小島正憲の凝視中国

ウルムチ暴動緊急短信


ウルムチ暴動緊急短信
13.JUL.09
7月5日、ウルムチでウィグル族の大規模な暴動が発生、武装警察の弾圧、続いて漢族の報復行動などが起きた。

まだ現地検証を行ってはいないが、現地の漢族知人やマスコミなどからの情報を総合し、規模としてはチベット暴動以来の大きさで、暴動レベル5以上と判定できる。

しかしながら一般のマスコミ報道も中国政府発表も、その真相には迫っていないと考える。

私は過去1年間の中国各地の暴動ウオッチから得られた暴動の一定の傾向と照らし合わせて、この事態に関する私見(仮説)を以下に述べてみたい。

なお、広東省の工場、ウルムチ、カシュガルなどの現地検証を慎重に行った上で、仮説を修正する可能性もあるので、その場合はご容赦願いたい。


1.事件の経緯


@6/25 広東省韶関市にある香港系玩具メーカー旭日国際集団の工場内で、ウィグル族従業員と漢族従業員の抗争発生。ウィグル人2名が死亡。双方で120名が負傷。武装警察400人以上が出動し鎮圧。


A6/28 広東省韶関市公安当局、抗争の発端となったデマを流した漢族元従業員を逮捕。


B6/28 新疆ウィグル自治区ウルムチ市内でウィグル族学生が広東省韶関市の事件について政府に抗議。政府は対応せず。


C7/05 夕刻、ウルムチ市内で、ウィグル族学生が再度、インターネットや携帯電話を通じて多数に呼びかけ、抗議行動を起こす。ここに学生だけでなくウィグル族の不逞のやからや、日ごろからの不平不満分子も結集。 この集団の抗議行動が、警察の威圧行動に触発されて、政府建物や漢族商店への破壊・略奪暴行に転化、拡大。漢族に負傷者が多数出る。


D7/06 未明、武装警察が出動し弾圧。ウィグル族の死傷者多数。ウィグル族の逮捕者は数百人。


E7/06 中国中央電視台、この暴動の背景には「世界ウィグル会議の扇動がある」と報道。


F7/06 広東省韶関市の旭日国際集団の蔡志明会長が、「工場のウィグル族従業員を解雇して同自治区に送り返した」という説を否定。


G7/07 漢族の報復行動が起きる。漢族とウィグル族との衝突に拡大。


H7/07 人民解放軍も出動したとの情報。


2.私見(仮説)


@広東省韶関市にある香港系玩具メーカー旭日国際集団の工場内で起こったウィグル族と漢族の抗争事件については、事件を冷静に調査し分析する必要がある。これを単純に工場内での従業員の民族間対立という構図でとらえることは、事態を見え難くしてしまう。一般に中国の工場内では、漢族同士でも出身地域派閥間の抗争が起きることは普通である。


A6/28に、ウルムチでウィグル族の学生が抗議行動を起こしたときに、政府がこれにすみやかにかつ真面目に対応していれば、今回の暴動は未然に防げたはずである。政府の少数民族対策に油断や手抜かりがあるのではないか。あるいは昨年のチベット暴動の教訓から、暴動は武力で鎮圧できるという過信があったのではないか。


B7/06のウィグル族学生の抗議行動は、学生の側でも暴発する可能性を予知できたはずであり、この点での学生指導者側の稚拙さが目立つ。当初は平穏な抗議行動であったとしても、その集団の中にインターネットや携帯電話で情報を聞きつけた不逞のやからや、ならずもの、日ごろから漢族に恨みをもっているものなどが紛れ込んでおり、それらが暴発することは当然予測できたからである。


武装警察が学生たちを制圧し始めたとき、彼らは激高し政府の建物や車両などの破壊だけにとどまらず、漢族の一般商店街を破壊し、多くの商品を略奪するなど、暴徒と化したのである。そして武装警察に血の弾圧の絶好の口実を与えてしまったわけである。


Cこの暴動に関する世界ウィグル会議の関与はないと考える。なぜならば、真にウィグル族が独立を志すならば、暴動は起こすように扇動などはしない。現在は独立の好機ではなく、勝ち目がないからである。もし私が世界ウィグル族の幹部ならば、しっかり準備し、時期を選んで蜂起する。


