上海発中国万華鏡・日系証券会社アナリストからのレポート

上海から見た中国経済の現在


上海から見た中国経済の現在
2009年3月2日 上海発

豊さと社会の安定

 2008年12月、中国の預金総額は約45兆元。このうち、企業預金は約25兆元、個人預金は約20兆元。

 (1元=15円で考えれば、300兆円になります)。

 2009年1月の自動車販売台数(73.5万台、うち乗用車は61.0万台)及び贅沢品販売額は、単月ベースでは、瞬間的にアメリカ(1月新車販売は65万台)を抜いて世界1になりました。新車販売台数は、2007年880万台、2008年930万台。また、贅沢品販売額は、2008年は30億米ドルで前年比20%増でした。

 2000年以降続いた長期好景気の下で育った消費者マインド及び急増した個人資産のおかげで、個人消費はさほど落ちていません。これは、新年の百貨店売上高や国内旅行などから見られます。

 自動車市場(国内市場)の現状をみてみますと、カーローンの利用率は5〜10%程度にとどまっています。つまり90%は現金で車を購入してることになります。

 ローン市場はまだ、未熟であると解釈できますが、現在の中国ではむしろ国民性(年間でみた可処分所得に占める預金の構成比は都市部では約25%)によるというべきでしょう。

出稼ぎ労働者と都市部の「新米社会人」

 北京や上海のような大都市は約300〜400万人を吸収しています。このほかにも大都市では数多くの出稼ぎ労働者を吸収しています。

 出稼ぎ労働者が従事する仕事は、サービス業(ホームヘルパーやマッサージなど)、工事現場労働者などで、平均月給は1,500〜2,500元、年間で換算すれば18,000〜30,000万元。このうち、かなりの部分は貯金または故郷への送金にあてられています。輸出型企業中心に求人が急減する中で、職を失った人は少なくありません。しかし、最悪の場合でも農民には土地がありますので、自給自足できます。

 農民に比べて、厳しい状況に置かれているのは、都市部の新社会人、大学新卒、結婚前の若者たちです。彼らの月収は3,000〜5,000元程度、年換算にすると、36,000〜60,000元。彼らの多くは、結婚するために百数十万元の住宅ローンを組んで百数十平方メートルのマンションを購入(2008年央までの状況)したり、車を買ったり(1300ccクラスの国産車なら5〜10万元)、IT・デジタル製品を次から次へと購入したり、海外旅行を楽しんだりしています。彼らは、これまで「不況」とは無縁であり、収入を考えながら計画的に消費するという習慣はまだありません。こうした人たちは「月光族」(毎月の収入をその月のうちに使い切る)と呼ばれています。彼らは失業の危険にさらされ、逃げ道がありません。住宅ローン金利は2007年8月、わたしが上海に来たばかりのときに年率7%を超えており、聞くだけで怖くなりました。現在は4%を切る水準まで下がってきました。

株式市場の現状について

 2009年に入ってからの上昇相場が2月中旬にピークを打ち、その後下がってきました。(上海総合株価指数は12月26日1851⇒2月13日2320⇒2月27日2082)

 その背景は、以下のようにまとめることができます。

 1月からの株価急戻りの原因は、1月のマネーサプライは約1.6兆元で、これは前年同期の約2倍です。このうちの相当部分は株式市場に流れ込んだといわれています。

 そして、一般個人の株取引のための新規開設口座数は、週間ベースで15〜20万口座で推移し、個人の資金も株式市場に流れ込んでいます。

 また、国有企業が政府からの指示を受け、12月には約1,000億元、1月には約1,500億元を緊急投資したとの説があります。

 2月の株価下落の理由を考えてみると、まず、政府の4兆元経済刺激策の発動をめぐる相場が一巡したことがあげられます。政府は株式市場の急騰も急落も避けたいところで、株式市場に対して企業の資金調達の場として高い期待を寄せてはいますが、救済資金の流入を警戒しています。政府は「経済対策は決して株式市場を救うためのものではなく実体経済を救うためのものである」と明言しています。

 2月中旬、銀行業監督管理委員会、証券監督管理委員会が、経済振興資金のうち、証券市場に流れこんだ資金について調査を始めました。

 「創業板」(=マザーズ)市場の創設についても再度ほのめかしています。

 また、これまで半年間止まったままのIPOを再開するとの発言も出ています。;

