読後雑感 : 09年11月発行本−その2 ・ ビジネス3誌「中国特集」比較
読後雑感 : 09年11月発行本 − その2 |
28.DEC.09 |
今回取り上げた書物 1.「強欲社会主義」 2.「チャイナ・プロジェクト」 3.「中国ビジネス成功への道」 4.「なぜ、日本人は日本をおとしめ中国に媚びるのか」 1.「強欲社会主義」 副題(中国・全球化の功罪) 遊川和郎著 小学館101新書 2009年12月06日 この本は12月の発行だが、たいへん面白く参考になったので、他の本の雑感を後回しにして、11月発行分として紹介することにした。ぜひみなさんに、正月休み中に読んでもらいたいと思う。 12月10日ごろ私の手元に、読者の方からメールが届いた。そこにはこの本をぜひ読むようにとのコメントが書き込まれていた。そのときまだ私の机の上には、雑感を書く予定の中国関連本が10冊ほど、未読のまま積まれていた。それでも私はこのタイトルに惹かれて、ひとまず冒頭の部分だけ目を通してみようと思いページをめくってみた。それがその面白さについ吸い込まれて最後まで一気に読み上げてしまう結果となった。 遊川氏はまず、日本にいる中国人の数から書き始め、全国的に見れば200人に1人、東京だけに限れば100人に1人が中国人であり、これがどんどん増える傾向にあると説く。私はこれを読んでいて、これに今後急増するであろう中国人観光客を加えれば、その人数は無視できないものになると思った。この書き出しは好むと好まざるとにかかわらず、日本人は日本国内でも中国人と正対しなければならないことを教えている。 遊川氏は、「2000年過ぎたあたりまで、中国が世界経済に与えた影響はデフレ輸出である。中国に進出した外資が中国の低廉な労働力を最大限に活用して、先進国では考えられない低価格での供給を可能にした」と書き、その後2002年ごろから、中国の自動車市場などの内需が急激に盛り上がり、「中国特需が資源インフレを招いた」と続けている。 つまり「最大の買い手である中国の動向次第で、あらゆる価格は容易に変動する。価格の決定権は中国にゆだねられているのである」と主張し、インフレへの転化を予測している。 私も遊川氏の言うように、「世界の1/5の中国人が豊かになる味を覚えたことが地球の諸々の需給関係に影響を及ぼす」ことを憂慮し、ついに「誰が中国を養うのか」が間近に迫ってきたと考えている。 しかし現実の世界はデフレ圧力に苦しんでいる。それはときならぬ金融危機の影響であり、私はいずれインフレに反転すると考えている。 細かいことだが、遊川氏の岐阜の繊維についての記述は誤っている。彼は「1990年代中盤、まず中国進出の選択を迫られたのは地方の地場産業だった。岐阜の繊維、…(中略)手探りで中国進出を始めた」と書いているが、 時期が5年ほど間違っている。我々の進出は1988〜90年で、91年〜95年にかけて大儲けしていたからである。90年代中盤に遅れて進出してきた企業は大儲けした企業は少なく、中には撤退の憂き目に会っている企業もある。このズレは中国経済の発展を分析する上では、決定的だがここではそれを詳述しない。 遊川氏は、2003年ごろから中国企業が海外投資を始め、それに伴って中国人が世界に溢れ出るようになったと言う。ことにアフリカへの進出が顕著で、「現地では衣料品や玩具、家電など安価な中国製品の流入により地元企業は大きな打撃を受けている」、「建設プロジェクトでも中国からの労働力を連れてきて現場の雇用創出にはつながっていない」と書き、この現象をエコノミックアニマルの再来と言っている。しかもこれらの中国人が現地で定住をしはじめ、その中国人の間に「アフリカン・ドリーム」さえ生まれていると指摘している。 当然のことながら、これらの行動は現地住民との間で摩擦を生じ、アフリカ以外でも、パプア・ニューギニアでは現地住民の中国人に対する暴動さえ起きたという。極東ロシアでも中国人の浸透が目立っており、ロシア政府も対策を決めかねている。私は寡聞にしてパプアの暴動のニュースを知らなかった。近いうちにぜひ調査に行きたいと思っている。 中国人のなりふり構わぬ海外進出に対して、世界から多くの批判が湧き起こってくるようになった。そこで中国政府は世界各国に「孔子学院」を設置し、思想的進出でそれをかわそうとしていると遊川氏は言う。すでに日本でも多くの大学にそれが開設されている。私は中国政府の次の一手は、道教の普及ではないかと考えている。この点についても機会を見て、各位に小論を発信したいと考えている。 第3章で遊川氏は、「中国スタンダードとは何なのか? 〜強欲の正体」という節題を設け、中国人の現在の心理状況と行動パターンを分析している。第4章では、中国のマスコミの現状と、ネットの急速な発展が言論統制を崩しつつあるという現実を書いている。 第5章では遊川氏の独特の見解が示されている。ここで彼は、「低廉な民主主義のコスト」と題して、「共産党の『一党独裁』というのは聞こえの悪い政治体制だが、共産党が意思決定して民がその指導に従う仕組みである。つまり上意下達のシステムの中で、たいていのことは共産党のコントロール可能な範囲内にある。これは共産党の横暴がなんでも通るというよりも、国民や各方面のコンセンサスを得るのにかかる労力が少なくて済むということにほかならない」、「共産党は体制維持のためには、あらゆるパワー(権力)と、リソース(資源)を総動員することが可能である。その最足るものが人材だ」と書き、中国政府首脳のブレーンには優秀な人材が集まっており、それが有効に機能していると述べている。 とかく一党独裁の否定面が強調される傾向の中、私は、この見解は貴重であると思う。もちろん彼は一党独裁のマイナス面やそのコストが上昇しつつあることにも言及している。 終章で遊川氏は、「日本は中国とどう向き合うか」と題し、「40年間慣れ親しんだ『世界第2の経済大国』という肩書きがなくなったとき、日本人は何を自分のよりどころとして国際社会の一員と位置づけるのか」と、まず日本人自身に問いかけている。 私ごとであるが、私も昨年、25年ほど続けてきた社長をやめた。そこでとまどったのが名刺に次の肩書きをどう書くかであった。ときどき他人の名刺の中に、元某会社云々などという肩書きをみつけ、あれだけは見苦しいからやめようと思っていたので、元小島衣料社長や小島衣料会長という肩書きは使用したくなかった。しかし過去の栄光と決別し、自分で次の居場所を作り、その肩書きで勝負をするにはかなりの努力が必要であり、簡単ではなかった。私は、現在も日夜そのために奮闘している次第である。 日本は「日中逆転」の事実をはっきりと認め、「元世界第2位の経済大国」という肩書きを使わず、新しい生き方をするべきである。その点で遊川氏は、「日本人は、『ナンバー2でなくてもよい。特別なオンリーワンなのだから』と胸を張れる国を作っていかねばならない」と書いている。私も同感である。我々日本人は再び「坂の上の雲」を目指して、刻苦奮闘すべき時代を目の前にしているのである。 最後に遊川氏は、「2015年から2020年にかけて中国社会はそれまでとは大きく変化する可能性が高い。そこが中国に何らかの質的な変化が起きる臨界点であるように予想できる(予想の詳細は別の機会に譲る)」という文言を書いている。彼の予想を早く読みたいものである。 2.「チャイナ・プロジェクト」 鈴木尚人著 講談社刊 2009年11月25日発行
