小島正憲の凝視中国

中国全土の工場スト状況 : 2010年5〜6月  


中国全土の工場スト状況 : 2010年5〜6月  
09.JUL.14
1.中国全土の工場スト状況。

 5〜6月の2か月間、ネット上やマスコミ紙に現れてきたもので、私が捕捉できたスト情報は中国全土の30工場に及んだ(ホンダ、トヨタ、富士康関係工場を除く)。それを以下に記す。
 (1)〜(3)は現場検証済み。(4)〜(29)は未検証、情報のみ。


(1)5/5、広東省深セン市龍崗区龍城大道の荷拗百達五金塑コウ(月に交の字)場有限公司で従業員約2000人のスト。

 

・深セン市は2011年の夏に、龍崗区龍城大道で「世界学生運動大会」の開催を決定しており、その会場整備のため周辺の工場を移転させている。この工場も市政府から東莞市観瀾区に移転を命じられていたが、従業員は移転先が遠く通勤不可能なため、現地の龍口村の従業員を中心にして移転反対のためストを行った。

その後、従業員内部で、移転賛成者・移転時に退職金をたくさん受け取り退職しようとする者、現地での工場操業続行希望者などに分裂し、殴り合いなどが起きた。警察が出動し収束。7/04時点では、大半の従業員が離職しストも終結していたが、まだ500人ほどの従業員が補償を求めて工場に残留中。 

(2)5/17から5日間、江蘇省昆山市曹陽東路288号の中塩昆山有限公司で、従業員1400人のスト。

 

・昆山錦港実業集団公司が、従業員にまったく通知をしないで中鉛昆山有限公司に工場を売却したので、従業員がスト決行。新公司が従業員を270名しか採用しないと発表し、錦港公司に長年勤務してきた残りの従業員の待遇を明言しなかったため、それに不満な従業員がストに突入。スト中も公司側が返答をしなかったので、従業員300人ほどが昆山市政府に陳情デモを行い、そのうち100人ほどが市庁舎事務所内に入り騒いだ。武装警察100人が出動し、首謀者11人を拘束し鎮圧。その後、公司側は従業員の要求に応えて、退職希望の従業員に勤続年数に基づいて、7〜9万元の退職金を支払った。また勤務継続を希望する従業員には、前公司での勤務年数を現公司でも通算し、前公司の未払いのボーナスなどを現公司が支払うと明言。6月末現在で約1100人の従業員が継続勤務中。

(3)6/06・07・08の3日間、江蘇省昆山市花橋鎮曹安路8号の台湾系機械部品工場の≪KOK書元機械(昆山)有限公司≫で、1800人以上の従業員が待遇の改善を求めてストライキ。 (※既報)

      

・会社側が何も対応しなかったため、6/7朝、従業員たちは政府に陳情デモに向かうため、横断幕を掲げ工場の正門前に集合した。ところがこの公司の場所は上海市と隣接しているので、万博開催中の上海のイメージダウンを怖れた地元の警察が、50人ほどでこのデモを解散させようとした。その結果、従業員と衝突し混乱が広がった。政府は昆山市内からさらに150人の警察を動員して、強制的にこのデモを収束させた。この衝突で従業員側に50人の負傷者(うち5人が重傷)が出たという。          

以上は6/10に現地検証済み。

労働者たちは会社側に13の要求を提出しているが、11日現在ではまだ正式回答はないという。しかしながらここで注目しておかねばならないのは、労働者たちが「団結は力なり。抗議には望みがある。我々には、“ホンダ”・“富士康”の手本がある」を、合言葉にして会社側と交渉を続けていることである。労働者たちは、まさにホンダのストの成功体験を学んで、それに続こうとしているのである。

(4)5/4、山東省棗荘市の万泰集団の二棉工場で、数百人の労働者が賃上げ要求スト。

・棗荘市の国有企業の万泰集団の二棉工場で、幹部の給与に比べて労働者の給与が安いため、憤慨した労働者数百人が賃上げを要求してスト。幹部は月給3〜4000元であるのに、労働者は700元に満たなかったという。工場幹部が賃上げを拒否し、その上スト中の労働者を殴ったので、ストはさらに拡大した。

