小島正憲の凝視中国

読後雑感 : 2011年 第5回 


読後雑感 : 2011年 第5回 
22.FEB.11
1.「もしも日本が戦争に巻き込まれたら!」
2.「中国の核戦略に日本は屈服する」
3.「国家の命運」

4.「2013年、中国で軍事クーデターが起こる」
5.「中国最大の敵 日本を攻撃せよ」

1.「もしも日本が戦争に巻き込まれたら!」  小川和久著  アスコム  2月15日
副題 : 「日本の“戦争力” vs 北朝鮮、中国」   帯の言葉 : 「国はあなたをどこまで守ってくれるのか?」

小川氏のこの本は、ぜひ多くの人に読んでもらいたい。小川氏はこの本で、尖閣諸島問題が勃発してから保守一色に染まっている世論に、冷静にしかも常識的に一石を投じている。しかも小川氏は軍事評論家であるだけに、本文中で中国・北朝鮮・韓国・米国・日本などの軍事力の評価が詳しく行われており、きわめて説得力がある。もちろん私は軍事には素人であるから、小川氏の論が絶対に正しいと言うことはできない。その意味で、今後、他の軍事評論家や田母神氏などが、この小川氏の著書をどのように批判してくるかを楽しみにしている。

小川氏は、「中国の強圧姿勢は、船長が釈放された後も続きました。ここで考えるべきは、中国という国のメンタリティです。国際政治の専門家の間では、現代中国は次の4つの要素で動くという見方が常識とされています。第一に、中国イデオロギーはナショナリズムで、これを基本として動く。第二に、官製メディアである中国メディアは、ナショナリズムに迎合し、これを助長する。第三に、中国の指導者はナショナリズムを意識し、より強い外向的な姿勢を示して国内の支持を得ようとしがちである。第四に、中国では以上の要素に権力闘争がつねに影を落とす。尖閣諸島漁船衝突事件の経緯を見れば、まさにその通りに展開した」と、書いている。私もこの視点は、現代中国の政治動向分析には、欠かせないものであると思う。

そして小川氏は、「中国は船長の早期帰国を求めてさまざまなシグナルを送ってきたが、外交経験の浅い日本の政権は読み取ることができず対日批判が強まった。対中国外交には、強硬姿勢の背後にある中国のメンタリティを理解することが欠かせない」と、述べている。私もこの見解を支持する。

さらに小川氏は、尖閣諸島問題ですぐにやらなければならないことは、「第一に、国際世論の中国包囲網を作る必要がある。第二に、領海法や国際法といった国内法を整備する必要がある。第三に、尖閣諸島に自衛隊の沿岸監視隊を駐屯させるべきである」と、続けて書いている。この第三の点については、私は疑問がある。あえて現在、尖閣諸島に自衛隊を駐屯させ、中国のナショナリズムを刺激するよりも、民間人の老人決死隊を送り込めばよいと思うからである。

私は小川氏の「中国脅威論のほとんどは、稚拙な見方に基づく単なる妄想に過ぎない」という主張と、それに続けて展開されている文章を読んで、それが軍事的な側面から正しく中国を捉えたものだけに、経済面から「中国は砂上の楼閣」と言い続けている私にとっては、力強い援軍を得た気持ちであった。小川氏の本著は、この本の半分以上を割いて北朝鮮問題にも言及しており、内容がきわめて濃い。つまらない私の解説はこれぐらいにしておくので、ぜひ本文をご一読いただきたいと願うものである。

最近、中国の軍事問題について言及する書籍が、数冊出版されている。今回の読後雑感では、それらについて上記の小川氏の主張を縦糸にしながら、以下に分析してみる。

2.「中国の核戦略に日本は屈服する」  伊藤貫著  小学館  2月6日
副題 : 「今こそ日本人に必要な核抑止力」
帯の言葉 : 「中国の属国がイヤなら 明るく堂々と “核保有”を議論しよう!」

伊藤氏はまえがきで「2020年代になると中国の実質的な経済規模と軍事予算規模はアメリカを凌駕し、世界一の規模になると予測されている」、「東アジア地域における米中間の経済力バランスと軍事力バランスは、今後も明確に中国に有利な方向にシフトし続けるであろう。日本が国防戦略を根本的に変更し、自主的な抑止力を構築しないのならば、2020年代の日本は“中国の核戦略に屈する”ことになる可能性が高い。アメリカに依存するだけでは、今後の日本の独立は守れないからである」と書き、その論を進めている。この伊藤氏の前提そのものがきわめて非現実的なものであり、本書で読者は間違った仮定のもとに展開される空想の世界にいざなわれることになる。