副題 : 「48社の挑戦と成功の秘密」 本書は、中国進出企業の成功体験集である。鈴木氏は約6年間で、60社の現地法人の取材を行ったという。この本はその集大成である。 取材対象は大企業(上場)から中小企業(非上場)までに及んでおり、業種も多岐に渡っている。中には日本でも著名な大企業であり、成功して当然という会社もあるが、日本では無名でも中国で花を開かせたという企業もある。反面、中国で苦戦中のこの企業をわざわざ取り上げなくてもと、考えさせられる企業もある。しかも中国現地の建物の外面はきわめて立派だが、借金が極めて多く、日中双方で悪評が立っている企業も文中に取り上げられている。残念ながら鈴木氏には、日中双方の会社の財務諸表を厳正に見た上で、さらに業界での風評などについてもしっかり検討し、その上で記事を書く余裕がなかったものと思われる。 鈴木氏には、せっかく多数の企業を取材したのだから、これらの企業の成功体験から、「中国進出:成功への方程式」を導き出して欲しかった。これだけの材料が揃っているのだからもったいないと思い、代わりに私がざっとその傾向をまとめてみたところ、下記のようになった。 @進出時期 : 1990年以前=4社
0〜94=14社 95〜99=10社 2000〜04=13社 05年以降=7社 A事業種類 : 生産工場=30社
小売=9社 レストラン=2社 サービス=4社 物流=2社 建設=1社 B企業規模(日本側企業のみ推定) : 上場会社=15社、非上場会社=33社 ※中国側企業は推定できず C進出形態(推定) : 独資=28社、合弁・合作=20社 D進出場所 : 上海=19社
蘇州=7社 天津=4社 北京=3社 大連=2社 杭州=2社 昆山=2社 常熟=2社 以下各1社=広州、東莞、深セン、仏山、無錫、成都、長沙、 E幹部の現地化度合い : 分析できず F投下資本・売上高・事業規模などの比較 : 分析できず G累積利益高(日本側会社+中国側公司)/操業年数 : 分析できず H中国政府の優遇政策の利用度合い : 分析できず 残念ながら私も、これらのデータから、「成功への方程式」を導き出すことはできなかった。したがって読者がこの本を読んで、そこから「成功への方程式」を見出そうする努力は無駄だと思う。 私は中国進出企業の大成功の真の原因を、多くの日本人経営者が鈴木氏にはタネを明かさなかったし、鈴木氏もそれを追求できなかったのではないかと思う。あるいは真の原因がわかっていても、このようなレポートには書けなかったのかもしれない。 私は、中国進出企業がチャイニーズ・ドリームを成し遂げた大きな理由の一つは、中国側の「2免3減政策」であり、日本側のみなし外国税額控除であると考えている。これらの税制によって、日本企業は中国で巨額の利益をあげ、それを日本に持ち帰っても、日中両国で合法的に税金をほとんど収めなくても済んだのである。このことを誰も鈴木氏には話していないものと思われる。もし鈴木氏が私のところに取材に来ていたのならば、私は腹蔵なくそのことを教えていただろう。 さらに儲けの源泉を付け加えるとするならば、1990年から1994年の間、円高(約2倍)と人民元安(約2倍)が同時進行し、そのダブル効果(約4倍)で、労せずして巨額の利益が懐に転がり込んだことを挙げる。 文中にはこの時期に進出していた企業が18社もあるのに、登場人物の誰もがこのことに言及していないのは極めて不思議なことである。 3.「中国ビジネス成功への道」 遠藤滋著 PHP研究所刊 2009年11月30日
副題 「商社マンが明かす『中華世界』の真実」 この本は、日本を代表する商社に勤め、中国と米国を股にかけて大活躍したビジネスマンの回想録である。
本題の「中国ビジネス成功への道」は第7章(P.202〜215)に書かれている。 遠藤氏は、入社11年目の1969年に台湾勤務を命じられ、それを振り出しに海外勤務は23年に及んだ。
そのうち米国に3回で計13年、中国語圏は台湾に3年、北京に4年、香港に3年の計10年を過ごしたという。 この体験をベースにして、遠藤氏は日本人と中国人、米国人を対比し、本文中でそれらの特徴をうまく記している。 その点ではたいへん参考になる1冊である。 また遠藤氏は自身の苦心談を随所に書き込んでいる。
たとえば台湾時代に接待のための酒の飲み過ぎで健康を害した経験から、酒の上手な飲み方を工夫しそれを乗り越えたという。現在の中国では、このような酒宴での接待はかなり少なくなったが、それでも中国人の酒豪?の前で、日本人が醜態を曝しているのを見ることが多い。遠藤氏はこの本の中でその呑み方を披瀝しているので、酒で苦労している人はぜひ参考にしてみて欲しい。 なお本文中には、「芥川龍之介が、大正10年、上海から始まって4か月間中国を遍歴し、『支那遊記』を書いた」と記述してあった。私はこのことをまったく知らなかった。さっそく読んで見ようと思う。 またあるとき、気功の達人に出会い、その場で超能力現象を見せてもらったという。遠藤氏はその光景を具体的に描きながら、いまだにその現象を解明できないでいると書いている。私も一度見てみたいものである。 遠藤氏は1989年5月、北京駐在時に、あの天安門事件に遭遇した。文中にはそのときの具体的な様子が記述してあるが、私が注目したのは、あの事件のさなかでも欧米企業の多くが撤退せず、かなりの事業を展開し続けていたというくだりである。そして「わが国はこのような国際批判を真に受けて、しかも一緒に行動をとる。天安門事件を契機に、日本が経済勢力を強めることを阻止するために国際批判をしたと勘繰りたくなる。官民とも、もっとしたたかに判断し、したたかに行動したいものである」と結んでいる。 第7章で遠藤氏は、「中国ビジネス成功への道」の一つの答えは、「華人企業の経営の仕方を勉強することにある」と述べている。
そして華人経営の特徴は、「第1に、一族中心の企業の所有と統治である。しかも権力は一人に集中する。重要事項はトップが詳細部分まで把握する」、「第2に、事業を得意分野に集中すること」、「第3に、頼れるのは自分だけであると考え、自分のやりたいようにできないことはやらない。つまり経営権を握れない事業はやらない」、「第4に、人間関係を大事にする。商売も信用のある相手以外とはしない」と続けている。 また、「事業はタイミングが早すぎてもだめである。早すぎると息切れしてしまい、タイミングが来たとき動けない。華僑企業は一般に進出もあるいは転進も実にタイミングよく行う」と書き加えている。 私はいつも事業のタイミングが早すぎて、実際に波が来るまで待てずに撤退してきたことが多いので、このことは身に沁みてよくわかる。 遠藤氏は中国人の特徴、米国人の特徴、そして中国人と米国人の共通点などを、具体的にかつ的を射た表現で書いている。この点はぜひ本文を読んでもらいたいと思う。 最後に遠藤氏は、「日本人は辛抱強く、粘り強く、集中力がある。中国人は前に向かって良くなろうとする向上心が非常に強い。お互いに学びあうところが多い。お互いに、中国の『本当』、日本の『本当』を知るべきだ。真の交流を深め、手を取り合うことによって、アジアから世界に大きな発信が必ずできると思っている」と結んでいる。 4.「なぜ、日本人は日本をおとしめ中国に媚びるのか」 石平著 WAC刊 2009年11月24日 この本からは、石平氏の強い焦りが読み取れる。