(5)5/5、江蘇省南京市江寧区東山鎮にある南京新蘇熱電有限公司で、労働者110人が賃上げ要求スト。

・南京市江寧区東山鎮にある南京新蘇熱電有限公司で、労働者が工場側に賃上げを要求した。労働者は月給を800元しかもらっておらず、工場側に1000元を支払うように要求した。公司幹部が、すべての従業員の給与をアップすると会社が潰れるという理由でそれを拒んだので、労働者はスト決行。スト中に、会社側には顧客からのクレームが数多く入っているという。江寧区政府や東山鎮の労働関係部門が調整に入っている。

(6)5/12、江蘇省の江蘇儀化設備工程有限公司で、労働者7000人がスト。

・江蘇省の江蘇儀化設備工程有限公司で、労働者が工場の体制変更に抗議してスト。この会社は3年前に国有企業の中国石化儀征化繊検維修公司から分離され、民営化された。今年の4月29日に、工場リストラのため、工場側は従業員大会を開き、工場側推薦の従業員代表を新仮株主に選出させ、その仮株主に江蘇儀化設備工程有限公司の株を売却することに決定した。さらにその資金で従業員の退職金や新会社の設立資金をまかなうという方針を発表したので、従業員はそれに反対しスト。

(7)5/14、河南省平頂山市の平棉紡織集団で、労働者1万人がスト。

・平頂山市の国有企業の平棉紡織集団で、労働者1万人が賃上げなどを要求して、工場を封鎖した。工場の幹部がストを止めさせるために現場に行き対話をしようとしたが、労働者がペットボトルなどを投げつけるなどをして混乱した。市政府の副市長や市秘書長もかけつけ、混乱をその騒動を鎮めるために、2000人の武装警察を現場に出動させ、ストをしていた労働者たちを追い払った。武警はストの首謀者数人を拘束、負傷者はなし。

平棉紡織集団は1983年の創業以来、なんども社名を変更し、組織体制を入れ替えた。その間に幹部間で汚職が横行し、従業員の年金なども未納となり、工場の土地売却代金の使用使途が不明であり、かつ工場の閉鎖準備金6700万元が流用されてしまったという。工場の労働条件は悪く、夏季は最高42℃にもなり、その暑さで労働者がよく倒れる。また初任給は300元で、この工場で夫婦共働きしている労働者は二人合わせて1500元しか得ていない。また退職金もほとんどない。労働者は工場側に最低賃金制や労働契約法通りの待遇を要求してストに入った。

(8)5/14、甘粛省蘭州市西固区にある蘭州維ナイロン工場で、100人以上の労働者が賃上げスト。

・蘭州市西固区にある蘭州維ナイロン工場で、待遇に不満な100人以上の労働者が工場の玄関で座り込みスト。蘭州維ナイロン工場は創業38年の歴史を持つ国有企業であるが、労働者の月給は800元に満たない。労働者は毎日忙しく働いているのに、工場の幹部たちは工場の赤字を理由に月給を引き上げようとしないため、労働者は安アパートに起居している。反面、工場の幹部たちは、市内の豪華マンションに居住し、工場内ではぶらぶらしているだけであり、この状況に労働者が反発し、賃上げストに及んだ。

(9)5/18、山西省大同市の国有企業の星火制約場で従業員スト。

(10)5/19、江蘇省蘇州市の米国系電子部品メーカーで従業員デモ。

(11)5/23、重慶市の重慶キ(其の下に糸の字)江歯輪伝動公司で同僚の過労死に抗議して、労働者100名以上がスト。

・重慶市の重慶キ江歯輪伝動公司で、従業員の金世紅さんが過労死したので、それに抗議して労働者100名以上が抗議のスト。この工場では、残業や休日出勤が続き、労働も過重であったので、金さんの過労死をきっかけにして、労働者の不満が爆発。5/23〜26まで、工場の全従業員がスト。25日、労働者たちは大雨だったにもかかわらず、工場の門前で金さんの葬儀を行った。