現在、中国経済は好調であり、内陸部の振興政策に多額の資金を投下しており、新疆ウィグル自治区もその恩恵にあずかっており、少なくともウィグル族に餓死者がでるような惨状ではない。


また中国経済が疲弊し、漢族にも餓死者が続出し、それが原因で漢族内部にウィグル族に呼応して決起し暴動をおこすような状況でもない。


このような時期に暴発しても、独立には弊害となるだけで有利になることはなにもない。


それが証拠に、この1週間、チベット族をはじめとする他の少数民族や漢族内部の不平不満分子が呼応して暴動を起こしたという情報はない。


雲南省楚雄イ族自治州姚安県で、7/09夜、マグニチュード6.0の大地震が起き、同県などで126万人が被災したという。しかしこの少数民族地域では、このドサクサにウィグル族に呼応して暴動を起こそうなどという気配はまったくない。


D私は過去1年間に渡って中国の暴動を現場でウオッチしてきた。その結果、下記4.のような傾向があることがわかった。


現代の日本人には理解しがたいことだが、中国の群衆はAやB、D、Eの結果、群集が簡単に暴徒化し、それがすぐに警察の血の弾圧につながる。


したがって、暴動を「虐げられた民衆」と「抑圧する階級+武装した国家権力」との戦いとして一面的に捉えることは誤りである。


原因は性悪な人間同士の醜い欲望のぶつかり合いであることが多い。

今回の暴動もその傾向の延長線上捉えることが正しい。

ただし規模は10倍以上であり、そこに民族間対立という要素が付け加わっているだけである。


ことさらに「虐げられたウィグル族」と「抑圧する漢族+武装した国家権力」などと民族間対立を強調して捉えると、真相も解決方法も見えてこない。


E現在、大事なことはまず双方ともに冷静となり、ただちに暴力の応酬をやめることである。


F中国政府は緻密かつ革新的な少数民族政策を実施することが緊急に必要である。

おそらく今回の暴動も、昨年のチベット暴動と同様に武力で制圧されて終わるであろう。

しかしそうなった場合、今後、ウィグル族はテロ行動に走る可能性が大きい。

それを防ぐためにも、経済支援以外の少数民族の魂の尊厳を守るような対策が必要である。


Gウィグル族は、いたずらに漢族と対立するのではなく、漢族の中の良心派や国際世論と連携して建設的な行動を取るべきである。



≪ 参考 ≫

過去1年間の暴動検証から得られた「暴動の傾向」


@.暴動レベル3以上のものは少ない。暴動レベル5以上のものは、チベット暴動だけである。


A.原因は多岐にわたり、民衆の不満が些細な理由で、どこでも、いつでも爆発する状態である。

※現状の中国では、一般人民の順法意識が低く、すぐに暴力行為に訴えることが多い。

これを中国人の国民性として考え、今後も暴動が続発すると理解するか、あるいは経済の発展と共に、中国人に順法意識が根付き、暴力行為が漸減していくと理解するか、そのどちらかは今のところ結論が出せない。


B.当事者に暴力組織関係者が含まれることが多い。


C.当事者は公安や政府の建物を標的にして襲撃している。

※一般商店などへの破壊・略奪行為は、チベット暴動以外にはない。


D.野次馬が当事者の約10〜30倍集まる。


E.野次馬が便乗暴徒化する可能性がある。

※過去の中国の歴史上では、このような野次馬の便乗暴徒化が、大動乱につながった例も少なくない。



 ≪私の暴動評価基準≫

暴動レベル0 : 抗議行動のみ 破壊なし

暴動レベル1 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以下(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ

暴動レベル2 : 破壊活動を含む抗議行動 100人以上(野次馬を除く) 破壊対象は政府関係のみ 

暴動レベル3 : 破壊活動を含む抗議行動 一般商店への略奪暴行を含む  

暴動レベル4 : 偶発的殺人を伴った破壊活動

暴動レベル5 : テロなど計画的殺人および大量破壊活動