従来までの石平氏ならば、保守論壇の論客として政府側に立って発言していれば、それで飯が食えたからである。ところが今夏から、自民党が下野し民主党が政権を担当することになったので、その生き方が通用しなくなり、飯の食い上げになる可能性が出てきたからである。民主党が圧倒的勝利をおさめたということは、たとえ一時的にせよ多くの日本国民が民主党を支持したということである。石平氏が日本国民を自認するのならば、その事実をはっきり自覚し、この時点でその立ち位置を変えるべきであった。しかしながら石平氏はこの本では、日本国民の付託を受けた民主党を徹底的に叩き、多くの日本国民を敵に回してしまっている。 石平氏は元中国人でありながら、多くの点で中国の現状を誤認している。
たとえばまえがきで、「チベット問題やウィグル問題はいうまでもなく、今の中国にとってもっとも痛い問題である」と書いているが、それは大きな誤解である。これらの問題は中国政府にとって、「もっとも痛い」問題ではない。それが証拠に、これらの問題が生起したのちも、従来の政策に大きな変更はないではないか。 逆に、昨年ある事件が起きてから、中国政府は慌てふためいて国家の根幹にかかわる政策を180度転換させた。このような事件こそが、「中国にとってもっとも痛い問題」なのである。 私はここで、あえてその事件の正体を明かさない。ぜひ中国通?の石平氏に考えてもらいたいからである。 文中で石平氏は、日本は大国であると述べている。これを読むとやはり石平氏はにわか日本人だと思ってしまう。 古来、日本は小国であり、長い間中国に朝貢し続けてきた国なのである。国土も狭いし資源はなく、まさに小国なのである。 私は現在日本人に必要とされているのは、その小国意識であると考えている。
石平氏は民主党や外務官僚を「媚中外交」として批判しているが、媚びることこそが小国日本の生き延びる道であると考える。それを捨て、日本が大国であるかのような錯覚をしたとき、戦前の松岡洋右のような人物が出てきて、国際的に孤立を招き、大きく国益を損なう結果を招いてしまうからである。媚びるという態度はいかにも男らしくなく外面が悪いが、それが小国として国益を守る手段として最適だと思う。なにも大国に見せかけるだけが、外交駆け引きではない。 石平氏は文中で、日本の歴代外交官の「媚中外交」を批判しており、その中でも元中国大使の橋本恕氏の「中国人と謀略を競っても絶対に勝てんぞ。真正面から自分をさらけ出してぶつかるしかない。死中に活を求めるのだ」との言を引き合いに出し、これを「知恵も謀略もすべて放棄して『自分をさらけ出す』とは、それはどう考えても外交上の戦いの完全放棄であり、戦う前の降参でしかない。あたかも、武器を捨てた上で自らが裸になって敵陣と対面するような将軍は、もはや敗北者というしかないのと同じである」と酷評している。 私は、これは橋本氏が後輩たちに向けて語った外交上の基本的な心構えであると思っているし、これも作戦のうちの一つであると考えている。 日本人は権謀術策が下手であるから、それに溺れてはいけないと諭しているのだと思う。
なにしろ中国は36計の国であり、とても謀略では日本人には勝てない人種である。その日本人の弱さを自認した上で、外交交渉を行うのが、日本人の良さであるし、強さであると私は思っている。 外交と企業経営では大きく違うと言われるかもしれないが、私は「三十六計」も勉強したし、日本の戦国武将の謀略にも通暁している。
それでもなお、中国人の前では下手な謀略を使わず、まず誠意をみせるようにし、中国の地で、勝ち抜いてきた。 石平氏は多くの政治家を名指しで「中国の僕」として蔑み、彼らのおかげで日本は大きく国益を損なったと書いている。 私は名指しされた多くの政治家のおかげで、今日の日中関係が築かれているのだと考えているが、紙幅の関係もあるので、この点についてはまた別の機会に詳述したいと思っている。 なお、文中で石平氏は「国益」という言葉を何回も使っているが、国益とはなにかをしっかり定義してから、文章を書いてもらいたい。さらに日本は「媚中外交」でどのような国益を失ったのか、例証してもらいたい。私はそれらを通算すればプラスの方が多いと思う。 なお、石平氏は日本の左翼の代表として、大江健三郎氏らをあげて批判しているが、それははなはだしい誤解である。左翼とは千差万別であり、ひとくくりになどできないからである。 また石平氏は「実は昔から、どうしても理解に苦しむひとつの疑問があった。日本の多くの左翼的知識人や文化人は、かつての文化大革命を熱狂的に支持し賛美したのだが、それはいったい何故なのかという疑問である」と書いているが、これも彼の浅薄な日本認識を露呈したものである。 あの文化大革命のとき、多くの知識人や文化人はそれに疑問を呈したし、現在では文革を熱狂的に支持した人たちの姿を論壇ではほとんど見ることできないことから判断しても、石平氏の誤解は明らかである。 石平氏は愛国心についても多くを語っているが、私はこのグローバルな時代には、下手に愛国心を持たない方が生き易いと考えている。この件についても、できるだけ早い機会に、自分の体験をまとめて論じたいと考えている。 また石平氏は憲法9条の戦争放棄についても、それを酷評しているが、私は戦後60年間、日本はこの憲法第9条のおかげで戦争に巻き込まれなかったのだと考えている。 もちろんそれは米国の「核の傘」の下にあったからだとも強弁できるが、それでもこの憲法第9条がなければ、どこかの国で日本人の若者の血が流れていただろう。 民主党政権になって、日本は米国の「核の傘」の下から、はみ出そうとしている。それに危機感を持って、憲法第9条の廃棄や核武装、再軍備の必要性などを説く人たちがいるが、今こそ世界に冠たる憲法第9条を高らかに掲げて、日本は世界平和に貢献すべきだと思っている。日本は小国であるから、軍拡競争になったら破滅する。また武器に武器で対応すれば、それは暴力の応酬で悲惨な結果しか生みだない。これが私の考えである。 最近私は、韓国の広州事件と米国のロス暴動を視察した。その両国で韓国人が武器を取って戦ったが故に、そのことが被害を拡大した実例を見てきた。韓国は徴兵制であるから、青年男子の誰もが武器の使用になれている。これが災いしたのである。 幸いにして一般の日本人は武器を使用したことがない。だから韓国に行き面白半分でそれに触れ、大惨事に巻き込まれる。このことは恥ずべきことではなくて、無意識に自らを殺し合いの現場から遠ざけているという意味で、第9条はきわめて大事なものなのである。今後とも堅持すべきものである。 もちろん「中国の傘」の下に入るべきでもない。すべての知恵を振り絞って、日本独自の生き方を模索すべきである。両大国のいずれの「核の傘」の下にも入らず、再軍備もせず、あらゆる努力を積み重ねて生き抜くことを考えるべきである。 石平氏は田母神氏を高く持ち上げているが、彼がこれまた日本人の心情をまだ深く理解していないことを露呈するものである。日本人は戦前の軍部が、多くの政治家を殺害し民主主義を潰し、戦争への道へ突き進んだということに、大きなトラウマを持っている。だから基本的に軍人は好きではない。また彼らが戦前のように政治家を殺し始めるのではないかと危惧しているのである。実際に現在でも、シビリアンコントロールとは言うものの、武器を持っているのは彼らである。だから私は、軍人は表舞台に出るべきではないと考えている。田母神氏は自衛隊の若者の士気を保つためにあの論文を書いたというが、人民に奉仕する心を教えることで士気を高揚させることを心がけるべきだと私は思う。 |