(12)5/25、北京市南駅の清掃員スト。

・5/25夜、北京南駅の清掃員が、仕事量の増加および経済的処罰行為(罰金や降格)に抗議し、3度目のストライキを行った。清掃労働者たちは、「清掃員の欠員の未補充、夜間のトイレ清掃の複数勤務(ことに女性清掃員が男子トイレを夜間に一人で作業するのは危険であるため)、夜間の線路洗浄の増員、タクシー停留場の清掃の増員」などの要求と、「ミスを犯した場合の罰金や降格に禁止」を掲げている。

(13)5/26、日系企業上海シャープで、従業員が賃上げスト。

(14)5/27、北京市の建国門橋東南角にある凱莱大酒店で、200人以上の従業員が座り込みスト。

・北京市の建国門橋東南角にある凱莱大酒店で、リストラに抗議して200人以上の従業員が、玄関に座り込みスト。凱莱大酒店は建替えのため、350人の従業員を減員することに決定し、当該従業員に条件を提示したが、従業員は納得せず、玄関前に座り込んだ。20年以上勤務し続けた従業員は、「4万元の退職金では安すぎる」と話しているという。また10年以上勤めた従業員に、会社側はいったん解雇し、新規の会社で再雇用するという条件を提示しており、それに対して従業員は継続雇用を求めている。

凱莱大酒店は1990年に建築された有名な4つ星ホテルであったが、5/19、北京市プロジェクト委から、80階建ての国際高級商務ホテルに建て替えを指示された。

(15)5/27、雲南省紅河州13県のバス運転手全員が抗議スト。

・紅河州13県のバス運転手全員が、政府提案の新政策によって収入が減少するため、抗議スト。従来、バス運転手は毎月4000元の線路運行費を政府に、また管理会社である紅交集団には売上総額の10%を上納することになっていたが、紅交集団の王副総裁が上納金を20%にアップさせようとした。

(16)5/27、北京市の北京星宇車科技有限公司で、労働者1000人余が30%の賃上げを要求してスト。

・北京市の韓国資本の北京現代に車体と部品を納入している北京現代傘下の北京星宇車科技有限公司で、労働者1000人余が30%の賃上げを要求してスト。北京星宇車科技有限公司の取引先の公司が、労働者に特殊労働手当てを支給しはじめたので、これを聞きつけた労働者が30%の賃上げ要求に踏み切った模様。

労働者の話では、北京星宇車科技有限公司は仕事量が多く管理が厳しい。その上朝8時から夜8時までの勤務なのに、残業手当は2時間分しか加算されず、このところ休日出勤が続いているにもかかわらず、労働者の月給は諸手当込みで2000元ほどにしかならないという。ストライキ発生後、北京現代の仲介により、30%の賃上げや各種手当ての支給が約束されたという。

(17)5/31、広東省深?市塩田国際及び蛇口コンテナバース両公司のコンテナトラックの運転手が、待遇改善を求めスト。

(18)6/03、陝西省西安市の日系企業のブラザーミシン公司で、労働者の賃上げスト。

(19)6/05、湖北省随州市での国有紡績工場で、労働者約400人が大量解雇と年金問題でスト、道路封鎖。

(20)6/6、広東省深セン市の台湾系企業の宝安美律電子の工場で、2000人以上の労働者が賃上げスト。
・労働者は横断幕を掲げ、街頭デモをしたので、近隣道路の交通が麻痺した。

