小島正憲の凝視中国

中国 ニュース短評 : 2011年3月


中国 ニュース短評 : 2011年3月
25.MAR.11
 今回から、毎月1回ほどのペースで「ニュース短評」という新シリーズをお送りする。

 現在、中国ではめまぐるしく情勢が変わり、時々刻々と新事態が生起してくる。その真相を突き止めないうちに、次の事態が起きてくる。それがようやくわかってコメントを書くころには、すでに賞味期限が過ぎてしまっていることが多く、いわば出し遅れの証文のようになってしまう。以前、あるニュースを送信したときに、読者から「誤報を流してはいけない」とお叱りをうけた。それ以来、私はニュースについてできるだけ吟味し、現場を見た上で小論を書くことにしてきた。しかしこれほど毎日、新しい事態が起きてくると、それではとうてい追いつかないことがはっきりしてきた。そこで再び、誤報や独断が混入することを承知の上で、「ニュース短評」を書くことにした。この小論はできるだけ早く読者諸賢のもとにニュースと私のコメントをお届けすることを旨としたものであり、そのような読み方をしていただくとありがたい。

 また各種の調査で中国各地を回っていると、いろいろな面白い現象や話題性のある状況に直面する。それもこの際、いっしょに載せさせていただく。


1.今年の人手不足の怪

 私の工場では、今年の旧正月明け、ちょっとした異変が起きた。それは故郷に帰省したワーカーたちが意外に多く戻ってきたのである。昨年は約半数しか戻って来ず、たいへん慌てたが、今年は約9割が戻ってきた。しかも工場が稼働し始めてからも、入社希望者が応募してくる。工場では、昨年の経験から旧正月明けの受注をかなり少なくしており、慌てて受注を拡大しなければならないような状況となった。たしかに私の工場では労働条件をかなり改善し、ワーカーが戻ってくるように工夫はしたが、それが同業他社よりも格段に優れているわけではなかったので、この事態はまさに予想外であった。さっそく同業他社の聞き込み調査をしたところ、意外にもどこの工場でもワーカーの8〜9割が戻ってきて、驚いているという。マスコミでは連日、各地の人手不足が報道されており、どうもこの現象、縫製工場だけに限定されているようではあるが、原因はよくわからない。現在調査中である。ひとまずマスコミでの人手不足や労働環境などについての関連報道を列挙しておく。


@最低賃金、10年で4倍。深センでは5年で倍増へ。
中国政府系の経済団体・中華全国工商連合会は、このほど、今後10年で法定最低賃金を現在の4倍に引き上げるべきだとする報告書をまとめた。また深セン市政府は、同市の法定最低賃金を今後5年間で2倍に増やす方針を明らかにした。他の全国諸都市もこれに続く見込み。

A人手不足、深センのサービス業ピンチ。
例年ならば旧正月明けに不足する労働者が、すでに旧正月前から不足し始めた。労働者が1か月も前から帰省し始めたからである。ことにホテルや飲食店、小売店の店員が不足している。警備員や家政婦もいなくなり、月給3000元を提示しても集まらないという。

B上海市、退職者の年金を185元アップ。
上海市はこのほど、企業退職者に対する今年の年金の支給額を、1か月当たり185元上げることに決定した。

※上海市は、毎年100億元を超える赤字が続く年金財政を立て直すため、土地使用権売却収入などを投入する方向で検討中。

C韓国企業、5割がUターン希望。
韓国の調査機関によると、中国に進出している韓国企業は、人件費の急上昇や労務紛争の多発、各種の規制の強化などを嫌い、韓国での事業環境が改善されればUターンを希望していることがわかった。

D広州の企業、90%が人手不足。
広東省では、金融危機の間に大量の出稼ぎ労働力を削減した後遺症が出ている。世界の景気回復に伴って、広東省では深刻な労働力不足に直面。なかでも広州市は90%の企業で求人難が見られる。

E旧正月明けの労働力不足、心配なし。
広東省広州市人力資源市場服務中心は、2/06,旧正月明けに深刻な労働力不足は発生しないという見通しを示した。同事務所は343企業に聞き取り調査を行い、旧正月に帰郷した労働者は全体の57%程度で、その約9割は戻る見込みであり、補充が必要となる労働者は昨年並みの15万人程度だと発表した。