私は中国の経済力について、それが“砂上の楼閣”であると考えており、5年以内にマンション・バブルが崩壊し、混乱を極めると予測している。このことについては、今までいろいろな場所で述べてきたが、近日中にまとめ直して発表する予定である。中国の軍事力はこの経済力に裏打ちされたものであり、経済力が崩壊すれば当然のことながら、軍事力も弱体化するので、軍事力が世界一になると想定することは無意味なことである。

伊藤氏の中国経済分析はきわめて稚拙である。たとえば伊藤氏が若き頃付き合った中国人が非常に優秀であったことを引き合いに出し、「中国には優秀な人材が多い」と言い、すでに中国は「80后」の時代に入り、中国人も様変わりし、怠惰な人間が多くなっていることを知らない。また「労働人口の約5割を、労働生産性が非常に低い農業セクターから、労働生産性がはるかに高い製造業やサービス業に移行させる余地がある」と書き、目下の中国の課題の一つが人手不足であることをまったく知らない。さらに「中国の経済成長要員の約8割は国内需要の増加によるものである。中国経済はすでに、貿易黒字の増加に依存して成長するパターンから脱却している」と書いているが、それが膨大な借金まがいの財政出動によるものであることに、気が付いていない。

第1章で、伊藤氏は外交には二つのパラダイムがあるとして、“ウィルソン・パラダイムとリアリスト・パラダイム”についてながながと解説しているが、それは性善説と性悪説のことであり、わざわざカタカナで説明し、学識を披瀝してもらわなくても良い内容である。伊藤氏自身も、「中国はその数千年間の苛酷で悲劇的な歴史から、“人間の表明する善意に期待してはならない。国家間の善意などというものは、しょせんはかない蜃気楼のようなものにすぎない”という智慧を得ている」と書いており、それを自覚している。

伊藤氏は本文中で、「中国政府は1989年〜2009年の21年間、毎年の軍事予算を5年で2倍、10年で4倍、15年で8倍、という高スピードで増加させてきた」となんども書き、「2010年の中国の真の軍事予算(約2000億ドル)は、日本の実質軍事予算(約400億ドル)の5倍の規模である」と書いている。これに対して小川氏は上掲著で、「同じ21年間にアメリカ、日本、台湾も着実に軍事力の近代化を進めています。中国の伸びが大きいからといって、彼我の戦力差が縮まったと単純にみなすことはできない。実のところ、中国が現在持っている巨大な軍事力を完全に近代化しようと思えば、いま支出している資金ではまったく足りないと断言できます」と書いている。

伊藤氏はペンタゴンの中国軍に関する軍事レポートを引用し、「2007年、中国軍は“宇宙空間の衛星をミサイルで破壊する”実験に成功し、アメリカのMD(ミサイル防衛)システムを麻痺させる能力を証明した」、「また中国軍は、米軍と自衛隊の使用するレーダー施設、イージス艦、PAC3高射群等の上空で中国の核ミサイルを故意に空中爆発させることにより、電磁波を激しく攪乱して、MDシステムのレーダー、センサー、コンピューター、通信機能を麻痺させることができる」と書いている。これに対して小川氏は、「衛星破壊兵器を含む中国の接近拒否戦略に対して、アメリカはエア・シー・バトル構想で封じ込めようとしています」と書いている。

伊藤氏は、「アメリカはしょせん覇権主義国家であって、巨大な中国に対抗して日本を“保護”することが自国の国益にならないと計算すれば、日米同盟を無効化する行為をとるはずである」、「そのような事態に備えるため、今から自主的な核抑止力構築を始める必要がある」と主張している。これに対して小川氏は、「アメリカの中国に対する国家戦略は、90年代後半のクリントン政権以降、“建設的関与”という戦略で一貫しています。平たく言えば、“中国を経済的にはアメリカの利益となる国に、軍事的には脅威とならない国にしていく”という戦略です」、「(中国の)民主化を後戻りさせないための歯止めであり、目指す着地点に落とし込んでいくための必要な道具(強制力)としてアメリカの軍事戦略が存在し、日米の同盟関係があるというのが、アメリカの位置づけなのです。この考え方は、日本も大いに参考にすべきだと思います」と書いている。

伊藤氏は「日本は必要最小限の自衛能力」を持つべきだとして、「核弾頭付き巡航ミサイル200〜300基と、それを搭載するベースとしての潜水艦(約30隻)を建造し運用」すればよいと書いており、そのための軍事予算は毎年1兆円以下であると述べている。これに対して小川氏は、「核兵器は小さなコストで圧倒的な破壊力を手に入れることができます。だからこそ、北朝鮮のような貧しい国が無理を重ねて実験し、手に入れたわけです。コストをあまりかけず、アメリカの後ろ盾のない状態で軍事的に適地を制圧する能力を持とうとするなら、日本にとっても、これ以上の選択肢はありません。ただし、日本が核武装するときは、日本が自立した軍事力を手中にする場合と同様に、アメリカがもっとも強硬に反対するでしょう。ですから日米同盟の解消は当然ですが、それに加えて全世界が日本を避難する中で、日本は核拡散防止条約(NPT)から脱退しなければならなくなります。日米原子力協定の解消により核燃料が供給されなくなるだけでなく、供給済みの分も返却しなければならなくなります。アメリカ以外からのウランの輸入もできなくなり、電力需要の3分の1をまかなっている原子力発電所が稼働不能になってしまいます」と書いている。

