年度予算の概算要求の中に、ヘリコプター搭載の護衛艦の建造が盛り込まれていることを根拠にして書かれていた。さらに本文では、軍事専門家である戴旭氏に、「日本海軍の当面の仮想敵は中国であり、日本の4艘の準空母の主な狙いは中国の潜水艦である。日本は西太平洋でさらに大きな戦略的野心を持っている」、「もし次期政権の民主党がこの計画を実施するのならば、これは西太平洋の軍備拡大競争に号砲をならすことになる。その場合は中国を含む日本の周辺国家は必ず対応する」との見解を述べさせている。

 私はこの情報に接して、意表を衝かれた思いだった。なぜなら私は中国では政府だけでなく、マスコミ界も鳩山次期政権を歓迎するだろうと思っていたからであり、ましてや防衛省の概算要求の件で、鳩山次期政権が攻撃されるとは思ってもみなかったからである。

 私は8/31に来年度予算の概算要求が提出されたことは、マスコミ報道を通じて知っていたが、この防衛省の概算要求の中身についてはほとんど知らなかった。おそらく私だけでなく、大方の日本人は知らなかったのではないだろうか。「環球時報」の記事は、今回の概算要求の中身については、時事通信社と毎日新聞が発表した記事を基にしたと書いている。

 大方の日本人は、常識として民主党が自民党よりは左に位置していると理解している。また、8/31に提出された来年度予算の概算要求については、鳩山民主党代表が見直すと言明しているものであるし、当然のことながら防衛省の予算も見直される。ことに民主党と連立を組む予定の社民党は、マニフェストで自衛隊の縮小を訴えており、軍備拡大の方向には行くはずがない。これが今回の衆議院選挙での日本人の選択である。

 このように明確な日本人の選択を、なぜ中国のマスコミは、わざわざ捻じ曲げて報道したのか。
 ある専門家は「次期政権への牽制である」と評したが、私は中国マスコミ界の当惑ではないかと思う。

 鳩山民主党代表は、かねてから「靖国神社への参拝はしない」と言明しており、アジア外交重視の姿勢を表明している。したがって今後、中国のマスコミは反日宣伝で点数を稼ぎ、部数を拡大することが難しくなる。

 「鳩山民主党は自民党よりも中国にとってはましな政権である」と書いても多くの中国人から喝采を受けない。

 だからわざわざこの一件を持ち出して、早めに悪のイメージを植えつけようとしたのではないかと考える。そうとでも考えなければ、日本人のだれもが考え付かない牽強付会な論評を、いかにもタイミングよく発信したことが理解できないからである。

 それでもその後のネット上での反応などを見ると、それは目論見どおり、中国人民に鳩山次期政権への間違った印象を刷り込み、点数を稼ぐことには成功したようである。

 一方、米国でも、鳩山民主党代表が日本で発表した論文が、タイミングよく抜粋英訳されて米紙に転載され、鳩山次期政権は反米的という印象を与えたことにより、「離米説」が流れた。

 たしかに鳩山次期政権は、「緊密で対等な日米関係」を唱え、在日米軍の見直しや日米地位協定の改訂、海上自衛隊のインド洋での給油活動の打ち切りなど、従来の自民党政権とは一線を画した政策を打ち出している。

 しかしながら鳩山次期政権は、一挙に対米政策を変更しようとしているわけではない。あくまでも日米同盟重視の姿勢である。それは米国の知日派ならば、常識の範囲内である。

 だから前述の鳩山論文抜粋記事は、一部の米国のマスコミの当惑の表れではないかと考える。なおその後の鳩山民主党代表とオバマ大統領との直接対話で、この種の「離米説」は沈静化しつつある。

 中国政府は今後、自民党政権に対してきたときのように、「戦略的互恵関係」という衣の下に、「反日」という鎧をちらつかせながら、外交交渉を有利に運ぶという芸当はできない。鳩山次期政権が、アジア外交重視の姿勢のもとに、中国に対しても「謝罪すべきは謝罪し、主張すべきは主張する」という態度を取るので、中国政府にも「反日」の口実がなくなる。 さらにマスコミも反日を道具にして、部数を拡大することが難しくなる。

 いよいよ日中双方が真なる「戦略的互恵関係」を語ることができるようになったのである。

 しかし同時にこれからは、米国という威を借りることができなくなるわけだから、日本外交に試練のときが訪れたと理解すべきである。

 また小国日本が、米中の両大国を相手にして、これこそが外交とうならせるような絶妙な手腕を発揮できる舞台が用意されたと喜ぶべきである。