読後雑感 : 2010年 第22回
読後雑感 : 2010年 第22回 |
30.NOV.10 |
《インバウンド特集》 1.「中国人観光客にもっと売る新おもてなし術」 2.「百度式 600万人中国観光客を呼び込む方法」 3.「中国人インバウンド調査」 ◎インバンド戦略への私見 《その他》 4.「中国デフレ」 5.「変わる中国 変わらぬ中国」 6.「あなたの商品を中国に売る33の方法」 7.「湖南省と日本の交流素描」 1.「中国人観光客にもっと売る新おもてなし術」 斉藤茂一著 ぱる出版刊 10月8日発行
副題 : 「“ツアー誘致&アテンド1000人” 豊富な実体験に基づいた売り上げUPの秘策」 帯の言葉 : 「なぜ中国人観光客に売れないのか」 10月度の中国人観光客の来日は、尖閣諸島問題の影響で若干減ったようだが、それでも日本の観光業界などでは、日増しに中国人観光客に期待する傾向が強くなってきている。それを反映して、最近では巷で、中国人観光客を相手にして、「いかに儲けるか」といった類の本や雑誌を見かけるようになった。またそれに伴いインバウンドという言葉が流行しはじめた。この言葉について本書は、「にわかに注目されている“インバウンド(Inbound)”。もともと外国人旅行者を誘致することの意味で、いわゆる外国人旅行者に関わるビジネス全般を指します」と説明している。 本書で斉藤氏は、中国人観光客の行動心理をその内側から分析し、いろいろな提言をしている。日本で中国人観光客を相手に商売をしようとしている人は、この本を読むと参考になることが多いと思う。中国人の行動心理については熟知していると思っている私でも、なるほどと思う個所が多かった。たとえば、斉藤氏は中国人観光客の日本観光の最大の目的は買い物であると言い切り、ほとんどのツアーの買い物時間が不足しているので、いかに効率よく買わせるかが肝心だと指摘している。先月、私は中国人観光ツアーに入ってヨーロッパ旅行に行ってきたが、その経験からもこの斉藤氏の指摘は正しいと考える。中国人の中でも海外旅行に行くことができる階層の人はまだまだ少なく、その旅行の中身よりも、海外へ旅行に行ってきたということ自体が自慢話になるのである。したがってそのときの小道具として、大量の土産物が必要なのである。 この本の中で斉藤氏が提言している中国人に物を売るときのノウハウのいくつか下記に紹介しておく。なおやってはならないことも書いてあるが、それは省く。 ・中国人には、まずどちらにしようかと一度迷わせたあと、両方買うことをすすめるようにします。すると中国人はどちらも買うという選択肢を選びます。このやり方をすれば労せずして売り上げを2倍にできます。 ・中国人に売れるバッグは、しっかりと口の締まるものです。中国ではスリなどの盗難が多いからです。 ・中国語の話せる店員はタスキを掛け、積極的に中国人に話しかけなさい。中国人はアドバイスを待っています。 ・ブランドショップであっても店内の写真撮影はオープンにしなさい。どうしてもできない場合は撮影場所を作るとよい。それはその店の絶好の宣伝になるからです。 なお斉藤氏は、「中国富裕層向けインターネット広告はお金の無駄」と書いている。なぜなら「会社経営者、資産家、大企業幹部の間ではインターネットよりも口コミのほうが信頼できる情報だと考えられている」からだと述べている。 また斉藤氏は、「“日本食の食べ方は世界一難しい”と心得よう!」と書き、「実は、日本のインバウンドビジネスで一番遅れていると思うのが飲食店です」、「日本に住んでいる私たちならどの料理にはどの調味料を使うのか、どうやって食べるのかなど、すぐにわかります。ところが海外の旅行者にとっては、日本の料理は食べ方がわからない」、それでも「日本食はヘルシーでおいしいと世界中から評価が高まっています」、したがって海外の旅行者には、「日本食の食べ方を丁寧に伝えることが、とても重要なおもてなしになります」と述べている。 2.「百度式 600万人中国観光客を呼び込む方法」 陳海騰著 東洋経済刊 9月9日発行