伊藤氏は、「鳩山由紀夫、仙石由人、福田康夫、谷垣禎一、朝日新聞、外務省チャイナ・スクール等、中国の“平和的台頭”PRを鵜呑みにしてきた日本の親中派は、日本の自主防衛に反対している」と書き、自民・民主などの既存諸政党を撫で切りにし、ウルトラ保守政権登場への道を敷いている。しかし自らをウルトラ保守派の応援団であるとは、どこにも書いていない。

伊藤氏は米国に25年間滞在していたというだけあって、米国社会の分析には学ぶべきものが多い。

3.「国家の命運」  藪中三十二著  新潮新書  2010年10月20日
帯の言葉 : 「外交の修羅場で考えた危機と希望」

藪中氏のこの本は、同氏の外交官時代の回想記で、中国だけを対象に語ったものではない。しかし中国や北朝鮮との外交の現場で苦心惨憺したり、成果を勝ち取ったりした貴重な経験が、披露されている。

藪中氏は中朝関係について、「北朝鮮は相当の規模で中国からエネルギーや食糧支援を受けている。また条約上、北朝鮮が他国から攻められた場合に、中国は北朝鮮を守ることを約束している。常識的に考えれば、北朝鮮は中国に頭が上がらず、中国は北朝鮮に大きな影響力を持っているはずである。しかし、両国の関係はそれほど単純なものではない。おそらく北朝鮮は、現状、つまり朝鮮半島が南北に分断されていることが中国の国益にかなう、と見切っているのであろう。北朝鮮が崩壊すれば、中国国内へ難民があふれ出てくるかもしれない。朝鮮半島が統一されれば、中国の国境線までアメリカの影響力が押し寄せてくるのではないか、そうした心配が中国にはある。北朝鮮はその辺りを見切っているからこそ、中国をじらし、怒らせても平気でいられるのだ」と書いている。この見解は、きわめて常識的なものである。

藪中氏は、「近年、中国は国防力の増強と最新鋭化を猛烈な勢いで進めている。陸、海、空軍のすべてにわたる軍備の新鋭化で、潜水艦を含めた海軍の充実ぶりにはとりわけ目を引くものがある。空母の建設も話題に上っており、米軍にも警戒感が高まっている。その活動は南シナ海において目立って活発になっていて、海底資源が見込まれる南沙諸島での専横ぶりは、近隣諸国に相当の圧力になっているようだ」と、これも常識の範囲内で書いている。

そして、「ASEAN諸国にとって、中国とは経済面を中心に協力関係を進めざるをえない。だが、あまりに中国の影響力が巨大になるのは不安だから、もう一つのカウンターバランスが欲しい。ところが日本が中国のカウンターバランスになれるかというと、かなり心もとない。今世紀中、日本と中国の国力はますます中国優位に推移するだろう。それでも日米同盟が確固としたものであれば、中国とのバランスにはなりうるはずであるから、日米同盟が引き続き強固に維持されることが望ましいのだが……」と、ASEANリーダーたちの心中を推測している。

さらに藪中氏は、「今後の日本の成長戦略、というより、生き残り戦略として、どれだけ世界標準作りで主導権を取れるかがカギを握る。東アジア共同体が盛んに議論されているが、東アジアで日本が主導権をとり、韓国、中国と協力し、さらにシンガポールなどASEAN諸国を巻き込んでアジア標準を作るというのが一つの道ではないかと思う。成長するアジア市場、そこでの標準化は事実上の世界標準につながる可能性がある。日本はそこで、いわゆる創業者利益を最大化するような取り組みが必要だろう」と書いている。私も及ばずながら、アジア諸国に進出している日本の縫製業者を結集して、近日中に新たな組織を作りあげる予定である。企業相互間で各国の情報を共有し、日本中小企業の再生を目指し、日本のリーダーシップのもとで、世界標準につながるようなものを生み出したいと考えている。

4.「2013年、中国で軍事クーデターが起こる」  楊中美著  ビジネス社  2010年11月5日
帯の言葉 : 「習近平時代は、一触即発!  中国頼みの日本経済にも悪影響必至」

この本は、題名はセンセーショナルで勇ましいが、内容は新聞の3面記事以上のものではない。軍事クーデターの生起についての分析は、わずかに最終章で取り上げられているだけで、その他の章は、江沢民・胡錦濤などの現中国首脳の来歴や、習近平・李克強などの次期首脳の経歴を書いているだけである。しかもそれらの分析も、すでに語り尽くされたものがほとんどで、新説でなおかつ真相に迫ったものはない。