F北京市、他省市と提携し、人手不足に対応。
北京市内では、家政婦や飲食業、単純作業労働、営業、警備員、製造業などで人手不足が深刻であり、北京市人力資源・社会保障局職業紹介中心の宋副主任は、他省市と連携して人手不足解消を図るという。

G大卒家政婦の雇い人募集。
四川省の家政婦紹介会社が北京で、年俸最低4万元で、大卒の家政婦を斡旋するという広告を出し、雇用主を募集した。家政婦が人手不足であることから、大卒女子を活用しようとする苦肉の策だと思われる。

H中国各地で農民工の囲い込み。

旧正月で帰郷した出稼ぎ工を、地元政府が優遇策などを打ち出して囲い込みを始めている。いわば農民工の争奪戦と化している。広西チワン族自治州では、戸籍制度改革を進め、農村と都市に分けていた戸籍制度を全面的に廃止し、毎年100万人を都市住民に転換、10年間で1000万人を目標としている。

I黒竜江省や吉林省、北から出稼ぎ受け入れか?
黒竜江省や吉林省では、深刻化する人手不足に対抗して、中国民間企業ベースで、北の労働者を雇用しようとする動きが見られる。しかし実際には法律面などで障害が多く、当面の実施はできない模様。

J南京で求人2万件に採用者は760人。
江蘇省南京市の労働紹介所では、10日から3日間で求人2万件に対して、採用は760人にとどまった。各社の賃金は前年同期比3〜5割アップしているが、求職者はより高い賃金を求めている。

K浙江省温州市で、40万人人手不足。

温州中小企業協会の周徳文会長は、2/22、「温州市では280万人の出稼ぎ労働者が必要だが、現在では35〜40万人の人手が不足している。浙江省全体では80万人が不足しているのではないか」と語った。

L上海で労働者不足、飲食業だけで20万人。
上海市人力資源・社会保障局のまとめでは、企業の出稼ぎ労働者の充足率は8割程度で、ことに飲食業では20万人が不足しているという。繊維関連、電子部品、玩具などの製造業でも不足が目立つという。給料は2000元は必要。

M余剰労働力、年間1300万人。
政府の人力資源・社会保障部の尹部長は、「第12次5か年計画期間中で、都市部の求職者数が2500万人に達し、それに対する就職機会は1200万人程度であり、1300万人が余剰となる計算である。労働力の余剰が深刻化する一方で、企業の労働力不足も同時に継続するため、雇用のミスマッチによる深刻な状況がしばらく続く」と発言した。

N広東省、人手は100万人不足。
広東省人力資源・社会保障庁の欧庁長は、「広東省全域で約2600万人いる出稼ぎ労働者のうち、8〜900万人が帰郷した。旧正月明けに100万人の労働者が不足する見込みで人員確保が企業の大きな課題となっている」と語った。

O広東省、人手不足は深刻ではない。
広東省人力資源・社会保障庁の欧庁長は、3/05、会議で、「出稼ぎ労働者の不足については、言われているほど深刻ではない。メディアで報じられているのは、衣類や靴製造、玩具、家政サービスなど珠江デルタの一部の労働集約型企業である」と話した。

P天津で大型求人会開催。
天津市経済服務中心は、3/05、製造業向け大型求人会を2か所で開催した。求人数は合計36000人、求職者数は3万8000人。富士康などの大型企業が参加した。

Q各地の最低賃金、引き続き引き上げの方向。賃上げ分は生産性向上で吸収を。引き続き就業圧力が第一問題。
3/08、人力資源・社会保障部の尹部長は、第12次5か年計画(2011〜15年)の期間中も、引き続き各地の最低賃金引き上げを続行することを記者会見で明言し、なお中小企業は賃上げ分を生産性向上で吸収するようにと話した。
さらに「中国では基本的に労働力の供給が需要を上回っており、就業圧力がやはり第一の問題だ」と述べた。

R広東省南海ホンダ、611元の賃上げ決定。
去年の5月、広東省南海ホンダでは労働者が賃金に不満を抱きストライキを起こしたが、その後は幾度も折衝の末、騒ぎは終息していた。今年2月、2011年度の賃上げ幅について、ふたたび労使間で対立が深まっていた。何度かの激しい討論の末、双方が歩み寄り、最終的に去年の賃上げ500元をベースに、今年はさらに611元上げることで決着した。内訳は基本給561元、ボーナス50元のアップ。