(21)6/7、広東省惠州市にある韓国系企業の韓国亜成電子工場で、2000人以上の労働者が賃上げスト。

(22)6/7、江西省九江市にある台湾系企業のサッカーワールドカップのボール生産工場で、8000人の労働者がスト。

(23)6/10、上海市の台湾系企業の上海統宝光電気有限公司および米国系企業の珠海偉創力集団の両公司の労働者3000人が賃上げ要求スト。

(24)6/10、上海市の奇美電子で労働者数百人が賃上げスト。
・奇美電子、群創光電、統宝光電の3社が合併してできた世界最大規模クラスの液晶パネル製造工場。

(25)6/10、広東省珠海市で、シンガポール系のフレクストロニクスの工場で千人余の労働者が賃上げスト。

(26)6/17、陝西省西安市の省政府前で、労働者の陳情デモ。

・西安市新城区の聚福園のマンション建設工事現場で働いていた出稼ぎ労働者100人余が、雇用主の広東韶関第2建築事務所の給与未払いに抗議。労働者の同事務所との契約は、給与は毎月賃金の80%(出来高払い)を支払い、残りは年末に一括払いということになっていたが、3か月間働いた後に実際に支払われたのは、30%ほどであった。そのため労働者たちは、新城区政府や市労働監督部に陳情に行ったが、なんの応答もなかったため、省政府への陳情デモに及んだ。

(27)6/19、重慶市の重慶ビールの従業員500人余がスト。

・重慶市の重慶ビールの従業員500人余が、デンマークのビール大手メーカーのカールスバーグが筆頭株主になることに反対してストライキに入った。重慶ビールは10日、同社株式の約12%をカールスバーグが追加取得して持ち株比率を30%に高め筆頭株主になると発表。従業員側は、外国企業の影響が強まれば大幅なリストラが行われるのではないかと懸念し、反対を表明しストに突入した。

(28)6/27、大連市のBMWの販売代理店で支店長を含めた全社員がスト。

・BMWの販売代理店の北京燕宝汽車集団の大連支店で、支店長を含めた全社員がストライキを行った。社員たちは給料の一部未払いと一部人員に対する不当解雇に対する補償を求めている。関係者によれば同集団は、18日に大連支社の幹部職員全員を、「監査に非協力」という理由で解雇。これをきっかけにして全社員が報奨金の未払いなどをはじめとする待遇に不満を噴出させ、ストライキに突入。同集団の幹部が現地入りし、20%の昇給などの条件を提示し、解決しようとした。なお、同集団の北京販売店でも同様の動きがあった模様。報奨金の未払い額は既に数十万元に及んでいる。

一方、同集団の北京の楊世輝総経理は、6/27午後3時の記者会見で、このような動きを否定し、「報奨金は個々人の販売額によって異なるため、計算が遅れ支払いが遅れることがあるが、すでに全額支払い済みである。大連支店では4名の管理職が離職しているが、すでに新管理者が赴任しており問題はない」と語っている。

(29)6/29、天津市東麗区の日系企業天津三美電機の工場で、労働者数百人が賃上げを要求してスト。

・天津市東麗区のミツミ電機の製造子会社天津三美電機の工場で、労働者数百人が賃上げと待遇改善を要求してスト。同工場の従業員数は3300人余であるが、当初のストの参加者は20〜30人。次第に拡大し数百人規模に。30日は全生産ラインがストップ。7/03には交渉が妥結、工場再開。


2.ホンダ関連スト情報。

以下は各種のマスコミ情報などから摘出。ただし未検証。

 

・5/17、広東省仏山市南海経済開発区虹嶺路の本田技研工業の関連会社:本田零部件製造有限公司で、同工場の主力製品である4輪車用トランスミッション組み立ておよびドライブシャフト生産部門の従業員約300人が、賃金と待遇に不満を訴え、スト敢行。

・5/22、経営者側は、ストの首謀者2名の解雇を発表。労働者側はこれに反対して工場内をマスクで顔を隠してデモ行進。

・5/31、公司側が職場復帰にあたっての賃上げ条件などの説明会を開催。そこに100人を超える公司を支持する労働者らが参加。そのとき復帰を拒む労働者に公司側の労働者がビデオカメラを向けたため、公司側を支持する労働者とストに参加している労働者ら、合わせて数百人が工場内で乱闘。数十人の警察が出て収束させる。7〜8名の怪我人が出た模様。

公司側の主張 : 「スト継続を主張する労働者が、作業に復帰しようとする労働者を妨害したことから、労組の組合員との間で小競り合いが起きた」

労働者側の主張 : 「会社側の労働組合員が、就業を拒む労働者をビデオで撮影していたので、これを阻止しようとした労働者との間で乱闘になった」

・6/1午前、公司側が再度、説明会を開催し、24%の賃上げ案を提示。300人の労働者が参加。労働者側は昨日の暴力事件に関する公司側の謝罪を要求。交渉決裂。スト続行。