帯の言葉 : 「中国人富裕層が日本の観光ビジネスを復活させる 個人観光ビザ大幅緩和!」 この本でもインバウンドという流行語に関して、「21世紀の日本経済、日本の観光ビジネスは海外に出て行く=アウトバウンドばかりでなく、海外から外国人を呼び寄せる=インバウンドという発想が切に求められている」と書いている。 陳氏は2016年には、中国人観光客が2000万人ほど来日するであろうと予測し、これはまさに日本の観光関係者にとっては宝の山だという。そして陳氏は中国最大の検索エンジン「百度」の日本駐在首席代表を務めていることもあって、「百度」を通じて中国人に観光サイトをアピールすればよいと書き、「変化の激しい中国インターネット市場で勝ち抜くには、やはり中国人のインターネット・ユーザーをよく知り、圧倒的な検索シェアを持つ“百度”のサービスを活用するのが有効ではないか」と述べ、具体的な成功例をあげている。この点、上掲の斉藤氏とはかなり違うが、ブログを活用すれば、それは口コミ情報と同等の効果を発揮するとして、「少なくとも1年前は、富裕層でも企業のエグゼクティブとか上場企業のCEOがブログを書くのが流行っていました。彼らがブログを大事にするのは人脈を作るためです。CEOがお互いの生活を覗いたり、コミュニケーション・ツールとして活用するのです。そこに出てくるキーワードはヒントになります。ブログを書いているのは、金融・不動産関係のCEOが目立ちます。中国人はある物事に関しては深い知見を持つ人からの口コミ情報を得ることを非常に大事にします」と書いている。 ただしこの本の中の記述は、ネットに関する部分を除くと若干怪しい個所がある。たとえば「カナダでは住宅や別荘を買えば永住権を取れます」(P.192)などと、まったくの誤情報を平然と流している。この本の記述をすべて鵜呑みにしない方がよいだろう。なお、巻末の「中国人富裕層によく検索されるキーワードリスト」は、かなり参考になる。 この本のある個所を読んで、私はびっくりした。「早速、中国に住んだことのあるA支配人(本文中では実名が記入)をインバウンド担当責任者に指名」というくだりが、目に入ってきたからである。なんとこのA支配人は、数年前、上海の当社の寮に寄宿しており、担当事業が不調だったため、その責任をとって退社していった人物だったからである(すぐに身元調査をして、同一人物であることを確認済み)。またまったく偶然に、翌日、その会社の社長と、ある講演会の会場で出会った。A支配人のことについて、私なりのコメントを話しておいた。世の中は狭いものである。 3.「中国人インバウンド調査」 日本経済新聞社産業地域研究所刊 10月25日発行
副題 : 「訪日客200万人・巨大消費パワーが上陸」 この本は、日経新聞の産業地域研究所が、今年の6〜7月に、北京・上海に住む600人の中間層・富裕層を対象にアンケートを行った結果の報告集である。したがって上掲の2冊とは違い、かなり客観的なものとなっている。 まず中国人の日本旅行の予算は平均27万7千円、そのうちの買い物予算は12万2千円であると書いている。この金額はかなり少額であり、巷に伝えられているように中国人観光客が家電やブランド品を買い漁って帰るというイメージとはほど遠い。これは先月私が、中国人の団体欧州旅行に同行したときにも、何百万円という買い物をする中国人が少なく、意外に質素だったことからも、頷ける。それでも訪日中国人が来年は200万人を超え、上掲の陳氏が2016年には2000万人となるだろうと予測しているように、これだけの数の中国人が日本に押し寄せれば、たとえ少額でも日本の消費関連事業に従事しているものにとっては、まさに宝の山になるだろう。 次にこの報告書は最近の買い物の傾向が、家電やブランド品などから、ファッションや生活関連用品へと変わってきており、買い物をする場所も多様化し、アウトレットモールや大型ショッピングセンターなどが人気を集め始めていると書いている。たしかに私もアウトレットモールに勤めている知人から、「最近、中国人観光客の来店が多く、売り上げを20%ほど押し上げている」という情報を得ている。そこでメイドインチャイナの商品を買っていく中国人観光客は、「ここなら価格が中国より安く、品質は中国より断然よい」と言って、訳あり商品や時期遅れ商品を大量に買っていくという。 旅行の目的には、“食事つまり日本料理”が急上昇し、今回の調査ではトップに躍り出た。具体的には、「すき焼き、居酒屋料理、ラーメン、回転寿司、おにぎり、焼き鳥」など庶民的な料理が好きなメニューとしてあげられている。これを見ると、上掲の斉藤氏の見解は杞憂に終わっているようである。 さらにこの報告書は、「日本の観光・ショッピングに関する情報収集の方法を聞いた質問では、女性・20代の92%がインターネットを挙げた。ネットは他の性・年代別階層でも9割を超えたが、特徴的なのは“友人などからの情報”が突出している点だ」と書いている。