元気のある産業、元気のない産業

 元気な産業は、食品、薬品、農作物加工や服装、婦人・子供用品などの「伝統産業」もしくは従来型産業と、建設業、セメント、建設機械などのインフラ関連産業があげられます。

 一方、元気でない産業は輸出型産業、欧米系金融機関などです。

 貿易保護主義が台頭するなかで、中国政府及び企業は、かつてのように労働集約型産業による輸出振興の時代は終わったと認識し、技術集約型・資本集約型産業の育成(10業種の振興策の発表)に力をいれています。但し、電機や建機のような産業は中国では技術開発力及び基幹部品の製造技術が依然未熟な状態だといえます。

 今後10〜15年の長期的経済対策としては、農村、農業、農民の「3農問題」の解決策が重要な位置に置かれています。

 2006年に農民に関係するすべての税金を廃止したのにつづき、2008年から、農業の産業化(近代的な経営手法を農業に取り入れること)を推進するために、「農村の土地流転」(流=流動化、転=回転)を実施し始めました。

 つまり、従来、農民の家族単位にとどまっていた農地の利用や農作物の栽培などを、農業用地として使用することを前提に、産業資本及び金融資本(企業・個人)に貸し出すことのできるように関連制度の整備を進めることになったわけです。

  これによって、従来GDPにカウントされなかった農村部土地の価値が計上され、GDPへの新しい寄与要因となります。同時に、農民の資産形成にも役立つことになります。;

中国経済のハイライトは・・・

 絶対的に不足している公共施設(インフラ)関連の建設投資、(例えば、北京ー上海間高速鉄道、上海万博施設及び上海の関連インフラ)、上海では、地下鉄は9号線まで開通しています。2015年までに、全部で18本開通する予定となっています。現在、工事中の地下鉄の駅は110ヶ所ほどあります。

 2月、証券市場には、中国政府が人民元を30%引き下げようと計画しているとの噂が流れましたが、これに対して中国当局は直ちに、「輸出が止まったのは為替のせいではないので、為替操作で輸出が回復できるわけはない」と反論しました。

 服装のボタンや靴など決してハイテクではない製品の製造で世界のボタン市場や靴市場を制覇した浙江省温州の民営企業は、2007年まで北京・上海の高級不動産に大規模な資金を投資したため不動産価格を吊り上げました。

 (例えば、山手線より一回り小さい上海の内側循環道路内の新築高級不動産の価格は、1u当たり約35,000元   :2007年ピーク時は50,000元)

 最近、この種の資金はアメリカの不動産市場に流れ込んだとの話が出ています。

 大雑把に計算すれば、中国は輸出額がGDPの約35%に相当します。

 12月、1月の輸出額は前年同期比それぞれ約20%縮小しました。つまり、年間換算して、GDPへの寄与度は−0.8になります。

 2月、一部先行指数は戻り始めています。しかし、4兆元の効果がいつ、どの程度出てくるかについて、現時点では、明言する人(政府、経済学者など)はまだいません。

 中国経済の先行き(今年後半か来年前半あたりまで)を見通すとき、決して暗くないと確信できるのは、なんといっても、国民、経営者、政府がともに悲観論を強調しない、煽らないというところにあるといえます。経済をリードする中国の経済学者や成功した企業家、また海外の経済学者、企業家によるセミナー、討論会、さらには新人企業家へのアドバイスなどの番組がテレビで再三放送されており、政府が国民に失望させないように懸命に、国民の目線に合わせて経済対策を考案し、強力な対策を迅速に打ち出しています。これらを支えているのは数多くの優秀な人材(もちろん、まだ、億単位で教育レベルの低い人もいますが、中国の歴史は「英雄創造歴史」といえます)です。

 中国には依然として躍動感を感じることができます。

 なお、2008年、中国から日本への観光客数は100万人(約20%は商業目的、観光客は80%)に達し、香港・マカオ・台湾を除く海外への観光客の約13%は日本向けであり、国別では日本は(タイを追い抜いて)第1位になりました。一方、日本から中国への観光客数は340万人となっています。


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