・6/1午後、ホンダの合弁パートナー広州汽車集団の曽慶洪総経理が、自ら現場に乗り込み、スト中の労働者と話し合い、「私が労働者代表と共に、公司側と話し合い、3日間で結論を出す。ひとまずストを中止するように」と説得をしたので、労働者側はストを解除した。

・6/4、33%の賃上げで本田零部件製造有限公司の労使双方が妥結。

・6/7、仏山市禅城区にある仏山市豊富汽配有限公司(日本のユタカ技研の中国工場で、ホンダの中国合弁工場にマフラーを納品)で、従業員460人中、250人前後がストライキ決行。3日後、妥結。

                
           仏山市豊富汽配有限公司                      広州本田汽車有限公司

・6/9、広東省中山市にある「ホンダロック」(本社は宮崎市、ホンダの中国工場に鍵を納品)の部品子会社で、従業員1400人中、1200人ほどがストライキに突入。

・6/17、広東省中山市にある「日本プラスト」の中国子会社で、従業員600人中、400人前後が賃上げを求めてスト。本社は静岡県富士宮市、ホンダ・日産などの中国工場にハンドルなどの部品を納入。

・7/7、8の両日、広州本田汽車有限公司で、一部労働者が賃上げを求めて時限スト決行。完成車組み立てラインが一時停止。その後、労使間で協議、合意に達しスト解除。スト参加者は、従業員1000人中、多くても数十人であったが、今までの部品工場とは違い、ホンダの合弁工場の本丸としての完成車工場で起きたストだけに、その衝撃は大きい。

4.トヨタ関連スト情報。

以下は各種のマスコミ情報などから摘出。ただし未検証。

・6/15、トヨタ自動車の天津工場に部品を供給する豊田合成の中国合弁会社:天津星光で、労働者が賃上げを求めてストライキ。経営者側が賃金改善の方向を打ち出したため、翌16日には労働者は現場復帰し、工場は通常稼動。同部品工場の従業員数は約800人、自動車の窓枠につけるゴム製品を生産している。

・6/17、トヨタ自動車グループの部品メーカー:豊田合成の天津市の自動車用内外装樹脂製品工場で、賃上げを求めて労働者がストライキ。会社側が賃金の20%アップなどの回答をしたので、20日に操業再開。

・6/21、広東省広州市南沙区の電装(広州南沙)有限公司で、労働者が賃上げなどを求めてストライキ。同社はトヨタグループの部品メーカーで業員数は約1100人。25日、労使双方が給与の約35%アップで妥結し、同日午後より稼動再開。なお、デンソーの労働者は、別途に独立系の労働組合の設立など200項目の要求を出し、会社側は2か月以内に明確な返答をすると約束したという。

 
    電装(広州南沙)有限公司

5.富士康科技集団関連情報。  広東省深セン市宝安区龍華・観瀾

・2010年に入って、台湾:鴻海精密工業グループの電子機器受託製造グループの富士康科技集団(ファックスコン)は、ノキアなど携帯電話の生産のコストダウンをはかるため、深?などの沿岸部から内陸部の工場に移管・拡大する動きを加速させていた。

・5月に入って、マスコミ各紙で、富士康での飛び降り自殺が続発しているとの報道が目立つようになった。5月末で、今年になって13人目(うち2人は未遂)。富士康の深セン工場の従業員総数は約40万人。中国全体では80万人超。

・5/27、中国の公安省、人的資源社会保障省、全国総工会が、「富士康の飛び降り自殺」の合同調査開始。

・6/5、山東省煙台市当局は、同市の富士康科技工業園が法定の従業員積立金の未拠出の調査着手。

・6/7、富士康経営陣は、連続する自殺問題を解決するために、従業員の待遇改善に踏み切ると発表。手始めに給与を条件付ながら67%アップ。 

・6/9、上海の鴻海精密工業グループに属する奇美電子の労働者数百人が、賃上げを求めてストライキ。

・6/10、富士康科技集団の親会社である鴻海精密工業グループの郭台銘会長は、同社の台湾での株主総会で、中国本土にある工場の一部を台湾に移動させる方針を明らかにした。富士康科技集団の陳偉良会長も、香港での株主総会で、「一部の工場を本土の北部やインド・ベトナムに移すことを検討している」と発言。自殺続出をきっかけに中国の労働行政当局などが富士康の労働環境を調査したり、同国の公式メディアが富士康を批判したりしたことに反発したものと思われる。自殺問題について郭会長は、会社に責任はないとの立場を改めて強調。「あまりに多くの社会的責任を会社が負うことはできない」とも語っている。