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ビジネス3誌「中国特集」比較 |
10・11月のビジネス諸誌は下記のように中国の景気についての話題を、そろって大きくとりあげた。
今回はそれらを比較しながら中国経済の今後を論じてみる。 「エコノミスト」 10/12号 特集「アジア発景気回復」 「東洋経済」 11/28号 特集「中国 アジア 新市場」 「日経ビジネス」 11/30号 特集「中国、独り勝ちの代償」 1.総論 : 「日経ビジネス」のエズラ・ボーゲル氏の小論が秀逸。 3誌を読み比べて見て、私は「日経ビジネス」のエズラ・ボーゲル氏の小論が、中国経済の核心を突いており、もっとも秀逸であると思った。いまさらながら、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を著し一世を風靡した、エズラ氏の慧眼には驚くと同時に、この論文を掲載した「日経ビジネス」の編集者にも敬意を表する。 「エコノミスト」はこの号のほぼすべて(130ページ)を、「東洋経済」は60ページを、「日経ビジネス」は17ページを、それぞれ表記の特集に用いている。 「エコノミスト」の分量は研究書なみであり、それを読みこなすにはかなりの精力が必要であった。
「東洋経済」は「エコノミスト」の約半分の量であったが、それでもたいへんであった。読んでいて私はつい、いったいこれらの週刊誌を読みこなす読者はどれほどいるのだろうかと考えてしまった。なおかつこれらの記事や小論には新規性や独創性がなく、日常的に新聞やテレビを見ていれば事足り、あえて読まなければならないものは少なかった。 「日経ビジネス」は通勤途中でビジネスマンが読むには、適当な分量であった。しかもエズラ氏、関氏、宋氏などの小論はそれぞれの立場から、中国経済に迫る独特のものであり、読む価値があると考える。 また、日本では政権が民主党に交代し、日米・日中の関係が大きく変化し始めている。この時期だからこそ、アジアにおける日本の立ち位置を明確に意識しておかねばならない。 その意味で東洋経済の「寺島論文」は時宜を得ている。 なお、私は「エコノミスト」の特集中に、阿古智子氏(早稲田大学准教授)の小論を目にして、一安心した。
半年ほど前に、私が阿古氏の「ウエッジ」掲載論文について私のメール通信で批評をしたところ、数日後、私の大先輩のところに本人から、「こんなことを書かれると、私の学者生命に関わる」とクレームの電話が入ったという。 私には直接の反論はなかったが、私はそれを聞いて内心では後悔していた。だが今回、誌上で阿古氏にお目にかかれ、それが杞憂であったことがわかり、ほっとした次第である。ただし今回の阿古氏の小論もまことに皮相な中国分析で(その詳細な検討については後述する)、それは「エコノミスト」編集者の見識を疑わせるものである。 2.各論 @ 「エコノミスト」 10/12号 特集「アジア発景気回復」 この号は、下記のような小論で、130ページのほぼすべてが埋め尽くされている。 Part1.成長のエンジン:アジア デ・カップリング 世界景気を先導するアジア経済 高橋祥夫
図解 アジア33億人市場 巨大消費パワーが目覚める 経産省通商政策局 輸出増 アジア特需がなければ日本はマイナス成長が続いた 永濱利廣
活力 海外収益源としての重要性高まるアジア 真家陽一 中国経済 資産バブルに頼らない持続的な成長への分岐点 柯隆 インド経済 ゆっくり進む巨象 潜在成長力は7〜8% 小島真 インドネシア経済 久方ぶりの「黄金の安定期」を迎える 佐藤百合 ベトナム経済 インフレは沈静化し、09年度は5%成長 福森哲也 シンガポール経済 迅速な景気対策が目覚しい回復をもたらす 六角耕治 Part2.激戦地アジアで売る 激戦 100社がひしめく中国自動車市場 上海万博後に2極化 土屋勉男
アジアで化けそうな事業 シャープ いまだに契約数が毎月800万増 3G携帯投入 横山渉 フマキラー 化ける予感4〜6月期売上高20%増 横山渉 日本企業連合 高速鉄道網と地下鉄建設ブームの中国 朱炎 パナソニック ボリュームゾーンをつかむ中国生活研究センター 大河原克行 競争 中国市場での「勝利の方程式」のカギは中国企業とのアライアンス 真家陽一 資産効果 始動する農地改革 中国農村部の消費拡大へ 関志雄
消費 2020年に中国人1000万人が日本を訪れる 沈才彬 上昇 インド市場開拓に、日本企業が打つべき戦略 酒向浩二 規制緩和 インド小売市場が外資に開放される日 酒向浩二 分析 インド投資に向かう日本企業の狙い 岩見元子 東西回廊 インドシナの4カ国で存在感を高める中国 遠藤堂太 Part3.対立と融和 現地報告 新疆ウィグル暴動の下地にある格差への暴力的な怒り 阿古智子
宗教 「対立のインド」は次第に薄れてゆく 竹中千春 戦略 「日米対中国」の対立構図を避けるアジアの安全保障 信田智人 Part4.成長のアジアを買う Q&A アジア投資入門 中国、インド、台湾、インドネシア 大山弘子
中国株 政府はバブル株高を牽制しながら安定上昇に腐心 星崎久 インド株 海外投資家の買いが相場上昇を主導 台湾株 中国との経済交流拡大への期待 海外の買い継続へ 韓国株 海外投資家の買いが輸出主力株を中心に継続 インドネシア株 景気後退を回避した数少ない資源国 ベトナム株 超大型景気対策と銀行融資急増で景気回復を買う相場に 中国株投信 資産残高は1兆円 A型株の人気が続く 篠田尚子 インド株投信 5月に純流入に転じる インフラ関連が最近のテーマ アジア投信 中国、インド投資に比べ、資金流入はいまひとつ ゴールドマン・サックス 日本株を通じてチャインドネシアの内需拡大を買う チャインドネシア関連の28社 前衛 新・新興国にワクワクドキドキな冒険投資家たち 大山弘子 Q&A アジアは世界不況をどれだけ支えられるか 櫨浩一、三尾幸吉郎 上記の目次一覧と、次に検討する「東洋経済」の目次一覧を比較して一目瞭然なのは、同じようにアジア市場の勃興を論じていながら、「エコノミスト」には東アジア共同体に言及した論文が1本しかないことである。 「東洋経済」は5本である。私はこの政治的視点を抜きにして今後のアジア経済を論じることはできないと考えている。したがってこの点では明らかに「東洋経済」に軍配が上がる。 以下、目次に沿って各論の検討を行うが、現場主義の私として自信を持って論じることができるのは、中国とミャンマーだけである。残念ながらインドネシアにはまだ足を踏み入れたことがないし、その他の国についても知識は少ない。 したがって中国とミャンマー以外の国については、発言を差し控える。ただしインドについては、私もそこで工場経営に携わったことがあり、その体験をもとにして「インドは中国に勝てない」という小論を書いたことがある。