小島正憲の凝視中国

図們・羅津などの近況


図們・羅津などの近況
25.JAN.11
     

1.図們

@開店休業の「自由市場」

・マスコミ情報 : 昨年10月20日付けの朝日新聞は、中朝国境の吉林省図們市に「自由市場」ができ、「北朝鮮で仕入れ、免税売買」、「経済交流、より拡大」との記事をデカデカと掲げた。

・実情 : しかしながらこの「自由市場(正式名称は中朝辺民互市貿易市場)は、その後3か月間、一度も開かれたことがなく、まさに開店休業状態となっており、「経済交流はまったくない」状況である。私はここに1/21に訪れたが、まったくの無人であり、ゴミさえもなく、市場が開かれた様子はまったく感じられなかった。

      
           開店休業状態の自由市場前で

政府関係者に聞いてみたが、開店休業の理由も今後の展開状況も、明確な返答を得ることはできなかった。

A幻の「北朝鮮工業園」

・マスコミ情報 : 昨年10月18日付けの朝日新聞に、「北朝鮮労働者受け入れ 中朝、国境2都市で」という記事が載った。その2都市は遼寧省の丹東市、吉林省図們市。ことに図們市では、「北朝鮮工業園」を作り、プラスティック加工工場などで100人ほどの北朝鮮労働者を合法的に雇用する方針で、10月中にも実行に移す。北朝鮮労働者の逃亡を防ぐために北朝鮮側の宿舎と中国側の工業園をバスで送迎することを検討しているという。

・実情 : たしかに私は、丹東市ではすでに5年ほど前から、北朝鮮労働者が中国側に越境し、非合法で働いていることを確認していたが、図們市に北朝鮮労働者が来て、しかも「北朝鮮工業園」で合法的に働くという計画が進行中であるということは、初耳だったので図們市の政府関係者に聞いてみた。

とくにこの「北朝鮮工業園」の場所を聞き出したかった。ところが政府関係者は、この構想は話だけで、現在は立ち消えになっているということで、詳細はわからなかった。あとは朝日新聞の記者の追跡調査を期待するのみである。

2.羅津

・マスコミ情報 : 最近、韓国発信で、羅津関連のニュースが多い。

韓国聯合ニュース : 羅先市の幹部が大幅に入れ替わった。金正雲氏の経済実績作りに利用する目的。
韓国聯合ニュース : 中国と北朝鮮が、2011年度から5カ年計画で、羅先経済特区の合弁開発に合意。北朝鮮が土地と労働力を提供、中国側は35億ドルの開発資金を出すことが決定。
韓国中央日報 : 中国の国有企業「商地冠群投資有限公司」が、羅先経済特区のインフラ整備のため、20億ドルの投資を決定。
韓国朝鮮日報(日本経済新聞は1/16付け) : 中国が羅津港を利用し、日本海に進出する動きを本格化し始めた。中国人民解放軍が同市に、中国が投資した港湾設備の警備や在留中国人の保護を目的に進駐した。日経新聞は「北朝鮮特区に軍駐留か」という見出しをつけ、「北東アジア安保に影響も」と付け加えている。

・実情 :琿春市政府関係者によると、羅先市の平壌から派遣された幹部で一新されたことは事実であり、昨年半ばまで、協議相手であった羅津の地元幹部は、最近ほとんど顔を見せなくなったという。また平壌から派遣された幹部は、中国との投資項目を一刻も早く実現させ、実績をみせようとあせっているようであるという。

なお、昨年1年間の羅津港への外国船入港は、わずか2隻であり、その面でも中国頼みとなっており、それに応じて琿春市は石炭を12万屯運び、羅津港積み出しで上海に出荷した。今後の港の稼働は商業ベースの問題であり、荷物が多ければ本格的な稼働が始まるだろうという。

琿春市政府関係者の話 : 「中国政府の北朝鮮政府との交流は、@政府指導、A企業主体、B市場原理、C互恵互利の4原則で進めており、慎重に進めている。羅先への投資項目としては、港の改造、道路の改造、高速鉄道の敷設、橋の建設、電力の保障、上下水道の整備などである。中でも道路の整備を最優先している。羅津への軍隊の進駐に関しては、機密事項であるため、一般には不明である。ただし先日、羅津から帰ってきた関係者は、軍人の姿は見なかったと言っている。可能性としては否定できないが、政治が緊張状態にあるときには情報が錯綜するので、情報の発信元などをしっかり確認し、現場状況を検証するべきである」

琿春市側の動きでは、昨年3〜6月に、図們江にかかる圏河税関の橋を全額中国側の負担(360万元)で補修した。

       
           補修後の橋 対岸が北朝鮮                  高速道路、琿春市の終点

長春から吉林、敦化、延吉、図們を経由して琿春まで、高速道路が開通した。ただし圏河税関の約10km手前で終了しており、この高速道路が北朝鮮の羅津まで延長されるのは、まだまだ先のことであると思われる。

※つまり羅津に関する韓国情報は、中国側の動きを誇大に報道しているようである。大きな動きがあるような情報だが、中国側ではそれほどでもないというところだ。

3.琿春市はロシア人で満杯。

一昨年ごろから、琿春市にはウラジオストックあたりから、ロシア人がたくさん入境するようになった。もちろん彼らはロシアの富裕層ではなく中間層で、琿春市にある長嶺子税関を年間6万人が往来する。もともとその目的は、ショッピングであったが、最近では観光や歯医者や整形、エステなどとなってきており、ロシア人向けのホテルやカラオケ、サウナなどが林立するようになってきた。今では、琿春の街中には漢語・朝鮮語・ロシア語が併記された看板が氾濫している。

    

ロシアの中年女性も多く、その巨体に圧倒されることも多い。琿春市は漢族・満州族・朝鮮族・ロシア人・韓国人・日本人ときわめて国際色豊かな街になっている。

4.ザルビノ港の現況。

現時点では中国政府の投資は、北朝鮮の羅津港よりも、ロシアのザルビノ港への方が具体的であり、活発である。琿春市政府関係者の話によれば、「中国資本によって、ザルビノ港の埠頭の修理はほぼ終了、ガントリークレーンもすでに取り付け準備が完了している。またコンテナヤードも拡大整備中。日本海横断航路の船舶もこの施設を利用可能である」という。ザルビノ港は羅津港と違って、現況を確認することは難しくないため、私も足を運び3月中には上記を視認する予定。