この結果を見ると、上掲の2著のうち、斉藤氏のものよりも陳氏の方に軍配が挙がるようである。 またこの報告書では、中国人観光客が「化粧品が詰まったファンケルの買い物袋を見せて、銀座で買ってきたことを友人らに話すのが帰国してからの旅行客の楽しみになっている」と書いている。ファンケルとは2004年に、香港の代理店を通じて中国の化粧品市場に進出した会社である。この会社について、本書は「商品を中国では現地生産せず、日本で生産した物をパッケージデザインや日本語での商品説明などすべてを変えずに投入した。それが“無添加”をうたうファンケル製品の品質の高さと重なって、肌に間違いない安全な日本の化粧品であることを印象付けた」と書いている。これは中国人観光客へ商品を売り込むためには、「安全・安心」が大きなキーワードであるということを教えている。 《インバウンド戦略への私見》 @中国人観光客は神様である。 日本人が中国人観光客を大量に受け入れ、日本経済の浮揚を目指し、大儲けをするためには、一大思想転換が必要である。この点についての言及が、上掲の3氏とも、決定的に欠如している。私は昨年6月に、「稲荷神社と関帝廟」と題した小論を書き、中国人観光客を相手に大儲けを考えるならば、とりあえず日本人は稲荷神社信仰を関帝廟信仰に切り替えることが必要であると主張しておいた。残念ながら日本の小売店の店頭で、いまだに関帝廟にはお目にかかることができない。それは日本人の思想の中に、まだ中国人観光客の全面的受け入への拒否反応があるからではないかと思う。しかし冷静に考えれば、もし陳氏が予測しているように、やがて中国人観光客が2000万人も日本を訪れれば、必然的に思想の大転換が起こるに違いない。今から、関帝廟信仰について深く研究し、どのように稲荷神社信仰と折り合いつけていけばよいのかを、真剣に考えておかなければならないのではないかと思う。下記に昨年9月の小論をぜひ読み直していただきたいと思う。 A「老人決死隊」の出番。 中国人観光客が大量に日本を訪れれば、日本の観光業やそれに付随する産業は儲かる。しかし多くの日本人が、日本の公序良俗が踏み蹴散らされるのではないかと懸念している。私もやはり日本の風土には稲荷神社信仰がふさわしいと思っているので、関帝廟信仰が幅をきかすようになってしまうことを危惧している。それでも放っておけばおそらく、関羽様にお狐様が狩り殺されてしまうであろう。すでに現在でも、治安問題を含めて、来日中国人が悪影響を及ぼし、既存の日本社会の秩序を脅かしつつある。「悪貨は良貨を駆逐する」のたとえのように、きっと日本人社会全体が悪い方向に向かって行くにちがいない。したがって2000万人の中国人観光客を迎えるに当たって、日本人の思想の大転換とともに、日本人の思想と社会秩序をしっかり守ることが、たいへん重要なことになってくる。上掲3著はともに、この事態への対処法をまったく論じていない。 これに対する一つの方法は、性悪説に立ち、警察権力を拡充し、社会悪を徹底して摘発することである。しかしながら現在、国家財政は危機に瀕しており、大量の警察官の拡充を行うだけの余裕はまったくない。したがってボランティアで治安維持全国組織を作り、日本社会の公序良俗の維持活動を行う必要がある。ここにも「老人決死隊」の出番がある。先日、尖閣諸島問題の小論で「老人決死隊で迎え撃つ」という提言をしたところ、意外にも30〜40代の若者からの参加申し込みがあった。もちろん多数の老人からも入隊申し込みを頂いた。私はできうる限り早期に、結成の方向に動きたいと思っている。さらに私には、この他にもアイディアがある。現在まだこれは公表の段階ではないが、来年度から私財を投じて、始めようと考えている。日本人の哲学的・思想的強化も必要である。また若者の鍛錬も必要である。私はそのための努力を開始する。 11月29日付けの日経新聞の「インタビュー領空侵犯」という記事の中で、山口二郎北海道大学教授が、「団塊世代は“食い逃げ”するな」と書いている。我々団塊の世代の老人は、「食い逃げ」など絶対にしない。我々は、国家の借金は必ず返済してから死ぬ。そして日本の伝統思想を世界に披露し、日本が21世紀の世界の救世主になることを実証して死んで行くつもりである。 B中国人観光客の大挙来日はいつまでも続かない。 中国人はバブル経済に酔いしれている。その様子は20年ほど前の日本人とまったく同じである。したがってその後の日本人がどうなったかを考えれば、今後の中国人の動向を予測することは容易である。おそらく中国のバブル経済は4〜5年を待たずして崩壊する。だから陳氏が予測しているように、中国人観光客が2000万人になるということはあり得ない。中国人観光客の大挙来日をあてにして、施設の大規模な改修などは行うべきではない。くれぐれも投資過多にならないようにしなければならない。 4.「中国デフレ」 長田鬼門著 ザメディアジョン刊 11月1日発行