「なぜ2013年に、中国でクーデターが起きるのか、それがどのような形で起きるのか」などについての、科学的な分析もない。漠然と、キルギス型・タイ型の二つのシナリオが提示されているだけである。

5.「中国最大の敵 日本を攻撃せよ」  戴旭著  山岡雅貴訳  徳間書店  2010年12月31日
帯の言葉 : 「中国軍の現役将校による衝撃文書! まもなく中国は日本に戦争を仕掛ける!」

訳者はまえがきで、「本書の原書タイトルは“C型包囲”という。C型包囲(網)とは、米国が主導する、日本や東南アジア、インド、その他の周辺国による中国包囲網のことを指している。そして著者は、10〜20年以内に中国は必ず戦争に突入すると述べる一方、米国との全面戦争ではなく、このC型包囲(網)を敷く国々との間で起きると予言している」と、書いている。つまり本書で戴旭氏は、「日本を攻撃せよ」と日本を特定しているわけではなく、また10〜20年後の戦争を想定しており、「まもなく中国は日本に戦争を仕掛ける」とは、どこにも書いてはいない。本書の題名や副題は、あまりにも内容とかけ離れている。訳者や編集者はこのようなタイトルを掲げることに、良心の痛みを感じないのであろうか。

戴旭氏はまず第1章で、「事実はじつに明白だ。アメリカは中国に対して日本とインドを動かし東西戦略で挟み撃ちしようとしているのだ。オーストラリアとベトナムもそれに迎合させている。日本とインドは“門”で、ベトナムなどの国家は“閂(かんぬき)”だ。そして、アメリカはその門を閉める立場にある。アメリカは、太平洋からインド洋に至る3万キロにわたる海洋の門を、中国に向かって軽々と閉めようとしている」と、アメリカの戦略を概括している。これを読めばわかるように、戴旭氏は日本をアメリカの門か門番ぐらいにしか見ておらず、同氏の考えている主敵はアメリカである。

また戴旭氏は本書でなんども、「中国は世界の覇権を狙ってはいない。アジアの覇権も狙っていない」と言い、同時に「自国の領域が平穏なことを望むだけである。中国は他人の土地や海など寸歩たりともいらない。だが主権は決して譲らない」と書いている。さらに中国は超大国などではないと言い、「現在、中国が経済成長をしていると言っても、貿易黒字の85%以上は外国企業が中国を拠点にして生産した製品を逆輸出しているに過ぎない。中国が生産している製品の大半は特許費を払っており、加えて、中国が汗水垂らして稼いだ金はアメリカの有毒な債券の購入に当てられ、しかも債券価格はまたもや大幅に下落する。アメリカはスペース・シャトル、ボーイングの旅客機と航空母艦を持ち、日本は自動車、電気機器、コンピューター産業を持ち、ロシアは巨大なエネルギー産業を持っている。では、中国には何があるのだろうか。中国の支柱産業は不動産、紡績、酒・タバコである。8億本のズボンを生産してようやく1機の旅客機に交換している現状である。西側の諸国は何を根拠に中国が急速に“世界の超大国になる”などと決めつけるのか。私には皆目見当がつかない」と、中国の現状を正しくつかんでいる。さらに、「現在の中国は巨大に見えるが、ただの肥満体で力はない」と言い切っている。

その現状認識に立った上で戴旭氏は、中国人民に次のような檄を飛ばしている。「中国の前に乗り越えられない難関もない。最大の危険は見えない危険だ。中国の多くの学者や官僚は、表面的な美辞麗句やGDPだけを見ており、権力と地位と女性に目は釘付けだ。まるで目先がきかない草食動物のようである。友よ、眠るな。中国は、ただ低俗に安逸を貪り肉体の享楽にふけってはいけない。また財産のためにすべてのものを失ってはいけない」。

さらに戴旭氏は、「中国は戦争による発展を選ぶことはできず、残るのは平和的発展のみだ」と述べ、尖閣諸島問題の解決法として、次のような提言をしている。「双方の終わりなきいがみ合いを避けるために、私は一つの提案をしたいと思う。双方は現状を維持したままで、両国関係と世界平和という大局から出発し、東シナ海を“友好の海、協力の海、和平の海”にするとの立場に基づいて、東アジアの近代史を振り返り、東シナ海だけを見るのではなく、それと密接な関係にある釣魚島問題、琉球問題も見てみようではないか。双方はともに検討し、国際学術会との交流を進めるのもいいだろう。開かれた幅広い視野での歴史学術理論の論争を通して、現実に起こっている紛争の真相を究明し、それによって双方の外交と政治的領域への指南を提供してもらおう」。