・6/13、香港のマスコミ各紙は、「富士康科技集団は工場の大半を省外へ移転させる予定で、深セン工場の従業員数は30万人減って、10万人ほどになる」と報じた。

・6/13、富士康科技集団は、「本土での事業は拡張するが、深センから撤退するわけではない」との声明。

・6/14、台湾のマスコミ各紙は、「台湾政府が海外の台湾系企業のUターン投資の呼び込みを本格化させるため、相続税や法人税の引き下げ、土地価格の引き下げなどの優遇政策を決定した」と報道。

・6/17、富士康科技集団の深セン工場は、すべての職種で人員募集停止。

・6/25、富士康科技集団は深セン市内にある同社の宿舎の管理を、外部委託に切り替えると発表。

   
  8つの門がある巨大工場:研究所の門   全ての建物に自殺防止用ネット(7/5) 従業員の応募に来た出稼ぎ工たち(7/5)

・6/29、各種マスコミは、「富士康科技集団が河南省鶴壁市に従業員30万人規模の工場を建設し、現地で10万人を募集する予定」と報道。鄭州市も名乗りを上げ、10万人の従業員を用意しているという情報もある。

・7/1、富士康科技集団は河北省廊坊市に、深セン市の主要生産ラインを移転すると正式発表。その他、天津、武漢、煙台、太原、成都などにも工場移転を計画中。

≪私見≫

広東省の汪洋共産党書記は、富士康科技集団のような労働集約型産業を、広東省から追い出し、産業構造の高度化を企図していた。それは出稼ぎ労働者の管理が、ストライキの多発などを含め困難を極めるようになってきたためでもある。たとえば広東省でのホンダの関連会社の従業員総数は多くても数万人規模で収まり、09年度の納税額は40万人を擁する富士康科技集団をはるかに上回った。つまり行政側からすれば、富士康科技集団などよりも、ホンダなどの方がはるかに重宝なわけである。

富士康科技集団も人件費などのコストアップ圧力を回避するために、深センからの工場移転を企図していた。

もちろん富士康科技集団の内陸部諸都市への移転は、労働者の雇用機会の拡大と税収の大幅アップにつながり、地方政府は大歓迎である。、富士康科技集団にとっても地方政府が誘致のために多くの優遇政策を繰り出すので大きなメリットとなる。しかしながら工場を移転させることは、現在勤務中の労働者の処遇の問題もあり、簡単ではない。そこに今回の自殺問題が生じてきたのである。

富士康科技集団の深セン工場の従業員数は40万人であり、自殺者数は11人である。その割合は、日本の昨年の自殺者数(約3万人)の1/10にも満たない。工場で自殺者が出ることは許されないことであるが、その数字がきわめて多いというわけではなく、マスコミが大騒ぎし当局が介入するほどではない。富士康科技集団の経営陣は、このマスコミの自殺報道を利用して、一気に工場の移転を加速させたとも考えられる。

5.各界組織・要人などの発言。

@5/26、温家宝首相。

・温家宝首相は訪問先の浙江省杭州市で、上海・江蘇・浙江の長江デルタ1市2省の責任者に対し、「労働力コストの上昇という新たな情勢に有効に対処せよ」と指示し、また「調和の取れた労使関係の構築、段階的な賃上げ、労働生産性の向上により、企業の発展と就業関係の安定を同時に図るように」と要求した。