副題 : 「日本の大不況の犯人は、醜い中国人だった」 長田氏は本書で、「経済も外交も分からない者たちが、以後政治家を目指さないように、全ての国民への戒めのために、永田町の“東京呆け”“高給呆け”の議員全員を死刑にするとよいのだ」(P.192)などと、暴言を吐いている。皮肉なことだが、こんな本でも出版が許されるのだから、私は言論の自由が保障されている日本を本当にありがたいと思う。 長田氏は本書を、「これまでだれも気が付かなかったデフレの原因を解明し、日本を歴史的な没落から救い出すための書である」と言い、「日本国民を苦しめている現在のデフレ経済の本質を一言で表現するとしたら、中国デフレである」と述べ、次いで中国への悪口雑言を書き連ね、最後に「20年間に渡って日本人を苦しめてきた長期の不況の原因を、解き明かすことができたと信じている」と結んでいる。馬鹿らしくて反論する気にもならないが、一言書いておく。エコノミストの長谷川慶太郎氏は東西冷戦が終結したとき、つまり20年以上前に、「これからはデフレの時代が到来する。ことに中国が資本主義社会に参加してくることがもっとも大きなデフレの要因である」と主張されていた。そしてこの主張はビジネスに携わっている人々の間で、はっきりと認識され、その後常識化された。長田氏は20年遅れで、この常識を追認しているだけである。 本文中には肝心な部分で多くの事実誤認があるが、細部に渡っても杜撰な記述が多い。たとえば「紳士服最大手のレナウン」などと臆面もなく書いているが、レナウンは婦人服のアパレル企業であり、すでに長期に渡って業績不振に喘いでおり、とても最大手などと呼べる状態ではない。こんな記述が随所にあるこの本は、読まない方がよい。 5.「変わる中国 変わらぬ中国」 佐藤竜一著 彩流社刊 10月25日発行
副題 : 「紀行・三国志異聞」 題名につられてこの本を買って読んでみたが、本書は現代中国の諸相を過去との比較で描き出しているわけではない。したがってこの本を読んでも中国の現状を把握することはできない。 第1部では、佐藤氏の1982年の長春への短期留学、1987年の中国各地の一人旅、1990・92年の北京での経験、1994年の「三国志」研究の旅、などの経験談が語られており、結構おもしろいが、文中でこれらの体験が錯綜して出てくるので、読み難い。若干、日本語の乱れもある。繰り返して言うが、ここには現在の中国は描かれていない。 第2部でも佐藤氏は、もっぱら「三国志」の解説に終始しており、「変わる中国」については言及していない。ただしここで語られている「三国志」時代についての異聞は、参考にはなる。 6.「あなたの商品を中国に売る33の方法」 筧武雄・遠藤誠著 アスカ刊 10月28日発行
副題 : 「もう日本だけで商売する時代ではない!」 帯の言葉 : 「巨大マーケットをつかめ!」 本書の解析を始める前に、「世界の市場:中国」へ進出し、大儲けできた時期について私見を述べておく。 2001年末、中国はWTO加盟を表明した。これを受けて私は、中国が“世界の市場”になることを予測し、日本のアパレル企業の中国売り込みの足がかりを作るために、2002年6月、上海市内の上海世貿商城の5階(200ブース)を借り切って、常設展示場とした。事務員や通訳、弁護士、税理士、通関士などを揃え、事務機器、車なども共同で使用できるように整え、しかもそれを安価で提供し、日本企業の中国市場進出へのお膳立てをした。ところがどんなに頭を下げて営業に回っても、政府系の公的団体を含めて、ほとんどの企業が時期尚早ということで、この試みに参画してこなかった。私は大損をして、1年間でこの構想を捨てざるを得なかった。あのとき私の企画に乗って、多くの企業が中国市場に参入していれば、いまどき大儲けという結果になっていただろう。それを思うと残念至極である。(詳しくは拙著「中国ありのまま仕事事情」 P.70〜参照)。 2010年11月22日から、ジェトロが上海世貿商城の3階で、日本の中小企業が製造した生活雑貨やテーブルウェア、健康・福祉用品などを常設展示するショールームを開設した。