そのときの主張は基本的に現在も有効だと考えているので、それでインドに関する私の見解とさせていただく。 A.「Part1の冒頭の高橋論文には驚かされた。 「中国は前期比に換算すると年率16.4%の伸び」との小見出しで、「中国は7.9%成長とされているが、これは前期比ではなく前年同期比の数字である。中国のGDP統計は公式には前年同期比しか存在しない。これを世界各国と同じ前期比で計算すると4〜6月期の伸び率は実に年率16.4%と、1〜3月期の6.0%から急加速している」と書かれていたからである。 私はこの見解の真偽を判断する能力がないが、もしそれが正しいとすると、数字上では中国経済は超高度成長軌道に乗っていることになる。たしかに実態経済もそれに近いような気がする。この点に関して早急に他研究者の主張を聞いてみたいものである。 B.「アジア特需がなければ日本はマイナス成長が続いた」と題した永濱論文は、「09年上期には米国向け輸出が16.1%に縮小する一方で、中国向けは18.5%にまで拡大している。つまり中国はもはや最大の輸出相手国であり、中国の景気回復が日本経済に及ぼす直接的な恩恵は大きくなっている」と書いている。 また中国で家電や汽車の下郷政策で国営企業の製品の販売が伸びているが、その製品に欠かせない部品の日本からの輸出が増えているし、また鉄鋼などインフラ整備の原材料としての輸出も伸びている。これらは中国の4兆元の景気刺激政策の効果であると具体的な数字をあげて論じている。 ただし恩恵を受けた業種に偏りがあることも事実であり、他の業種に光が当たるには今後の米国の景気回復が重要であり、同時に中国を含む新興国の内需拡大がなおいっそう必要であると主張している。 また中国を中心としたアジアの内需拡大余力は大きく、日本は「これらの拡大する新興国の中間所得層に対し、新興国の好循環と低価格化を意識したビジネスモデルの構築が必要である」と結んでいる。 C.「資産バブルに頼らない持続的な成長への分岐点」と題した柯隆論文は、「投資の促進で経済成長を牽引しようとしても、その効果は長続きしない。成長の出発点は家計の消費にある。一般的に、家計の消費が拡大しない原因について、社会保障制度の未整備があげられている。この指摘は間違っていないが、13億人の中国で社会保障制度を整備するには少なくとも20年はかかるだろう。したがって、社会保障制度の整備は家計の消費を刺激する即効薬とはならない」と書いている。 私もまったく同意見であるし、それに加えて社会保障制度の整備というと聞こえはよいが、日本でさえ医療や年金などの社会保障制度が崩壊寸前なのに、ましてや中国では腐敗の温床が増えるだけという気がするからである。 柯隆氏は「ここでは、経済学の『常識』にとらわれず、消費刺激の原点に立ち戻り、家計の所得を増やす方法を考案する必要がある」と続けているが、残念ながらその具体的な提案はない。 文中で柯隆氏は「どうして中国経済は世界経済に先駆けて回復に向かっているのだろう」と問いを発し、「それはひとえに08年11月からの大胆な積極財政政策と思い切った金融緩和策の結果と言える」と答えている。 この点について柯隆氏は間違っている。中国が世界に先駆けて景気回復を遂げているのは、すでに08年7月の時点から景気刺激策に転換しているからである。 なぜ中国政府がリーマンショック以前の7月の時点で政策転換をしたのかを見ておかないと、その後の中国政府首脳の手の打ち方がわかってこない。 したがって柯隆氏は景気刺激策の結果としての資産バブルの崩壊を目前にして、「政策当局は進むも後退するも棘の道というまさに『進退両難』の状況に陥っている」との“経済学の常識”に囚われた平凡な結論に行き着いてしまっている。 さらに「出稼ぎ労働者の失業と大学・高校生の就職難の問題は日々深刻化している」と現実離れしたことを書いている。 今、実際に中国の現場では空前の「人手不足」が進行している。これらの現実を前にして、中国政府首脳はすでに出口政策どころかバブル崩壊後の次の経済浮揚策の準備も完了していると、私は考えている。 D.「100社がひしめく中国自動車市場 上海万博後に2極化」と題した土屋論文は、「主戦場は小型車」として、「現在中国は、モータリゼーションの第2ラウンドを迎えている。顧客層は、一部の高所得層から勤労者のマジョリティーを占める『中間所得層』へと広がりをみせている。また地域的には一部の沿海部の大都市を中心とした地域から内陸部への中小都市へと広がりをみせ、クルマのニーズは、高度化、多様化する。中間所得層の台頭とともに、小型車、低価格車のセグメントが拡大する」と書き、「そこでの競争は、外資系と民族系のすみわけではなく、競争関係に移行しつつある」と論じている。 その上で上海万博後の景気後退局面で過剰生産能力が顕在化し、「外資系といえども勝者と敗者が明確になり、…(略)中国で生き残ったグローバル企業は、世界競争の勝者としての地位に一歩前進することになるが、『日本ビッグ3』を中心とした日本メーカーがその地位を獲得する可能性は決して小さくない」と結んでいる。 残念ながら土屋氏のこの小論では、電気・電池自動車への言及がまったくない。おそらく中国は近い将来、乗用車の走行を電気・電池自動車に限定する特区を作って、その面で世界の最先端を行くことになるであろう。そうすると上記の土屋氏の結論はまったく覆ることになる。 E.「中国市場での『勝利の方程式』 カギは中国企業とのアライアンス」と題した真家論文は、「日本企業の中国市場開拓における課題としては@市場開拓に適合した製品の研究開発、A中国企業とのアライアンス、B人材の現地化」と書いている。この指摘はきわめて当然であるが、それよりもむしろ真家氏は、まず日本企業の中国市場進出の出遅れを指摘すべきではなかっただろうか。 私は中国がWTOに加盟する前年、「中国は世界の市場」を歌い文句にして、多くの企業に中国市場への進出を呼びかけた。ところがそのとき公的団体を含めて、この私の提案は一笑に付された。仕方がなかったので、私は孤軍奮闘、自腹を切って日本企業の中国市場進出の足場を築く努力を続けた(この間の状況については拙著「中国ありのまま仕事事情」に詳述)。しかしながら資金が枯渇し、本業に影響を与えるような情況になったので、この事業は大損で取りやめにした。 あのときに日本企業が大挙して中国市場に進出して成功の先駆例をたくさん作っていれば、「勝利の方程式」はもっと多彩なものになっていただろう。 私はどうせ中国市場では出遅れたのだから、あえてその激戦区に踏み込まず、ロシアなどの市場開拓に向かった方が得策だと考えるが、いかがなものであろうか。 F.「始動する農地改革 中国農村部の消費拡大へ」と題した関論文は、このエコノミストの中で最も優れたものである。 私もおそらく今後の中国政府首脳の切り札は、「農地改革を含む土地政策」であると考えている。中国首脳を取り巻く若手ブレーンに、マルクス経済学と近代経済学の両方を乗り越えた新しい見地から、新政策を提言してもらいたいものである。そのために特区を作って試行してみればよい。中国ではそれが可能なのだから。