S珠江デルタ地区の香港企業=労働者不足200万人。
3/16付けの文匯報によれば、香港総工業会の劉副会長は、「珠江デルタの出稼ぎ労働者は200万人不足しており、必要とする労働力には2割足りない。香港企業の労働力不足は深刻である。内陸部にも働き場所が増え、労働者が沿岸部に出てこなくなったことが主因であり、内陸各地の技術養成学校と提携したりするなどの工夫が必要。給与水準は社会保険料や食費、寮費などを含むと2500元を越える」と発言した。

□男女の定年を早急に統一。

第11期全人代で、男女で差がある現行の退職年齢(男性は60歳、女性は企業幹部が55歳、一般労働者が50歳)を、早急に統一するようにとの意見が相次いで出された。

□大連で賃上げは年間50%以上。 週刊ダイヤモンドより。

中国への進出支援を行うエーコマースの秋葉社長は、「コストダウンのための中国進出は、もう成り立たない。現に欧米や韓国、台湾その手の企業はすでに撤退した。残っているのは、変化を好まない日本の企業だけだ。彼らもいよいよ重い腰を上げざるを得ないだろう」と語っている。

□ホーチミンでも人手不足。

中国の人手不足の余波を受けて、ベトナムのホーチミンでもどこの工場でも人手不足が深刻である。急激に仕事が増えたのと地方にも雇用の場が増え、農村から労働者が出稼ぎに来なくなったことが原因である。

□青島、ホテル業での人材不足深刻。

青島のホテル業や飲食業では、スタッフの給与を3000元以上に引き上げても人手が集まらず、苦戦しているという。


2.国際特許出願件数

2/10、マスコミ各紙は、昨年の特許の国際出願件数について、「パナソニックが首位、2位に中国企業が浮上。国別でも、中国が猛追、韓国を抜き4位に進出」との情報を流し、「知的財産大国」を目指す中国の躍進ぶりを伝えたが、米国際貿易委員会の調査レポートはその実態を下記のように伝えている。

2008年、世界の特許庁が許可した特許は777,556件あった。このうち日本の特許庁(JPO)が許可した特許は176,950件。全特許の23%を占めた。第2位はアメリカでUSPTO(米特許商標局)は157,772件の特許を許可した。第3位は中国でSIPO(中国特許庁)は89,022件の特許を認めた。日・米・中の特許は合わせて423,744件。全体の54%を占めた。アメリカで特許といえば発明を指す。ところが中国(だけでなく日本や台湾、韓国、ドイツ)の特許制度では、@20年間のプロテクションが適用される発明と、Aプロテクション期間が10年の実用新案と、同じく10年のBデザインの3種からなる。審査が厳しいのは@の発明である。この審査の厳しい発明でSIPOが許可した特許は15,640件(全中国特許の18%弱)であった。残りの82%超は審査の甘い実用新案とデザインである。しかも審査の厳しい発明特許のうち、46.4%は外国人発明家の特許であった。一方、審査の甘い実用新案特許の99.2%とデザイン特許の94.2%は中国人の特許であった。

また中国科学技術開発院も、中国の技術開発力は世界40か国中第21位であると評価している。


3.図們江のスケートリンク

今年の冬は中国の東北地方でもかなり寒さが厳しく、中朝国境を流れる図們江も一部で完全結氷したということで、そのことを示す手頃な写真が私の手元に送られてきた。それは図們市の近くの図們江にスケートリンクが設けられ、中国人がそこで遊んでいる光景であった。

 

この写真のコメントには、中朝国境が簡単にまたげてしまうので、それを禁じる看板が立てられていると書いてあった。私にはその位置関係がよくわからなかったので、友人に頼んで写真に国境線を書き込んでもらった。上の写真のピンクと赤の線がそれである。なおこの写真は、延辺日本人会ニュース02号に掲載されたものである。


4.上海の鯛焼き店

先日、ある情報誌に、上海の徐家匯にある美羅城百貨店の地下に日本の鯛焼き屋さんが出店して、「売れ行き絶好調」との記事が載った。この百貨店は私の住んでいる所に近かったが、この半年ほど忙しくて行っていなかったので、さっそく足を運んでみた。しばらく行かなかった間に、その百貨店の地下はすっかり様変わりしていた。以前はカフェテリア形式の店がずらりと並んでおり、大衆食堂という感じの場所だったが、現在は日本製品の店がたくさんオープンしており、その一角に日本のお菓子の販売店が並んでいた。