A6/15、温家宝首相。

・温家宝首相は北京市内の地下鉄工事現場で働く出稼ぎ労働者の慰労に訪れた際に、「われわれが享受している富や高層ビルには、あなた方の厳しい労働と汗が凝縮されている」、「あなた方の労働は輝かしく、社会全体から尊重されるべきだ」と述べた。このところ相次いでいる労働争議には直接触れてはいないものの、労働者らの待遇改善要求に一定の理解を示したものといえる。

B6/4、中華全国総工会。

・中華全国総工会は傘下にあるすべてのレベルの労働組合に対し、「外資系や台湾・香港資本などの非国営企業内で労働組合を設立、出稼ぎ労働者も組合への参加を促進するよう」に通達した。また「各レベルの労働組合は党の指導のもとで活動すること、従業員への思想・政治工作を強化すること」などを指示した。

C6/12、汪洋広東省共産党書記。

・省政府主催の産業構造高度化に関するテレビ会議で、「産業構造の高度化には、人間を中心に置くことが必要である。特に企業経営や管理方面で、それを具現化することが必要である。最低賃金基準の実施状況を全面的に調査し、労使問題の解決に当たっていく。残業や低賃金に依拠した製造業からの転換を図る」と、述べた。

D6/17、王栄深セン市共産党書記。

・市内の企業を視察した後、企業関係者に、「過去30年間、各種企業が就労問題の解決に貢献してきた。現在は1980年生まれ、90年生まれの新世代が労働力の中心となり、企業や社会は彼らの精神的な欲求に応えなければならない、歴史的な新しい転換点を迎えた。政府と企業、地域社会が協力して労使の良好な関係を築き、企業の発展環境を整え、さらなる社会の安定を求めたい」と語った。

E6/27、深セン市共産党委員会・政府の「意見書」。

・深セン市党委と政府は機関紙上で、「経済発展方式転換の加速と和諧的労働関係構築に関する若干の意見」を公表。その中では、「最近の労使関係の問題は、人(労働者)を軽視してきたことに問題がある」と企業側を断罪し、今後、「@.企業の労働環境を検査し、違法な点は厳しく罰する。A.労働問題に関する『集団協議制度』を全面的に推進する。B.非公有制企業で党・大衆団体・労働組合の組織建設を強化する」ことなどを指示している。

F6/20、広東省総工会発表。

・広東省総工会は、労働者の民主的な管理を規定する「広東省企業民主化管理条令」を近く制定・発表することを明らかにした。総工会は同条令について、「従業員が企業・組織から民主的に管理される権利を保障するための法的なバックボーンとなる。同省内にある各種の労働組合が、適切なルールの中で、従業員を管理しているか企業を監督し、従業員の権利を保障する制度とする」としている。

G7/07、広東省総工会:陳偉光主席。

・陳主席は広州市衛生業界労働組合の設立式典で、「労働者の声を代表しない労働組合と労組幹部は淘汰されるべき」と演説した。また孔祥鴻副主席も、「南海のホンダ部品工場では、大事なときに(ストをした労働者が)労組の言うことを聞かなかったのはどうしてなのか? 労組幹部はよく反省すべき」と糾弾した。

H香港中小型企業連合主席・劉達邦氏。

・「賃金が高くなるに伴い土地も高くなり、得られる利益は更に減少する。利益が少なくなれば工場は自分の故郷に戻るか、他の低コストの国へ移住するしかない」と予想し、年末までに珠江デルタ地域から、香港企業が1000〜2000社、閉鎖撤退するとの見方を示した。

I6/19、陳徳銘商務相。

・テレビの取材に応じて、中国各地でストが相次いでいることについて、一連のストは適時処理しており、「全国的な動きにはなっていない」と強調し、さらに「賃金の適度な上昇を保証する必要があるが、同時に企業の賃上げ受容能力も重視しなければならない。また中国の人口は2030年代に約15億人となり、ようやくピークを迎える」と述べ、現段階での労働力不足説を否定した。

J6/19、馬秀紅商務次官。

・国内外の企業代表が参加した会議で、中国政府は、「企業は社会的責任を果たし、労働者の権益保護を重視すべきだと強調したい」と述べ、「対外開放の基本国策は揺らぐことはなく、国内外企業のためによりよい投資環境を提供することに尽力する」と語った。