残念ながら現在の私の知識では、この程度のコメントしか書けない。 G.「2020年に中国人1000万人が日本を訪れる」と題した論文で沈氏は、「より多くの中国人観光客を日本に誘致し、日本国内で日本商品を消費してもらうことは、日本の需要拡大と地域経済の活性化につながる」と書き、2020年には中国人観光客が1000万人に達するという見込みを立てている。しかしながら「それを実現するには前提条件がある。中国に対する入国ビザの規制緩和だ。…(略)もちろんビザなしならば、観光目的で訪日する中国人が失踪して不法滞在者が増える可能性は確かにある。しかし心配するだけでは問題の解決にはならない。…(略)政府が決断すれば、対応策はいくらでも打ち出せるはずだ。当然、そのための予算増額、警察を含む担当者の増員も必要である」と続けている。 ここで沈氏は、中国人ビザの解決の具体策については言及していない。私は中国人である沈氏に、警察の増員などカネがかかることではなく、具体的で安価な中国人失踪防止対策を提案してもらいたい。 私には腹案があるが、多忙なため実行に移せないでいる。なお、中国人観光客1000万人を受け入れるには、日本人側の思想的大転換が必要である。私はそれが、日本人が商売の神様をお稲荷様から関羽様に変えなければならいほどのものだと思っている。残念ながらそれほどの意識を持って次の時代に備えようとしている日本人は、中国人の沈氏も含めて少ないだろう(拙文、「稲荷神社と関帝廟」参照)。 また、沈氏から具体的な提案が出てこないといことは、沈氏がその現場に密着して考えていないからであろう。 私は以前、中国人団体観光客の中に日本人でたった独りだけで入って、「上海発バンコク6日間の旅」に行ったことがあり、その道中や行く先々で中国人団体客の行動に唖然とさせられたことがあった。その経験から考えて、中国人団体観光ツアーの中に入って、日本を訪問してみることが大事だと思っている。 私は来年の早い時期に中国人の「上海発日本旅行ツアー」に入って、日本を訪問してみたいと思っている。沈氏もぜひ日本の各所を中国人団体といっしょに回ってみれば、新しいアイディアが出てくるのではないかと思う。 H.「現地報告 新疆ウィグル暴動の下地にある格差への暴力的な怒り」 阿古智子(早稲田大学准教授) 阿古氏のこの小論の前段部分の「新疆問題が浮き彫りにする弱者の怒り」は、一般マスコミの受け売り以外のなにものでもなく、真相には程遠い記述である。現地報告と称する限りは、ウルムチ・カシュガル・韶関・天津などへ自ら足を運び、その上で実態を正しくつかみ、それを書くべきである。 次に阿古氏は、上海のセックスワーカーについて書き及んでいるが、このような実態は中国に限ったことではなく、先進各国を含めて世界全般に普遍的に存在してきた現象であり、ことさらに現地報告として取り上げなければならないような題材ではない。阿古氏はその代価の低さに注目しているようだが、すでに中国には高級セックスワーカーも多数存在しており、その一般相場も上昇しており、先進各国が歩んできたようにやがてそのような低額者は消滅していくと考えられる。 阿古氏は温州市で中小企業経営者を取材して、その窮状を報告しているが、彼らはほとんどがもぐり営業で結構儲けており、チャイニーズドリームを追い続け、最悪の経営環境の中で節約に徹し、社長が先頭に立って汗まみれで、日夜奮闘し続けているというのが実情に近い。それが証拠に、阿古氏が指摘するような窮状であるにもかかわらず、まだまだ起業する人間がきわめて多い。阿古氏が温州市でじっくり腰を落ち着け、零細企業の起業数と廃業数の実数をつかめば、彼らの実相を語ることができるであろう。 続けて阿古氏は大学卒の就職難について言及しているが、これは日本と同様、ミスマッチの結果であり、私はいつも「一人っ子のぜいたく病」であると主張している。 極端に言えば、大卒が現場で技術を覚えようとするならば、就職先は無限である。わが社の中国工場でも多くの大学に求人活動を行っているが、残念ながら、「市内から遠い、寮はいやだ、汗をかくのは嫌いだ」などと言って、応募者がないのが現状である。 かつて日本では、まず大卒も現場に入り、技術を習得し、その後会社経営を背負っていくというのが定石であった。現在の日本の若者にそれを説いても無駄だが、ましてや中国の若者には通用しない。それでも阿古氏は就職口がないと嘆く中国の若者に、真の人間の生き方を力説すべきなのではなかったのか。 最後に、阿古氏は「企業はリスク管理を強化すべき」と結んでいるが、いまさら阿古氏に言われなくても、ほとんどの企業は対策済みである。また中国人が暴力行為に出やすいのを、阿古氏は「日本では考えられないことだが、普段から抑圧されていると感じ、疑心暗鬼になっている中国の人たちがこのような行動に出るのは不思議なことではない」と解説しているが、私はそれを「たとえ暴力に訴えても、1円でも多くもぎ取ろうとする中国人気質」と理解すべきであると思っている。 さらに阿古氏は10日間の中国視察旅行を振り返って、それらは「まるでテレビのチャンネルを頻繁に替え、いくつもの画面が交互に視界に現れる時のようで、眩暈がしそうだった。同じ国に生まれても、出自が異なるだけでこれほどまでに人生の内容に差が出るのだ」と書いている。 私はミャンマーやインドで実際に工場経営に携わってきたが、それららと比較して中国の方が、よほど格差が少ないと実感している。おそらく阿古氏がインドの田舎を視察したら、眩暈どころか「卒倒する」にちがいない。 私は阿古氏に敵意があるわけではない。一流の学者である阿古氏には、このような三面記事まがいの小論で原稿料を稼ぎ売名をして欲しくないと思っているだけである。幸い、伝え聞くところによれば、阿古氏は近日中に中国関係の学術書を上梓されるという。私もぜひそれを勉強させていただきたいと思っている。 I.「『日米対中国』の対立構図を避けるアジアの安全保障」と題した信田論文は、鳩山首相の「VOICE論文」を引き合いに出して、東アジア共同体の可能性について論じ、「東アジアで集団安全保障体制は難しい」との結論を出している。かわりに「東アジア域内で『日米』対中国という対立の構図にならないよう、日米両国はさまざまな動きを展開している。まず米国を中心としたハブ・アンド・スポーク体制に加えて、それを補う『パッチワーク』のような東アジア地域のメンバー国によるフォーラムを設けている」と、パッチワーク型安保体制ができあがりつつあると説いている。 また、「中国にとっての台湾の統一は、過去の帝国主義による支配から脱却するための最終目標であり、国家の悲願である。また米国が制海権を握る現状に不満を抱いており、現状打破を目指す中国の動きは、これからも日米同盟にとって地域の不安定要因であり続けるだろう」と、中国の覇権主義への警戒心も書き留めている。 信田氏は文中で、「東アジアにおいては、各企業が国境を越えた分業体制をとったために、域内貿易が拡大した。東アジアの経済関係は地域全体のシステムというよりも、各産業、各企業のネットワークの蓄積によって構築されているのである。経済統合の制度化の動きは、各企業の経済活動の実態を後追いしているにすぎない」と書いているが、私はここに重要なヒントが隠されていると考える。 つまり企業は、すでに国家の枠を超えて活動を展開しているわけだから、その企業間・都市間・個人関係などのネットワークを組織化し、非公式な国家間交渉が可能なレベルまで引き上げればよいと、私は考える。私はそれをパッチワークなどとは呼ばず、むしろ今後の世界の進路を決定していく「多層的合従策」と表現した方がよいと思う。 A 「東洋経済」 11/28号 特集「中国 アジア 新市場」 副題「大検証! 新興中間層の消費力」 本号では、下記のテーマで、ほぼ60ページの特集を組んでいる。 図解 爆食を後押しする中国の景気実態の急改善 爆食!中国消費 爆食!アジアの消費