 

エスカレーターの下の一坪ほどの場所に、その鯛焼き屋さんがあった。しばらく私はその店を見ていたが、行列ができるほど大繁盛という感じではなかった。それでも客足は途絶えることがなく、店員さんたちは手際よく鯛焼きを焼いていた。まとめ買いをする人は少なく、多くの人が1個だけ買い求め、その場で頬張って歩き去って行くという感じだった。私もその店で、1個8元(約110円)の小豆のあんこの鯛焼きを買って食べてみた。それは日本の味とまったく同じで、ちゃんとしっぽまであんこが入っていて美味しかった。その階には、北海道や神戸、名古屋の銘菓を売る店などが並んでいたが、この鯛焼き屋さんほどお客さんはいなかった。ほとんど人が入っていない喫茶店もあった。


5.長沙の平和堂

ひところ、日本のマスコミで、湖南省長沙の平和堂百貨店が、中国での成功例として話題になったことがある。滋賀県彦根市に本社を置くスーパー平和堂は、1957年に靴とカバンの店として創業し、その後県内で店舗を広げ、年商4000億円を誇る地方スーパーに成長した。その平和堂が滋賀県と湖南省が姉妹都市であることから、1998年、長沙市に進出した。すでに3店舗で年間200億円を売り上げ、利益9億円を上げるほどになっていると報道されている。

 

私は長沙に行ったついでに、この話題の平和堂を訪ねてみた。現在、平和堂の周辺には、立派な百貨店が5軒ほど建っており、かなりの激戦の様相を見せていた。平和堂の店内には日曜日の午前中ということもあってか、お客さんは少なかった。他の百貨店にも行ってみたが、客足はほとんど同じだった。店員の態度も特別に平和堂が良いということはなかった。きっと午後になればお客さんがたくさん来るのだろうと思って、その場をあとにした。しかし道路を隔てた専門店街に足を踏み入れた途端、いつもの中国の雑踏に巻き込まれた。そこは歩行者天国になっており、騒がしい音楽や店員の呼び声などが飛び交っており、ほとんどのお店の中は人で黒山のようになっていた。


6.武広高速鉄道:和諧号の乗り心地

先日、湖南省の長沙から湖北省の武漢まで、武広高速鉄道の和諧号に乗ってみた。日本の新幹線を真似したと言われている和諧号は、長沙から武漢まで、最高時速331km、約1時間半で走った。車内は綺麗で乗り心地も悪くはなかったが、日本の新幹線と比べると微動が多いような気がした。同乗の中国の友人の話では、肝心の電気部品などは日本からの輸入が多く、まだまだすべて中国製というわけにはいかないという。それでも中国鉄道部は、高速鉄道の技術レベルは日本を超えたと言い、最高時速413kmを記録したことを誇り、近いうちに600kmを出して世界一になると公言していた。

  

      漢駅に停車中の和諧号

しかし鉄道部内部では、軌道のコンクリート部に使われている化学強度剤が不足しており、数年後には劣化が進み、5年以内に時速300km以下に落とさざるを得ないと噂されている。また手抜き工事や工期短縮などによる弊害も指摘され始めている。そのようなときに、鉄道省のトップの劉志軍鉄道相が規律違反で解任され、汚職で取り調べを受けることになった。リーマンショック後、中国政府は成長維持のため4兆元を投資に充てたが、最大の投資先が鉄道で、そこに巨大な利権がからんだと言われている。その一環だった山西省の政商の丁書苗が当局に逮捕されたことが、劉鉄道相解任の導火線になったようだ。

2等指定席は満席で、カップラーメンのにおいが充満していた。日本のグリーン車にあたる1等指定席はがらがらであった。服務員のサービスはあまりよくなかった。また乗車位置なども不明で列車が到着したとき、お客さんがマゴマゴしていた。どこの駅の待合室も広かったが、なぜか乗客以外の見送りの人の出入りについて、長沙はOKだったが、武漢はNOだった。ちなみに武漢→広州の片道の料金は、1等席で780元、2等席で490元である。