私から遅れること8年である。時、既に遅し。 今から中国市場へ進出してみても、すでに市場は飽和状態で大儲けは不可能である。したがってこの本にも、大儲けできるとは書いていない。閉塞感ただよう日本市場から、絶好調の中国市場へ打って出なければ、生き残れないだろうと述べているだけである。私にはこの種の本を読んで、多くの企業が中国市場に参入しても成功するとは思えない。とくにこの本の中には、ヤマト運輸グループのマーケティングギャラリーやブリッジという会社など、進出希望企業をサポートする事業を行う企業が大きく紹介されており、なにやらPR雑誌のような気さえする。 また文中でBという会社が成功例として紹介されているが、私と同じ上海世貿商城内の11階に本拠を構えているのに、私のところにはこの会社が大儲けしているという情報は入っていない。 それでも著者の、「中国にもまだない、新しい物を根気よく売れ」、「中国製より安い日本製を商品開発する」というような主張には賛成である。 この本の1/3は、「日本へ来る中国人客の落とし方」で占められており、題名とはかけ離れた内容が記述してある。 7.「湖南省と日本の交流素描」 石川好著 日本湖南人会訳 日本僑胞社刊 12月26日発行 本書は11月下旬に店頭に並んでいたが、巻末には発行日が12月26日と記されており、そこにわざわざ「毛沢東誕生日」と付記されていた。また本書は、1/3が石川氏の文章、1/3がその中国語訳、残りの1/3が日本湖南人会の活動報告(中国語)という構成になっている。この点で通常の書籍とはかなり違い、一般読者向けではない。 2009年11月20日から3日間、湖南省長沙市で、「JAPAN WEEK IN 湖南」が開かれ、石川氏がその記念式典であいさつをした。また湖南師範大学で講演を行った。石川氏が、その後、周強湖南省共産党書記のすすめもあって、書き上げたものが本書である。 石川氏によれば、湖南人は1900年代の初頭、黄興らを中心に大挙して日本に留学し、日本の明治維新を研究し、一大勢力を形成していたという。黄興は1902年に日本に留学し、宮崎滔天と出会い、彼を介して孫文と対面、意気投合し中国革命に邁進することになる。黄興は日本で明治維新に触発され、ことに西郷隆盛に傾倒した。その結果、「戦前までに中国から西郷の出身地の鹿児島に150名余の留学生が来ており、その大半は湖南省人だったようです」と、石川氏は書いている。 また宮崎滔天は1917年湖南省長沙を訪ねており、そのとき湖南師範学校の学生であった毛沢東が、宮崎に面会を申し込んでいたが果たせなかったため、手紙を書き置きし、それが今も宮崎家には残されているという。 この本文中で石川好氏は、「若き毛沢東は、西郷の詩の一つを借用して、次のような詩を作っています。これは若き毛沢東が、故郷を出て人生を切り開く決意を述べたものです。若き毛沢東は日本留学経験を持つ義父である楊昌済から日本について学んだと言われていますが、この詩はその証明かもしれません」と書き、下記の詩を紹介している。 「孩兒立志出郷關 學不成名死不還 青山処々埋忠骨 何必馬革裏屍還」 毛沢東。 昨年4月、私は「西郷隆盛と毛沢東」と題して小論を書き、その中でこの詩について下記のように言及しておいた。石川氏の記述とはかなり違う。このことは後日、改めて検討してみる。 毛沢東が日本の明治維新や西郷隆盛を学んでいたことについては、伝記などで紹介されているので日本でも多くの人が知るところである。しかし毛沢東が青年時代に、父親と別れるとき「西郷隆盛の漢詩」をほぼそのまま引用して、決意を示したことはあまり知られていない。この漢詩は実際には西郷隆盛のものではなくて、長州の勤皇僧:月性(西郷隆盛と入水した京都の僧:月照とは別人)の作であったが、それに感嘆した西郷隆盛が引用しようと考え書き留めておいたので、それを読んだ毛沢東が彼の作と間違えたものらしい。この事実は毛沢東が西郷隆盛をかなり深く研究していたことを示すものである。果たして毛沢東は西郷隆盛から何を学んだのであろうか。 勤皇僧:月性の漢詩 「将東遊題壁」 (毛沢東が西郷隆盛作と勘違いしたもの) 男兒立志出郷關 學若無成不復還 埋骨何期墳墓地 人間到處有青山 毛沢東の漢詩 「留呈父親」 孩兒立志出郷關 學不成名誓不還 埋骨何須桑梓地 人間無處不青山 |
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