Q&A そこが知りたい中国経済の不思議 Part1 爆食!中国の消費力 現地ルポ 滋賀県のスーパーが、湖南省でトップ百貨店に
現地ルポ 「家電下郷」売上高トップの河南省を徹底分析 Part2 中国で売る日本企業 現地ルポ ダイキン工業 エアコン世界一を狙う 「絶好のチャンス」と確信し格力との提携に踏み切った 井上礼之
パナソニック 日産自動車 セブン&アイ 資生堂 クボタ コベルコ建機 北京で奮闘する30代日本人起業家 新米駐在員に贈る3か条 中国関連の日本企業に、地元投資家も熱い視線 Part3 アジア攻略最前線 ASEANの広域FTAで、中韓に先越される日本
ユニクロ キリンビール・アサヒビール KUMON パナソニック ヤクルト・味の素 中国の高齢化進行を見据え、欧米企業は「次の市場」へ 韓国企業の強さを支える、必死の市場密着型経営 Part4 アジアはどう変わる 主導権をとりたい中国、指定席を確保したい米国
日米中は太平洋国家の一員 北朝鮮問題は中国がカギ ウィリアム・ペリー 日中韓とASEANこそが共同体の基本であるべきだ 劉江永 東アジア共同体と日米同盟見直しはクルマの両輪だ 寺島実郎 アメリカから見た東アジア共同体 ・Q&Aの4では、「バブルの心配は?」と問いかけ、「ただ、銀行の新規融資の規模は7月以降、抑制傾向へと転じた。政府が融資の総量規制へ乗り出したと見られる。インフレの芽を摘みながら、いかにソフトランディングさせるか。経済・金融政策運営の力量が試されそうだ」と答えている。 私は、中国政府首脳はすでにバブル経済退治のシナリオを完成済みで、次の回復策の準備に入っていると考えている。その根拠は、中国政府首脳が先進各国のバブル経済とその崩壊過程をつぶさに研究しているし、中国自身が15年ほど前に朱鎔基の金融引き締めでバブル経済退治の成功体験を持っていると考えているからである。なお、この朱鎔基の金融引き締めについては、中国学者の間でも不思議に研究課題になっていない。ぜひとも研究成果を発表してもらいたいものである。 ・P.47には、「5人のエコノミストに聞く“2010年中国経済のシナリオ”」という欄がある。そこでは関志雄・肖敏捷・野田麻里子・三尾幸吉郎・吉川健治の5氏が来年の中国経済を占っている。 答えは信号の色で表されており、青が3.5で黄色が1.5、赤は0。 つまり中国経済が失速すると予測する人はいなかった。 ただし黄色をつけた肖敏捷氏は「雇用問題も不安定。すでに構造問題と化しており、完全雇用には8%成長では不十分」を懸念材料としてあげている。人手不足が中国の現場の一大問題になっているのに、大和総研のシニアエコノミストがこのような現状分析では、はなはだ困る。 ・Part1では、まず滋賀県の地方スーパーである平和堂が、湖南省で大成功しているとの記事が取り上げられている。たしかにその健闘振りは賞賛に値するが、平和堂が中国に進出してすでに12年ほどが過ぎていることを考えると、成都のイトーヨーカドー同様、大成功と持ち上げるほどでもないとも思う。なお、文中ではこの平和堂の財務上の数字が明確にされていないので、大儲けしているかどうかはよくわからない。 ・P.51のコラムには、TOTOの記事があり、「10年前には中国の全省に代理店網の設置を終えた」と書き込まれている。たしかに中国全土の有名ホテルやレストランには、ほとんどTOTOが進出している。とにかくトイレに行けば必ず目に飛び込んでくるからそれはよくわかる。変な話だが、日本人としてTOTOの文字を見ながら小便をするのは気持ちがよいものである。ただしときどきOTOTなどと書いてあるものをみつけ、ニセモノ発見などと思うほどである。いずれにせよここまで来るには、かなりの歳月と苦労を重ねられたものと思う。なお、総経理のエリ・アブライティ氏はウルムチ出身であるという。その名前から判断してウィグル族の成功組であろうと思われる。ウィグル族の中から、このような人物が多数輩出されることを望むものである。 ・P.52からの河南省の調査報告はなかなかおもしろい。東洋経済特約記者の田中信彦氏によるものであるが、彼は最後に「全国で300近い3級都市が今後の内陸部、農村部の需要に応えるカギを握る。3級都市には有力外資の進出はまだ少ない。チャンスはこれからだ」と書き、日本人に檄を飛ばしている。 ・Part2では、中国で売る日本企業として、ダイキン、パナソニック、日産、セブン&アイ、資生堂、クボタ、コベルコ建機、などを取り上げてその戦略・戦術について書いている。いずれも日本を代表する企業でありそれは立派なものである。 ・P.72〜74には、北京で奮闘する青年起業家が紹介されている。そこにはヘアサロン経営の朝倉禅氏、建築家の迫慶一郎氏、空間デザイナーの土屋哲朗氏、ベーグル店経営の村松里美氏の4名が登場している。この記事の最後には「中国でのビジネスは苦労も多いがチャンスも大きい。経験を積み、意欲も高い30代の起業家たちにとって、閉塞感漂う日本より魅力的な市場なのは確かだろう」と書かれている。私もこれらの日本人青年経営者の挑戦を頼もしく思う。 ・P.84〜90までには、ユニクロ・キリンビール・アサヒビール・KUMON・パナソニック・ヤクルト・味の素などのASEANやインドへの企業展開がつづられている。 日本国内でのユニクロの快進撃には目を見張らせるものがあるが、その独り勝ち状態に「ユニクロ栄えて国滅ぶ」と揶揄する向きもある。海外でもユニクロは柳井正社長のリーダーシップのもとに、ますますその勢いを加速させている。柳井社長は02年の中国進出の失敗を教訓にして、「アジア各国で圧倒的なナンバー1になる」、「20年に売上高5兆円を達成する」ことを目指している。 ・P.91では、「中国の高齢化進行を見据え、欧米企業は“次の市場”へ」という題で、「人口の多さゆえ、“大国”化はさらに進むが、経済成長が早めに鈍化するため、国民の生活水準や消費ニーズは現在の主要国よりも低いレベルのまま推移することになる」と推測し、「多くのグローバル企業が中国市場の分類を“成長主眼 低収益甘受”から“収益確保 成長継続”へと変えたのもうなずける」と書いている。これは一考に値するおもしろい見方だと思う。 ・P.92では、「韓国企業の強さを支える必死の市場密着型経営」と題して、家族ごとインドへ移住してがんばる韓国企業の強さを紹介している。たしかに韓国企業は中国を除いて、ほとんどのアジアの諸国で日本企業の進出を凌駕している。 私もタイ・ミャンマー・インド・ヨルダンなどで工場経営に携わってきたが、どこでも韓国人および韓国企業の後塵を拝してきた。韓国人は日本人よりもはるかにアグレッシブだと思っている。ただし中国だけは、日中国交回復が韓中のそれよりも数年早かったおかげで、日本人は韓国人のいない場所を確保できたのである。 ・P.93のコラム欄では、「市場経済=体制崩壊 北朝鮮の市場化など夢のまた夢」との見出しで、「ヒト、モノ、カネ、情報が動いてこそ経済は活性化する。しかしそれが90年前後の東欧諸国の崩壊を招いた歴史を北朝鮮指導部は熟知する。体制護持が至上命題の彼らには、市場化より核・ミサイルでの国際社会への恫喝しかなすべきことはないようだ」と書いている。 私はすでに中国は、北朝鮮崩壊という事態を織り込み済みで、準備万端整えているとみている。 ・Part4では、「アジアはどう変わる」と題し、まず東アジア共同体の実現度に言及し、ウィリアム・ペリー元米国国防長官と劉江永清華大学教授の主張を載せている。 また寺島実郎氏が「東アジア共同体と日米同盟見直しはクルマの両輪だ」という文章を書いている。