K6/23、岡田邦彦名古屋商工会議所会頭。

・23日の記者会見で、「中国が世界の工場として非常にキャパを上げてきた段階で、さすがに潤沢といわれてきた労働力の需給が逼迫してきた」とした上で、「労働力需給の逼迫感からくる一つの自然な流れではないか。そう心配していない」との認識を示した。また「民族資本の企業でもストは起こっている。日本企業が狙い打ちされているわけではない。国がどう出るかも関心を持っているが、国が介入していることはない。もう少し事態を見守る必要がある」と話した。

L6/24、ホンダ経営者陣。

・ホンダ経営者陣は、東京都内で開催した株主総会で、最近、中国で労働争議の影響で断続的に工場の操業が止まる事態となったことについて、「労使のコミュニケーションを強化することによって、円滑な労使関係の構築に努める」との意向を表明した。

M6/24、トヨタ:小沢哲副社長(総務人事担当)。

・トヨタの小沢副社長は株主総会で、ストライキが多発している中国での労務問題について、「急速な経済発展の過程にある中国で、ある程度の賃金上昇を求めた労働問題が起きることは十分想定していた」、「必ずしも正しい情報が行き渡らない中、インターネットなどで扇動された争議も頻発している」、「従業員の適切な処遇、従業員との双方向のコミュニケーション、賃金が上昇した分の生産性の向上という3つの視点を持って問題に取り組むことが肝要だ」との考えを強調した。

N6/18、日産の中国合弁会社=東風汽車有限公司の中村公泰総経理。

・中村総経理は現地で記者会見し、中国の自動車部品工場などで、賃上げを求めるストライキが相次いでいることに対し、「あるレベルまでの賃金上昇は避けられない」との見解を示し、「ストは連鎖反応するし、1か所に起きると飛び火する」、「賃金の引き上げ幅については、個別にやる話ではないし、地域ごとに歩調を合わせ、あるレベルでまとめていかなければならない」との考えを示した。さらにストを予防するためには、「コミュニケーションをきちんととることが重要であり、中国のリーダーが中国の従業員と話をすることが重要。工会を組織して出稼ぎ労働者に加入してもらい、コミュニケーション向上に努めることも必要である」と指摘した。さらに「部品メーカーと緊密に連絡を取る」と強調した。

O広州汽車有限公司(ホンダ・トヨタの中国での合弁相手)の張房有会長。

・張会長は英国のマスコミ紙で、「労働者側の要求は基本的に同じ内容であり、賃上げと待遇改善を訴えている」、「熟練工に比べて新入社員への支払いは十分でない。それは構造的な問題である」、「合弁企業における外資側幹部は労働者の不満や労働争議の解決方法に対して理解が足りないケースがしばしば見られる」と指摘した。

P香港の大手電子製品OEMメーカー:WKKの王忠桐会長。

・王会長は記者会見で、「今後5〜10年は、世界中のどの国や地域も、『世界の工場』中国に取って代わることはできない。珠江デルタには川上から川下まですべての産業が揃っており、明らかに集積のメリットがある。わが社にとってコスト高の影響は限定的であり、本土内陸部や他国に工場を移転する考えはない」と述べた。

Q5/27、香港の大富豪:長江実業の李嘉誠会長。

・李会長は香港のラジオ放送で、富士康問題に触れて、「他人を批判することは簡単だが、経営上の苦労は経営者にしかわからない」と、富士康の郭台銘会長を擁護した。

R6/02、米アップル社のジョブズ最高経営責任者。

・ジョブズ氏はウォールストリート・ジャーナル紙主催のパネルディスカッションで、同社の生産委託先である富士康で従業員の自殺者が出ていることに触れて、「富士康は搾取工場ではないが、現在、何が起きているのか、またどのような改善方法があるのかを見極めようと努めている」と発言した。

S7/10、王岐山副首相。

・王岐山副首相は北京で、日本の国貿促の訪中団との会議で、「今年に入ってストライキが多発しているが、これは今までに累積してきた問題であり、経済の発展段階では労働賃金の上昇などは自然なことである」と語った。




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