寺島氏はその中で、「日米同盟の再設計は必要だ。戦後の冷戦状態を前提とした日米安保という仕組みを今日まで引っ張っている。米国に過度に依存していた従来の構造から脱却し、自立の方向へ舵を切らざるをえない」と書き、「日本に求められるのは欧州で英国が果たした役割。それは欧州からの米国の孤立を防ぐとともに、大陸欧州の利益を米国につなげていくというものだ。その意味で日本もアジアから米国を孤立させないような役目を果たすのが大事。ただその役割を演じるにはアジア各国から敬愛を受ける存在でなければならない」と続けている。 これは傾聴に値する意見だと思う。 最後に、「アメリカから見た東アジア共同体構想」について、「アジア経済ブロックは米国を除外できない」と書き、その理由を、「米国はアジアをまたぐ複雑なサプライチェーンにとって、商品の最終的な行き先となっている。だから米国の輸入が縮小すると、アジア全体が痛手を被ることになる。さらに言えば、台頭しつつあるアジアの輸出の大半は、実際には、現地で事業を展開する外資の多国籍企業が取り仕切っている。中国でも輸出の2/3は外資企業が担っていると推定される」としている。したがってこの構図の中では、「米国が重要な要素であり続けることに変わりはない」ので、「米国政府は穏健な態度に出ることが得策だろう」と結論付けている。 B 「日経ビジネス」11/30号 特集「中国、独り勝ちの代償」
副題「格差市場でつかむ日本の勝機」 本号の特集では、下記のテーマと著者で、17ページを費やしている。 A.浮かび上がる課題 きしむ“底上げ”経済
歪み1 過剰設備 歪み2 人民元 歪み3 人材ミスマッチ B. ポスト胡錦濤の行方 調和か成長で2派対立 C.活路見出す企業
“矛盾”で儲ける 混沌とした物流 日本流に活路 メディパルホールディングス 伊藤忠商事 甘えを断ち切る「自前主義」 ヤクルト本社 大和ハウス工業 信用不毛に信用で応える アリペイ D.識者が語る 転換の行方
内政 一党支配こその利点がある エズラ・ボーゲル 外交 チャイメリカ時代は来ない ハリー・ハーディング 経済 雇用のための成長は終わり 関志雄 経営 中国リスクなんてない 宋文洲 A.では、政府主導の経済へ4兆元のカンフル剤投与によって、過剰設備・過剰生産が増幅し、その結果は世界へのデフレ輸出となり、世界経済への脅威となってきていると説く。人民元については、「中国政府は“2020年までに上海を国際金融センターにする”という方針を掲げ、段階的に金融自由化へと動いている。マイペースで進める“10年の計”に、世界はどこまで付き合えるか」と書き、次いで人材ミスマッチについて論じ、これらの「構造問題が解消へと動き出した時、それは世界経済にとっての大きな脅威から、市場としての好機へ変わる」と結んでいる。 B.では、中国首脳部について、一般的かつ常識的な分析を行っている。 C.では、活路を見出す企業というテーマで、5社の実例をあげているが、メディパルと伊藤忠、大和ハウスの事業は現在進行中「大儲け」したという結果ではなく、ヤクルトについても09年度でやっと黒字化する程度の話であり、アリペイにいたっては中国企業の話である。 すでに中国市場へ進出している日本中小企業の中には、大きな儲けを出している会社が多数ある。資金もブランド力も人材も豊富な大企業ではなく、それらの中小企業の地道な努力の結果を取材し、それを紹介すれば日本のビジネスマンに大きな勇気を与えることができるのではないだろうか。 D.では、4氏がそれぞれの立場から論を進めている。 エズラ・ボーゲル氏は、「政治指導部の力が強い中国では、世界中から集めた情報を基に、国の将来のために必要な政策を次々に決定し、ダイナミックに実行していきます。…全世界から様々な成功例を学び、一気に吸収していく今の共産党は決して侮れません。日本や米国ではそうはいきません。世論調査をして、その反応を見ながら慎重に政策を決めていかなければならないからです」と書いている。 このエズラ・ボーゲル氏の主張には私も同意見である。昨今の中国政府の動向を見ていると、政策決定が素早く、それが失策だったと判断したとき、その変更もまた迅速である。また先進国の経験から柔軟に学び、自信がなければ特区を作って先行実施して行く。また中国政府は社会主義ならではの中国独自の奥の手を隠し玉として、まだたくさん用意しており、今後、経済危機に即応して小出しにしてくるにちがいないと思われる。その点から考えて、中国首脳はすでに一定のバブル経済の崩壊も想定済みで、すでにその後の回復策の準備に入っていると予想される。それらが可能なのは、エズラ・ボーゲル氏が指摘するように「一党支配こその利点がある」からである。 エズラ・ボーゲル氏は、「急成長を続ける限り、様々な歪みはあまり目立ちません。しかし、国民の生活水準が上がり、賃金が高くなれば、日本がたどったように国際競争力を失っていきます。その時に今の政治体制や組織、方法論を続けられるのか。中国の政治指導者が世論の力にいよいよ抗えなくなった時、どのような行動に出るのか。その点が、最大の不安要素だと言えるでしょう」と結んでいる。
私は中国がそこに行き着くまでには、まだ10年間の余裕があると思っている。 ハリー・ハーディング氏の「チャイメリカ時代(つまりG2時代)は来ない」という主張には、私は同調できない。おそらく中国は数年後にはG1と呼ばれるようになるのではないかと考えている。 関志雄氏は「雇用のための成長は終わり」と題して、「産業構造の変化や一人っ子政策に伴う高齢化の進展も考えると、中国政府は余剰労働力の吸収を目的とした成長の呪縛から解き放たれます」と書き、これを根拠にして中国政府の政策が大きく転換してくると語っている。 中国の現場ではすでに5年前から人手不足に陥っており、まさに余剰労働力はなくなっていた。したがって私は、中国政府にとって失業問題はまったく圧力とはならないし、むしろ人手不足が企業経営を圧迫し、外資の撤退を含めてそれがやがては政府への圧力となると書き続けてきた。やっと最近になって、関志雄氏をはじめとして、そのことを理論的に整理し証明する学者が現れたわけである。 宋文洲氏は「中国リスクなんてない」と題して、「中国の絶頂期は20年続くという見方もできる」と書き、「どこの国にもリスクはあり、同時に成長の余地はある。リスクを回避しチャンスに変えるのが、経営者の仕事です。(リスクがあるからといって中国進出を)躊躇していては、事業などできるはずがない」と壮語している。単身で日本に乗り込み、事業に大成功した宋文洲氏の言だけに、これには重みがある。 |
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